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来月、空を飛ぶ方法を最大化する〜SFではなくPMの話〜

仮に上司から「空を飛びたい」と言われた時に何ができるか、また何かしらの「プロジェクト」を「マネジメント」するとはどういうことなのか、という小話です。

来月、空を飛ぶ方法

十二月中旬の月曜日。ほんの数週間前までは例年より暖かい気がしていたが、今日は凍えるように寒い。通勤のために八時半過ぎに自宅のマンションを出て、外気に触れたところで暴力的に向かってきた冷風に思わず顔をしかめる。最寄り駅からいつもの電車に駆け込んで新宿駅で降りた後、人混みの中を十分ほど通い慣れた道を歩いて会社に向かった。会社に到着し、見慣れた入口から入って肩に背負っていたバッグを置いたところで、自分のデスクがある島の最奥に紺色のジャケットを着て座りながら眉を寄せ、何やら険しげな表情をしている上司から声をかけられた。

「田村、お前さ、空飛ぶ方法知らない?」

前々から変わった人だとは思っていた。真面目な会議中に誰が得なのかも解らないエキセントリックなアイデアを出すし、先月の飲み会の帰り道では同僚と揉みくちゃになりながら道路の真ん中に顔面から転んで前歯が欠けていた。昔働いていた会社では、オフショア開発先のベトナム企業に海外出張へ行った際に、先方の担当者と意気投合してしまい、一緒に新しいビジネスをするため帰国後に即会社を辞めた、という話も聞いたことがあった。

しかし、さすがに「空を飛ぶ」方法を聞かれるとは思わなかった…。上司である西村さんは三十六歳で、所属している企画部の部長をしている。《企画》といっても社員四十名くらいのIT関係の受託開発を行うこの会社では、営業が取ってきた案件を実際に開発部やその他部署と調整しながら納品するのが主な仕事だ。

西村さんは二ヶ月前の十月に奥さんと離婚していた。細かい理由は深く知らないが、どうやら西村さんの不倫が原因で揉めてそのまま離婚という流れになったらしい。「まあ、子供がいなくて良かったよ。ははは」と若干引きつった悲しげな顔で話す西村さんを見て、自業自得という言葉がここまで似合うシチュエーションもないなあと苦笑いを浮かべたものだが、同時に憎めないキャラクターのこの上司を少し羨ましくも感じた。

「えっと、なんで空を飛びたいんですかね?」

上司の顔をじっと見て一旦考え込んだ後に、まずは当然の疑問から入ってみた。

「いや、先週金曜に会社の忘年会あっただろ。あの時システム部のエリーちゃんと話しててさ。彼女《空を飛ぶのが夢》っていうから何か方法ないかなって思って」

エリーのことは知っていた。台湾出身でシステム部に半年くらい前に入社した娘だ。確かオレより一歳年下の二十八歳で、周りからは彼女のイングリッシュネームでエリーと呼ばれている。日本の大学を卒業後にそのまま日本に残り仕事をすることを選んだのだと、数ヶ月前の開発案件で関わった時に言っていた。身長は百五十センチ程度。ぱっちりした目をした童顔で、性格は──何というか、ふわふわした印象の女性だ。なので《空を飛ぶ》というのが解らないではないのだが、何れにせよ、まさか西村さんがエリーに興味があるとは思わなかった。

「西村さん、意外ですね。どっちかというと大人っぽい人が好みだと思ってたんですが」

「元々そうだったんだよ。けど離婚してからちょっと好みが変わってきてな。ほら、台湾の娘って純粋な感じがするだろ。過度に着飾ってないっていうか」

なるほど、人は自分に無いものに惹かれるものか、とは心に思っても口に出しはせずに、いくつか方法を考えてみることにした。

「ああ、確かに化粧が薄くてナチュラルな感じがしますよね。ところで西村さんってマンション住まいでしたよね。何階ですか?」

「何階?十二階だけど」

「そうですか」

「お前、オレに飛び降りろって言ってる?」

「いや、あくまで可能性の話ですよ。うーん、そうですね…。さすがに飛行機に乗るとかじゃダメなんですよね?」

「まあ地上から離れてはいるけどさ…さすがに違うだろ。なんかエリーちゃんって日本のアニメとか好きらしいんだよ。だから、ファンタジーぽいというか自分に羽が生えて飛ぶみたいなのがいいと思うんだよな」

一時、VRのゲームで良さそうなものを探したらどうかと思ったが、それだと多分西村さんの要望とは違う。彼はエリーと一緒に現実世界でどこかへ行くための口実を探しているのだ。

「あ、パラグライダーとかどうですか?羽は生えないけど割と近いんじゃないですかね」

「お、いいじゃん。お前ちょっと調べといてよ」

何故オレが、という素朴な疑問はあったが、面白そうだし意外な展開に興味を惹かれたので、一旦は「解りました」と返答することにした。十分後に会議が迫っていたので西村さんに別れを告げ、ノートパソコンを持って会議室に向かった。

