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市場との対話で実現するR&D部門のDXとオープンイノベーション~Makuakeビックデータを活用した技術の用途探索

社内の研究成果や保有技術を、スピード感を持って新規事業につなげる方法に苦慮している企業が増えています。加えて、コロナ禍で市場環境が様変わりする中、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進も求められています。
そこで今回は、データ可視化による予測分析などを手掛けるVALUENEX株式会社の中村達生社長をお招きし、「Makuakeビックデータを活用した技術の用途探索」をテーマに、企業が抱える課題解決の具体策についてパネルディスカッションを行いました。

【スピーカー】
VALUENEX株式会社 中村達生氏 代表取締役社長 CEO 博士(工学)
株式会社マクアケ 共同創業者・取締役 木内 文昭

【中村氏講演】データを俯瞰で見れば、新しい発見が得られる

VALUENEXの使命は、クライアントが抱える課題を解決する策を考え実行し、次のステップに進んでいただくこと。具体的には、データ可視化による予測分析と戦略開発等によるサポートを行っています。

ここ数年、日本企業から新規事業創出など、新しい領域にどう入っていけばいいのかという相談が多数舞い込むようになりました。詳しく伺うと、実は社内には技術もアイディアもたくさんあるのですが、新商品・サービスを上市するには一定以上の額を投資しなければなりません。その壁をなかなか乗り越えられないでいるのです。
投資を決めるためには、社内のどの技術やアイディアが有望なのか、データを基に判断する必要がありますが、見極める方法の一つが、当社が手掛ける「俯瞰解析」です。

人間は直線的にものを考える癖があり、指数関数的に考えるのは苦手な傾向があります。マーケットは急速に変化しているのに、「これまでの5年はこうだったから、次の5年もきっとこうだろう」と無意識のうちに決めつけてしまう。だからこそ、俯瞰しロジックで考える必要があるのです。

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この俯瞰図は、アメリカの電気自動車メーカーであるテスラの特許情報と、保険会社に帰属する特許情報の分布を示したもの。一つひとつの点が特許で、内容が近いもの同士が近い点になっています。
右側に集中している赤い点がテスラの特許で、左側の青い点は保険会社の特許です。

ただ、中心部分を見ると、保険会社の領域と思われるところにテスラの特許が入り込んでいるのがわかります。これは、ドライビングシグナルに関する技術の特許であり、電気自動車の自動運転を進めるテスラにとっては重要な技術なのですが、保険会社にとっても査定を行う際に必要な技術です。
このように、重なり合っているところを俯瞰して見ることで、「テスラ自身が保険領域に進出するのは必然であり、自動車をベースにサービス産業に軸足を移そうとしている」ことが見て取れます。
従来の枠組みでは「テスラ=電気自動車メーカー」という認識になりますが、俯瞰して見れば「テスラ=サービス産業」という事実が見えてくる。これが俯瞰分析の強みです。

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しかし、せっかく社内に多くのデータがあるのに、それぞれが職種に紐づいてしまっているためにバラバラに保管されているケースが多いのが現状。例えば、R&Dは技術情報、法務は特許情報、マーケティングはカスタマーボイスの情報を、それぞれ抱え込んでいます。これらをアナリティクスの観点でクロスさせることで、新しい発見が得られるようになります。

口コミ情報やアンケート結果などのデータを俯瞰分析した場合、多くの人に言われていることが高集積になります。例えば、衣服において今注目されているものを俯瞰分析したところ「やわらかい」「あたたかい」「気持ちいい」などの形容詞が上がってきたとします。これを製品のレイヤーで見ると、「柔軟性」「保湿」「快適性」などの表現に置き換わります。
さらにこれを、技術・研究情報と照らし合わせると、具体的な特許情報、論文情報に行きあたります。それをベースに、既存技術をもとに開発できるものなのか、他社の特許技術のライセンス契約が必要なのか、それとも新しい技術を自分たちで開発する必要があるのかなど、開発戦略について議論が進められるようになります。

100%完ぺきなデータというものは、世の中には存在しません。だからこそ、1つのデータをもとに考えるのではなく、社内のさまざまなデータの組み合わせにより多様性の担保とデータ欠落の補てんをするべき。俯瞰分析を取り入れることで、これからの方向性を見出すことができ、変化にも柔軟に対応できるようになると、我々は考えています。

【Makuake木内講演】ビジネス拡張の鍵はカテゴリーイノベーション

Makuake Incubation Studioの取り組みを通じて、さまざまな企業と関わってきましたが、最近の大手メーカーとのディスカッションポイントは大きく2つあります。

