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そういえば、先日自宅が火事にあいまして。


「先日、自宅が火事にあいまして」
そんな聞き慣れない言葉がまさか自分の口から出る日が来るなんて思わなかった。

1ヶ月ほど前の3月29日の深夜、愛を込めて手を入れてきた家が全焼した。それは、出火してからたった3時間ばかりのことだった。

何もできず目の前で燃えていく家を見つめている時間は永遠のように感じた。

数時間前まで、地域の人たちにたくさん手伝ってもらいながらDIYをしていた。その夜は、DIYの最終日。お疲れ様、と仲間たちと温泉に入り、近所の行きつけの中華屋さんでご飯を食べ、静かに就寝した。シェアハウスメイトよりも一足先に私たち夫婦が引っ越してきて迎えた、3日目の夜のことだった。

その日の午前3時すぎ、首が痛く胸が苦しく、ふと目が覚めた。目を開けると、いつもと違う気配を感じた。何かがおかしい、へんな匂いがする。

すごく嫌な予感がした。飛び起きて、隣で寝ている夫を起こす、
無意識のうちに叫んだ言葉は、「ねえ、火事!起きて!!」だった。

このにおいと煙、ここにいてはいけない、野生の勘が私を急かす。二人で枕元にある携帯電話だけを握り、外に飛び出した。パニックになりながらも、庭の芝生を裸足で駆け抜け、勝手口に回る。

勝手口についたと同時に、「バリン!」勝手口の窓ガラスが突然割れ、中から火が出る。

隣で唖然とそれを見ている夫に叫ぶ、「は、早く消防車!!」

夫が電話をしている声が聞こえる。私は何をするべきなのか、裸足で家の前の空き地を走る。「お願い、誰か助けて…」そう呟くけれど、家の炎はどんどん大きくなる。

藁にもすがる思いで、数時間前まで一緒にDIYをしてくれていた会社の代表に電話をする。一瞬、冷静になる。こんな時間に電話していいのか、遅い時間にごめんなさいといえばいいのか…

そんなことが頭によぎるが、「もしもし…」と寝起きの声が聞こえた瞬間に、安心して、何もいえなくなる…無意識のうちにごめんなさい、ごめんなさいと泣きながら次の言葉を探す。

「家が燃えて、燃えていて…」


一瞬の間があった後、「わかったすぐいく」と力強い言葉をもらって電話は切れた。

また何か割れた大きな音がする、遠くにいるのに炎が熱い。近所の方に知らせないと!と、唯一隣接しているご近所のおばあちゃんの家に必死で走る。

裸足のため、砂利が足に刺さるが、必死で隣の家のドアを叩く。「お願い起きて、お願い!」そう叫ぶが、おばあちゃんが出てこない。

今度は勝手口に回って叫ぶと、おばあちゃんがやっと起きてきてくれた。「火事です!お願いにげて!」そう叫ぶと、おばあちゃんはいった。

「あら、大変…私何を持っていけばいいかしら?」一瞬、私も頭が真っ白になる。何を持っていけばいいんだろう。

間が少し開いた後、「それよりも、命が大切なので、まずは一緒に逃げましょう」たどたどしくそう声をかけると、近所に住む息子さんが迎えにきてくれていたので、おばあちゃんを託す。

その後、一緒に住む予定だった、シェアハウスメイトとのKさんも連絡がつき、電話で話をした。すぐ来るという。ここら辺から記憶がない。

気がついたら、地域から消防団の方々が集まってくれ、消防署からポンプ車が来て、私は近所の方にサンダルを履かせてもらい、暖かい上着をかけてもらっていた。

家の前の空き地に座り込み、ぼんやりと燃えていく家を見つめる。

***
その家は青い屋根の平屋の立派な家で、今のオーナーのお父様が丹生込めた庭の芝がみごとで、みんなから「首相官邸」という愛称でよばれた。「首相官邸」には、Kさんと私たち夫婦の3人でシェアハウスをする予定だった。
住みながらも、地域の人や外から来る人々に開き、愛される場所にしたいと、DIYをしていた。Kさんをリーダーにして「あんなこともしたい、こんなこともしたい」そうみんなで夢をみていた。
そして、計50人以上の人に見学やDIYを手伝ってもらい、出来上がった際には庭でBBQでもしようね、なんて想像していた。
***

その数時間後に、私たちは空き地で膝を抱えながら、俯いている。
「首相官邸」の青い瓦が大好きだった。「青い瓦は、龍神様がいるんだってさ」引っ越しや片付けのたびに雨が降った首相官邸に、シェアハウスメイトのKさんが笑いながらそんなことを話していたのを思い出す。

そういえば、この日も雨が降っていた。いま、その青い瓦の上にはオレンジ色の炎が大きく天に昇っている。

空を見上げると、空から火の粉が降ってくる。幸いにも風が全くなったので、幸いご近所にも延焼せず、怪我人もいなかった。

鎮火した頃、少し遠くに住むオーナーさんが駆けつけてくれた。賃貸の契約者である、Kさんからオーナーさんはとても素敵な人だと聞いていた。まだお会いしたことないオーナーさんを想像して、DIYした後の姿を喜んでもらえたらいいな、そう思いながら繊維壁を漆喰に変えたり、畳をフローリングに張り替えたりしていた。

なのに初めてのオーナーさんとの対面が、まさかこんな状況でだなんて…
オーナーさんへの挨拶では、どんなことを言われても、構わない。
そう思ったけれど、オーナーさんの口から出た言葉は「あんまり、気落ちせんでください。倒れる前に休んでください」だった。

顔を見たら、とても優しい瞳をされていた。

悲しかった、悔しかった。本当はDIYが完成した家の姿を見て、一緒に喜んでもらいたかった。あなたたちに貸してよかった、そう言ってもらいたかったのに…
火災で、自分の持ち物が全て燃えてなくなってしまったことよりも、何よりもそれが悔しかった。

火事の当日は、警察や消防署の方々の何人もから永遠と同じ質問をされる。後から聞いた話だが、これは意図的に複数の人から同じ質問をするようだ。

なんども繰り返し伝える。「キッチンはまだついていません、お風呂も使っていません。この日は帰ってきて、私たちはただ寝ていただけです。」
2日にわたる現場検証の結果わかったことは、原因はわからないということだった。

電気系統の発火、DIYで使った塗料が稀に熱を帯びて発火、放火…この3つが原因の可能性として上がったものの、結論は原因不明だった。

火事の現場には、地域の消防団の方々、町長、副町長のほか、役場の方々や見知った方々がきてくださり、大変大変お世話になった。

たくさんの方々から、次々とお気遣いをいただいた。
遠くに住んでいる首都圏の友人からもたくさん支援をいただいた。
私たちは下着すら持っていなかった状態で、みなさんが次から次へと必要なものを与えてくれた。

仕事も自分自身を証明できるように手続きをしたのち、皆さんのおかげで1週間ほどで復帰できた。

また火事にあったことがきっかけで、実は私も火事にあったことがあって…と共有してくださる方に何名かお会いした。

火事にあったことがある、そう聞くと力が抜けるような、勝手に同志のように感じるような、不思議な気持ちになる。

「火事」と検索して出てきた、河瀬さんのnoteも大変勇気づけられた。

今は、まだ夫婦で会社の代表の家族のお家にお暇している。たくさんのお気遣いをいただき、日々幸せに生きている。

気づいたら火災から、1ヶ月以上経ってしまった。

そろそろ与えてもらう存在から、与えられる存在になりたい…
そんな野望を持ちながら自分たちの次の新しい拠点について、思いを馳せる。

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