─────

翌日の昼過ぎ、担当案件の開発進捗を確認するためにシステム部の島を訪れると、一番端の席に濃い茶色のゆったりとしたカーディガンを羽織り、綺麗に色落ちしたデニムを履いたエリーが目の前のコードが表示されたディスプレイを凝視しながら座っているのが見えた。
「エリーちゃん、池田さん見なかった?」

目的の担当エンジニアである池田さんが席にいなかったので、近くの席に座っていたエリーに声をかける。いきなり声をかけたことに驚いたのか、エリーはぴくっと軽く肩を上下させた後にこちらを向いて喋り始めた。

「イケダさん…さっきいましたけど、イナイね。トイレかなー」

日本の生活が長いエリーの日本語は意思疎通自体に苦労はしないのだが、独特のイントネーションで話す。

「そっか…あ、ところで先週の忘年会でウチのボスの西村さんと会った?」

「ニシムラさん、会いました。あの人面白いねー」

エリーも好みが掴めないところがあるので、果たして西村さんのことをどう思うのだろうという懸念があったが、意外と満更でもないらしい。

「その時にさ、どんなこと話した?なんか…例えば空を飛ぶ話とか…」

明らかに変な質問だ。とはいえどう切り出すのが正しいのかも解らなかったので、直球で聞いてみる。

「あー、しました。空飛ぶハナシ。先月ワタシ映画観に行ったの。《スカイブルー》って映画。そこでヘリコプターから飛び降りる場面があってね。超カッコいいからワタシもやりたいって言ったんデス」

全然ファンタジーじゃねえじゃねえかよ…。笑顔で話すエリーを見ながら頑張って作り笑いを浮かべたオレは「へえ」と言って時間を稼ぎながら次の言葉を探す。スカイブルーは先月公開されたアクション映画で元々民放のテレビドラマとして放送していたのだが、この時代にしては視聴率が良かったようで先月に映画化された。オレは映画を観ていなかったがCMの中でヘリコプターから有名女優がダイビングするシーンがあり多分それのことだろうと思った。

「それで空を飛びたいってことね。──多分あれだよね。佐藤エリサがヘリから飛ぶやつ」

佐藤エリサはスカイブルーの主演女優の名前だ。

「そう!エリサ超カッコいー」

オレは適度な所で話を切り上げ、池田さんが席に戻ったら教えて、とエリーに伝えてから自分の席へ戻っていった。──さて、どうしたものか。自席に座りノートパソコンの画面を見ながら思案する。正直ここで終わらせても良かったのだが、西村さんにはこの前の仕事で営業部と少し揉めた時に間を取り持ってもらった恩があったので、もう少し調べてみようと思った。

多分、エリーがやりたいことに一番近いのはパラグライダーではなくスカイダイビングだろう。いきなりスカイダイビングというのも急すぎるし、西村さんと行きたいかは知らないがそれは本人に頑張ってもらうとして、試しに検索してみる。すると意外とすぐ近く、埼玉県に体験ダイビングができる施設を見つけた。料金は一人約三万円。決して安価ではないが、まあこんなものだろう。ホームページに掲載されていた予約スケジュールを見ると今年はほぼ埋まっていたが年明けの一月であればまだ結構空きがあるようだった。

─────

仕事の定時となる十九時を少し過ぎた頃、打ち合わせから戻ってきた西村さんが疲れた顔で企画部の島へ戻ってくる。どすっと勢いよく自席の椅子に腰掛けたところを見計らい声をかけた。

「西村さん、朝に依頼されたレポート、さっき送っておきました」

「お、サンキュー。後で見るわ」

「後もう一つ。昨日のエリーちゃんのやつなんですけど…」

オレは昼間のエリーとの会話と、軽く調べたスカイダイビングの話を西村さんに聞かせる。

「なるほどね。てかあの娘スカイブルーとか観るんだ、意外だねえ。──よし、じゃあ行ってくるか」

と言っていきなり席を立ち、システム部の島がある方へ颯爽と歩いていった。おいおい、いきなり特攻するのかよ、と思ったがある意味西村さんらしい。下手に色々作戦を練るより直感で突き進むタイプだ。

数十分後席に戻ってきた西村さんはデスクに座ったオレの肩に手を置き、目の奥をキラリと光らせながら話し始めた。

「成功。いやーエリーちゃん、なんでワタシが行きたいこと知ってたんですかーだってさ。喜んでたよ」

なんとなく、この二人上手くいくのかもな…天然同士だ。

「でさ、これってどのくらいの高さから飛ぶんかね?あと誰かが飛び降りるのフォローしてくれるんだよな?ちょっと調べてみてくんない?」

「いや、なんでオレが…」

「まあ、いいじゃん。今度例の焼肉奢るからさ」

「…予約は自分で取ってくださいよ。調べるだけ調べるんで」

焼肉好きのオ人間としては奢りと言われると弱い。先程軽く見た感じホームページにしっかりと情報が載っていたので調べて纏めるのも一時間弱で終わるだろう、という算段を立ててから答えた後で軽くため息をついて今日中に終わらせたい担当案件の資料作成の続きに戻った。

