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学校と家庭をつなぐ学びづくり〜「わが家の料理」を題材にしたオンライン親子ワークショップ

はじめに

2020年の春は、新型コロナウイルス感染拡大の影響下、世界中の人々がかつてないほどに家で過ごす時間の長い時期となりました。
昨年から、私は台所探検家として日本中の学校で「食から世界を伝える」授業をはじめましたが、それも教室で行うのはしばらくお休みです。

今少し立ち止まって、これまで私自身が訪ねた世界各地の台所で感じたことを振り返っています。そして改めて、家の中にこそ本当にわくわくする生きた学びの可能性があると強く感じるようになりました。
ブルガリアの少女は、おばあちゃんの保存食の知識から社会主義時代の苦労を克明に教えてくれました。ケニアの少年は、家の裏の森から果物でも薬草でもとってきて、何が起こっても自分でなんとかできる力強さを持っていました。さらに、家庭料理をじっくり見ると、その国の地理や歴史や社会背景までもが見えてくるのがたまらなくおもしろいと思っています。

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そんな経験を通して、料理は一番身近な学びの題材であり、社会とのつながりだと感じるようになりました。学校に行けなくても、海や山や博物館に行けなくても、日々の生活の中に発見があり気づきがあり、自分のまわりの世界を自分で変えられる、その手段が料理なのだと。

そう考えると、家で過ごす時間が増えるwithコロナの時代は、食・料理をきっかけに「家の中にある一生の学び」に取り組めるチャンスだととらえることもできます。

前置きが長くなりましたが、この記事は、料理からの学びを一緒に作っていくことに興味のある教育者の方に届くことを願い、書いています。ご自身がその立場でなくとも、応援してくださる方や親御さんは、ぜひこの記事を先生に届けてください。

「わが家の鉄板レシピをつくろう」親子ワークショップについて

クックパッドのミッションは、「毎日の料理を楽しみにする」。そのひとつとして、子どもたちに向けて料理を通した学びづくりにも取り組んでいます。
昨年からその取り組みをご一緒している静岡聖光学院中学校・高等学校と、ゴールデンウィークにあるオンラインワークショップを開催しました。

静岡聖光学院中学校・高等学校は、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)影響下でも教育活動を止めないことに全力を尽くしており、3月に日本中の学校が休校を余儀なくされる中、いち早くオンライン授業の実施を開始した学校でした。

通常時は寮で生活する生徒さんも多い学校ですが、今は全員自宅暮らし。今までになく親子で過ごす時間が長いこの大型連休に、親子のコミュニケーションのきっかけを作りたい・家だからこそできる主体的な学びを生みたいという社会科の平本教諭と美術科の勝山教諭から相談をうけ、「わが家の鉄板レシピ」を題材としてオンラインワークショップを一緒に計画しました。

この学校では、これまで子どもたちに向けてのオンラインでの授業は行っていたものの、親子でのオンラインでのワークショップというのははじめて。募集の告知から当日のフォローまで、丁寧に先生方がその準備にあたってくれたおかげで、中1から高3まで約30組の親子に先生方ご家族も加わり、2日間のワークショップが開催されました。

ワークショップではどんなことをしたのか

このワークショップは、90分 x 2日間に分けて行いました。
1日目:とびだせ!みんなの好きな味(①講義〜④レシピスケッチの作成)[90分]
2日目:あつまれ!わが家の鉄板レシピ(〜⑥鉄板レシピの発表)[90分]

①講義:導入ガイダンス
②講義:世界の台所のわが家の味
③ワーク:おいしさインタビュー
④ワーク:レシピスケッチの作成
⑤実際に作る!宿題発表
⑥発表会

以下、流れに沿って順番に説明します。

①講義:導入ガイダンス

「この授業は、家族で『うちの味ってこれだよね』を見つけて、静岡聖光学院のオリジナルレシピアルバムをつくるワークショップです。」

中高生のお子さんを持つ皆様、普段お子さんと過ごす時間はどれくらいあるでしょうか?学校、習い事、思春期...などとある中で、なかなかコミュニケーションも限られるのが現実ではないでしょうか。

そんな中で「食事」というのは、時間がずれていたとしても同じものを食べているわけで、日常の中で家族が共有している数少ない経験の一つだといえます。

家族で顔を合わせる時間が否応なしに多くなる連休だからこそ、「食事」を糸口に親子のコミュニケーションを生み、互いの価値観を再発見する時間にしようというのが今回の企画の裏テーマでした。

② 講義:世界の台所のわが家の味

「自分の家のことを考える前に、まずは世界の台所の"わが家の味"を見てみましょう。」

このパートは、異なる社会に目を向けることで、国を超えて家の料理がもつ普遍的な価値に気づくことを目的としていました。世界の台所探検家として岡根谷が、自身の見てきた中から二つの事例を紹介しました。

note_二つのわが家の味

一つ目はオーストリアのおばあちゃんのチョコケーキ、二つ目はインドネシアの村で作るカプルンという大鍋料理。
100年変わらぬレシピで作り続けられている継承の味と、くり返し作られつつもそのとき集まった人たちで毎回作りあげるみんなの味。「わが家の味」といってもそれぞれの社会を映した様々な形があり、人々をつなぐものであることは変わらない様子を覗き見ました。

