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不登校はコロナのせい?

 このほど、文科省が毎年行っている「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の令和3年度の結果が公表され、30日以上学校を欠席している不登校児童生徒数が全国で24万人と過去最多を記録したことが明らかとなりました。この状況に関して文科省は、「新型コロナウイルス感染症によって学校や家庭における生活や環境が大きく変化し、子供たちの行動等にも大きな影響を与えていることがうかがえる。」という見解を示しており、不登校児童生徒数の大幅な増加の背景に、新型コロナウイルス感染症流行による行動制限があると指摘しています。また不登校の要因として最も多く回答されているのが「(子どもの)無気力・不安(49,7%)」、次いで「生活リズムの乱れ、あそび、非行(11.7%)」となっており、例年通り不登校の要因を子ども側に見出している結果となっています。各種メディアもこの文科省の調査結果と見解を無批判で報道しているため、「マスク着用や黙食で学校生活が息苦しい」「コロナで学校を休む罪悪感が減少した」というような不登校のストーリーが形成されつつあり、不登校支援に関わる立場としては非常に大きな危惧を覚えています。

 パンデミックが子どもたちに与えた(与え続けている)影響を軽視しているわけではありませんが、不登校という現象を全て「コロナのせい」にすることはできるのでしょうか。多様で複雑な不登校という現象を少しでも正確に捉えるためには、データを注意深くみていく必要があります。その点をふまえてこの文部科学省が毎年行っている調査を読みとく際、そもそもこの調査において①不登校児童生徒の定義が「年度間に30日以上登校しなかった児童生徒」となっていること、②学校が回答するものである、の2点を考慮に入れるべきです。

 ①について考えると、そもそも年間30日には満たないけれども行き渋りがあったり休みがちな子どもは「不登校」に含まれませんし、教室には入れないけれど別室登校や放課後登校をしている「学校がしんどい」子どもたちも計上されません。また現在「出席」の扱いについてもかなり学校によって対応が異なっており、恣意的な運用がされていることを見聞きしています。「校門を一歩でもくぐれば登校」になることさえあり、プリントを取りに学校へ行くだけでも「出席」となれば、これもまた「学校がしんどい」子どもたちが調査結果に計上されないことになります。さらに教育機会確保法によって、学校外での学びも広く認めていく方向に舵がきられ、フリースクールなどでの学習も「出席」として扱われるようになっています。文科省の調査では、「学校外の機関等で相談・指導等を受け,指導要録上出席扱いとした児童生徒数」がおよそ2万8千人(実数)いるとデータ開示していますが、このようにして出席扱いとなり不登校の数に含まれていない子どもたちの数がどれだけいるのかも分かりません。どこで学ぼうと「今の学校はいやだ」と意思表示している子どもたちの数も、本来であれば把握する必要があるように思います。多様な「不登校」の様態を定義し、線引きをすることはとても難しいことだとは思いますが、本来公教育のミッションが「子どもの学習を保障する」ことであり、その保障ができていない状態の子どもたちを把握して対策を検討するためには、「30日以上登校しなかった」児童生徒数をカウントすることだけでは不十分であることを指摘しておきたいと思います。

 そして学校が回答する調査だけでは不登校の実態を捉えることが難しいことの根拠として、文科省が令和2年度に実施した「不登校児童生徒の実態調査」を紹介したいと思います。この調査は不登校経験のある小学6年生と中学2年生の子どもたちとその保護者を対象に行われたもので、学校側が回答する調査結果との乖離が一時話題となりました。たとえば先の学校側が回答する調査において不登校の要因として最も多く挙げられていたのは「無気力・不安(49,7%)」となっていましたが、子どもたちや保護者の回答で多かったのは「先生のこと」(小学生30%、中学生28%)、「身体の不調」(小学生27%、中学生33%)となっています。「先生のこと」にいたっては、学校側の回答が1.7%(令和3年度)となっており、学校と当事者の認識のズレが可視化される結果となっています。私も関わっている「京都の不登校について考える会」が今月より始めた保護者を対象にしたアンケート調査では、28日の時点で現在行き渋り・不登校がみられる子どもたちの最初のきっかけとして最も多く挙げられていたのは「先生のこと」(複数回答で48%)となっており、文科省の当事者の実態調査を裏付ける中間結果となっています。こうした学校と当事者の認識にズレがある状態について全く触れられず、学校が子どもの側に不登校の要因を見出し続けていること、そしてその見解がそのまま流布される現状に警鐘を鳴らしたいと思います。

京都の不登校について考える会アンケート 中間報告

 というのもこのままでは、「学校が一方的に考えている不登校の要因」に対して「よかれ」と思う一方的な施策が展開されていく未来しか見えないからです。そうではなく、まずは学校に行けない、行かない子どもたちが、なぜ学校に行けない、行かないのか、何に困っているのかを聞くべきではないでしょうか。そしてその声をふまえて、実態に即した施策を検討し、子どもたちの学習を保障して欲しいと思います。

 不登校のきっかけとして「先生のこと」が挙がっているからといって、先生が悪い、などと乱暴なことが言いたいのでは決してありません。学校現場が多忙で余裕がなく、しんどい状況であることは理解も共感もしています。もう先生個人や個別の対応の改善を求める段階はとうに過ぎてしまっており、学校制度や環境に目を向ける段階にきています。しかし学校が学校側にある要因を見て見ぬふりをして、コロナや子どもたちに問題の原因を見出し続ける限り、学校制度や環境の改善に着手していくことはできません。「子どもたちが学ぶ環境として、はたして今の学校は最適か?」という問いを社会全体で共有することが必要であり、まずはその対話のテーブルに学校もついて欲しいのです。

 そのために、まずは当事者の声を集めて行政やメディアに届ける必要があると考えています。「京都の不登校について考える会」では、10月31日まで(京都市の)保護者を対象にしたアンケートを実施しています。1人でも多くの方の声を集めたいと考えていますので、ぜひ声を届けてください。

京都の不登校について考える会ホームページ
https://educationforallkyoto.wixsite.com/futoko

不登校に関するアンケートフォーム
https://forms.gle/GoBaeZBwtaZYoo1G7

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