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僕の好きなアジア映画25:大仏⁺

『大仏⁺』
2017年/台湾/原題:大佛普拉斯/104分
監督:ホアン・シンヤオ(黃信堯)
出演:チュアン・イーツェン、チェン・ジューション、レオン・ダイ、チャン・シャオフアイ、チェン・イーウェン

これはなかなか入り込みづらい映画かもしれません。まず登場人物に華がありません。一人は仏像を製作する会社の夜警、一人は刑務所を出所したばかりの廃品回収、加えてもう一人は職も定かではない流れ者、まあ浮浪者というべきか。台湾社会の底辺を生きるこの冴えない3人が出てきて絵面に華があるわけがありません。

その上物語はなかなか劇的に展開しません。主に夜警と廃品回収が、会社のオーナーのドライブレコーダーの映像(白黒の映画だけれどレコーダーの映像だけがカラー)を暇に任せて延々と盗み見ている状態が、淡々と映し出されます。そして登場人物たちの心情を監督がナレーションでボソボソと表現してみたり、音楽も含めてなんか不思議な感覚に陥る映画です。

飽きることなく映像を見ていた二人が驚くべき映像に出くわします。オーナーが製作中の仏像の前で、女性を殺めてしまうのです。この恐ろしい場面に実は社長が鬘だったことを見せるブラックな笑いが挿入されます。こういう感覚は嫌いではありません。

そして女性を殺した時にはまだ仏像の首は溶接されていませんが、翌日オーナーが徹夜をして仏像の首を溶接したことが示されます。果たして死体はどこに(恐)。

オーナーの殺人を目撃した二人ですが、それを訴えることも、あるいはオーナーを脅すこともしません。一人は事故で死亡(明確には示されないけどおそらく消された)。一人はオーナーに病気の母の話を持ち出され、暗に口止めをされます。しかし廃品回収の男が死んで、初めてその男のことについて何も知らなかったことに友人たちは気付きます。

富める者は富み、罪に問われることもなく。貧しいものは彼らに踏みつけられ、そこから抜け出すことができません。台湾の地方都市の経済的、社会的格差の現状、そして彼らの孤独を描きます。仏像という神聖なものの前で、それを制作するものによる醜悪で不敬な行為を、そしてそれを傍観することしか出来ない社会的弱者を映画は映し出します。

何が起こったのか明確には示されませんが、最後の仏像の奉納の場面での異変や、エンドロールでの仏像制作工場の崩壊は、あまりに愚かな人間に対する仏の怒りと考えて良いのだと思います。なんか後からじわ〜っと効いてくる、特異な映画です。


2017年に東京国際映画祭で上映されただけで、日本国内での上映はありませんが現在JAIHOで配信中。台北映画祭グランプリ受賞作。


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