③ワーク:おいしさインタビュー

「さて、ここからそれぞれ家庭の"わが家の味"に目を向けていきます。」

まず取り組んだお題は、「家の料理で好きなものベスト3は何?」。簡単そうに見えて、ちょっと考え込む表情も。親子それぞれで書き出し、その後互いに見せ合います。
書いた3つとも一致した親子はひと握り、1~2個一致が大半で、ひとつも一致しなかった親子も3割程度いました。(ちなみにわが家はひとつも一致せず、母のリストには聞き覚えのない料理もありました。)

毎日食事を共にしていても、お互いの好みや考えていることは意外にわからないもの。「わが家の味」といっても共通認識はないのかもしれません。だからこそそこに発見のチャンスがあります。

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このあと相互インタビューで、お互いの食の価値観や味の記憶を深掘りしました。「わが家はクリームチーズ焼きおにぎり。焼きおにぎりを作った時に僕がクリームチーズを入れてみたら、意外だけどおいしくてみんな好きになった!」
「僕が好きなのはカレーや餃子など自分で作ったもの。お父さんは手作りハンバーグ、牛ひき肉100%でつくるというこだわりを持っているのは知らなかった」

一致した料理には家族の共通の記憶があったり、
一致しなかった料理には意外に知らない家族の一面に気づいたり、
それぞれの発見がありました。

④ワーク:レシピスケッチの作成

「相互インタビューで見つけたお互いの"好き"を詰め込んで、5分間で5つの"妄想料理"をおえかきしてください。その中で"家族の他のメンバーも好きそうなもの"をひとつ決めて、それを元に料理のスケッチを作成します。」

このワークの目的は、料理を考案することではなく、家族ひとりひとりの立場になってみること。二人の好きはわかったけれど、その場にいないお兄さんや妹さんはどうでしょう?
この段階では実際に作れるかどうかは気にせずに、家族全員の喜ぶ顔を想像して、理想の料理を描きます。

90分のワークショップの最後には、家族の数だけ「わが家の鉄板レシピのスケッチ」がうまれました。
「家族みんなが好きなそぼろを、各自の好きな味付けで楽しめるようバージョンアップした『そぼろの革命』!」
「甘いのが好きな一家のために、料理の味付けを甘くしてくれるお母さん。食後のデザートを作って喜ばせたい!」

鉄板レシピやわが家の味というと、すでにあるもののようにも思えますが、家族内の価値観を取り込んで、自分たちで新しく生んでいくものだってあっていいのです。この時間で”自分たちで決めた"鉄板レシピの数々が並びました。

ここまでで1日目終了。しかしここからが本番です。

⑤実際に作る!宿題発表

宿題では、スケッチで描いた料理を実際にお家で作ってもらいます。

ここでお願いしたのは、できるだけお子さん主導でやってほしいということ。
包丁の握り方ひとつにしても、毎日料理をする立場の方から見たら手を出したくなることもあるでしょう。
しかし、やってみることで考えたり得る学び、そして作る過程で”否応なしに”発生するコミュニケーションを大切にしたいという思いがありました。

料理をした後は、クックパッドを使ってレシピにまとめてもらいます。

⑥発表会

↓先生が作成されたダイジェスト動画です。

1日目のワークショップから3日後。参加者が再びzoom上に集合しました。
集まった「わが家の鉄板レシピ」を、ひと家族ずつ発表してもらいます。

発表のポイントは、「作ってみて一番楽しかったこと・得た気づき」
「家族みんなでお好みクラシックショコラ。トッピングを考えるのが楽しかった!」
「昔はよく作っていた餃子を、時間がある今だから皮から手作りした。みんなで包むのが楽しかった!」
「作るのは楽しかったけれど、包丁を落としたらこわくなった。普段料理をしてくれているお母さんはすごいと思った」

料理の発見、普段料理している方への感謝など、様々な発見がありました。ある親御さんの話では、ワークショップの時は恥ずかしがっていた子も、料理を作るとなると楽しそうに張り切りだしたそうです。

「わが家の料理」という題材に同じように取り組んでみても、作る過程の楽しみや家族の関わりなど、それぞれの家族によって観点が異なり、多方面に広がる学びの可能性が感じられました。

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ここまで読んでくださった方へ

今回のワークショップは、学校が再開して通常の授業が行われるようになっても、全国の家庭に向けて実施していきたいと考えています。料理を通して、学校と家庭をつなぐ学びを作っていきたいと考えています。

この他にも、SDGsに取り組む授業、クリエイティブクッキングバトルなど、小~高校生を対象に様々な教育の取り組みを行っています。
料理からの学びづくりに少しでもご興味を持ってくださった教育者の方、一緒に取り組みたいという先生、ぜひクックパッドコーポレートブランディング部<cb@cookpad.com>までご連絡ください。

最後に改めて、この企画をご一緒させていただいた静岡聖光学院中学校・高等学校の先生方、特に平本先生と勝山先生にはお礼をお伝えしたいと思います。



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