1つは、自社が保有する研究開発技術を生かし、いかに市場に求められる商品や事業を生み出していくか。もう1つは、既存の商流はそのままに、どのように市場と対話して商品開発をアップデートしていけばいいか。この2点について頭を悩ませている企業が非常に多いと感じています。

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これらの課題解決のポイントは、新規顧客市場におけるカテゴリーイノベーション。すなわち、開発済み研究開発技術の用途展開で、新しいビジネスを生み出すことだと考えています。
例えば以前、シャープが日本酒を作りMakuakeで上市しましたが、これは液晶技術をベースに開発した蓄冷材料を活かしたもの。大きな反響を得て、3千本を完売することができました。

Makuakeは1万5千件以上のプロジェクトデータが集まっているマーケットプレイス。VALUENEX社と提携し、これらのデータを俯瞰分析すれば、技術の用途探索が可能になります。今後は技術を起点とした商品開発プロセスのトランスフォーメーションを実現して、日本のモノづくりの現場を応援したいと考えています。

【パネルディスカッション】俯瞰というアプローチが新規事業の納得度、腹落ち感アップにつながる

――本日のイベントタイトルに「市場との対話でDXを実現する」とありますが、我々は何をトランスフォーメーションしているということなのでしょうか?

中村氏
一言で言えば固定観念からの脱却だと思います。コロナ禍で人が移動しなくなり、リモートワークが当たり前になったことで、マーケットはさらに予想もしない方向に変化すると考えられます。だからこそ、固定観念を一度取り払う勇気が必要。これまでやってきたことをベースにするのではなく、今後何をすべきなのか新たに考え直す。これが本当の意味での変革、トランスフォーメーションなのだと思います。

木内
今のお話のように、未来の目標や状況を想定し今何をすべきか考えるというバックキャストな観点が重要である一方で、他社との差別化など、自社の技術を起点にフォアキャストで未来を考えなければならない側面もあると思っています。今後はバックキャストとフォアキャスト、この2つのトンネルをつなぎ合わせるような考え方が大切だと思っているのですが、俯瞰技術がどのように生かせると思われますか?

中村氏
俯瞰には、物事を「広く見る」と「長く見る」の2つの概念が含まれています。そのため、さまざまなデータを俯瞰分析することで、その会社のプリンシプル(原理原則)を明らかにすることができます。日本のメーカーは歴史が長い企業が多いので、俯瞰により原理原則に立ち戻れば、それを強みとして捉え、未来につながるような新しい商品開発ができるようになるはずです。

ちなみに、簡単でやりやすいのは、今の技術を使ってその隣の領域に移るという方法ですが、俯瞰すればその「移りやすい領域」を見える化することもできます。

――一方で、新規事業に対する社内の投資決裁を通すために、さまざまな理屈を積み上げなければならない大変さも、皆さん感じていらっしゃると思います。

中村氏
大事なのは「ストーリーを作ること」だと思います。データはそれぞれ単体で存在しますが、それらをつなげてどういうストーリーを描くのがもっともらしく、皆が腹落ちできるのかを考えることが重要です。
でも、それだけでは少し足りなくて、担当者がどれだけそれを「Will」として主体的に捉えているかが最後の決め手となります。起案する人が思いを持って臨み、最後まで主体的にかかわるという覚悟を持っているかどうかが、見られていると思います。

木内
私は、中村さんがおっしゃった「ストーリー」に、社史を取り込む方法も有効だと考えています。
社史を読み解くと、多くの会社の創業者は「実現したいこと」が明確であり、実現するためにひたすらピュアに突き進んできました。そして、それが今の企業カルチャーを形成しています。これまでの歴史を振り返ると、一見非連続に見えるかもしれませんが、「実現したいこと」そのものは実は「創業者の思いの現代版解釈」のような視点にヒントがあるのではと思っています。
従って、新たに起案する際には、創業者の思いになぞらえて説明すると、決裁者が否定しにくくなると思います。データを俯瞰してストーリーを作り、そこに会社の歴史をうまく混ぜ込む。こうすれば、よりパワフルな提案になると思われます。

中村氏
技術やマーケットなどさまざまなデータがベースとなったストーリーには、客観性が出るため説得力も上がると思います。
なかなか新規事業を生み出せないと苦しんでいる企業が多いことは、私も日々感じています。このようにMakuakeと我々が協働することで、より強力なサポートできるようになると思います。

<了>

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