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その日の夜十時頃、自宅に戻ったオレは缶ビールを片手に昼間に見たホームページを開いていた。《関東ダイビングクラブ》という名称のそのスカイダイビング施設のページには、やはり詳しく情報が書いてあり三十分ほどで纏めることができた。

・WEBから事前の予約が必須
・土日祝日と一部の平日に実施(詳細はホームページに記載)
・駐車場あり
・体験コースでは、タンデム(二人乗り)で、インストラクターと飛ぶ
・体験コースの所要時間は、集合から約3時間
・ダイビングする高さは約三千五百メートル
・集合時間は何パターンかあり(朝八時から昼十二時の間)
・服装は動きやすい服装で薄手の重ね着が推奨
・靴は紐やマジックテープで留められる運動靴

ざっとこんなところだろう。地図を見ると現地まではそれなりに時間が必要そうだ。西村さんは車を持っていたはずだが二時間くらいはかかるだろう。近くに数年前に偶々訪れた美味いうどん屋がある場所だったのでその情報も載せておく。また外国人でも日本語か英語のコミュニケーションが取れれば問題なしとのことなので、エリーなら大丈夫なはすだ。

個人的に一番気になったのは、天候不良の場合中止になることがある、ということだった。キャンセル料はかからないようだが、焼肉がかかっている…とはいえ、こればかりはどうしようもない。いずれにせよ早めに予約しないとスケジュールが埋まってしまいそうなので、最後に事前予約フォームのURLを載せて西村さんに予約依頼を兼ねたLINEを送る。すると、直ぐに無駄に可愛いスタンプと一緒にサンキューと返信があった。焼肉忘れないでくださいよ!と返したオレは急に瞼が重くなった気がしてベッドにどさっと倒れ込んだ。

─────

「な、絶対なんとかなるって。だから頼むよ」

年明け最初の出社日となる月曜の朝、オレは西村さんからまた面倒な依頼をされていた。十二月に無事体験コースの予約ができた西村さんは、前日の日曜日にエリーとスカイダイビングに行くはずだったのだが、悪い予感が的中しその日は大雨だった。そのためやむなくダイビングは中止となってしまったのだが、翌週火曜日の回に二名分空きがあるのでそこなら再予約できる、という提案を施設からもらっていた。エリーはちょうど担当していた案件が一段落したタイミングだったので比較的無理なく休みが取れそうだったが、西村さんはちょうどその日にクライアントとの月例会議があったため代役──というかサポート役としてオレが候補になっていたのだった。

「先方、年末は相当ピリピリしてたって話でしたよね?さすがに西村さんいないのはまずくないですか?」

「いや、あれは年末のキャンペーンに向こうの本部長が敏感だっただけだからもう大丈夫。とはいえ鈴木一人じゃ危ないだろ。それでお前にサポート頼んでるんだって」

鈴木というのは今年企画部に中途入社してきた二十五歳の男性だ。基本的に真面目な奴なのだが、クライアントから強引に詰められるとテンパってあり得ないミスをすることがあるので、西村さんが危ないというのも解る。

「焼肉、特選サーロイン付きでお願いしますね」

「任せろ任せろ。好きなもん食っていいよ」

この人、本気でエリーと遊びに行きたいんだなあ、と半分呆れながら話を聞いていたが、オレにとっても特選サーロインのチャンスを逃すわけにはいかない。少し承諾に逡巡していたはいたものの、このクライアントは元々西村さんが担当から外れて将来的に引き継ぐ予定だったので概要は既に把握していた。そのため会議までに必要な資料作成を鈴木のサポートをしながら把握して、いくつかのポイントを押さえて当日進めていばそこまで問題にはならないだろうと思った。

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翌週の金曜日、西村さんとオレ、それに鈴木の三人で会社から歩いて十分ほどの距離にある洒落た焼肉屋に来ていた。今回、急遽被害者の一人となった鈴木も含めて約束の焼肉屋に来ていたのだ。その週の火曜日は天候にも恵まれ、無事西村さんとエリーはスカイダイビングに行くことができたし、オレと鈴木で対応したクライアントとの月次定例もそつなく終わらせることができた。西村さんのノロケ話をつまみに食べる特選サーロインは、口に入れると甘い脂の味とともに舌の上で不自然なほど綺麗に溶けてなくなる。とても美味く急遽必要になったクライアント対応を含めてもお釣りが来るほど満足した。

この後に西村さんとエリーが上手くいくのかはまだ解らない。意外と気の合いそうな二人ならもしくはと思うが、同時に前科のある浮気には気をつけてくださいよ、と思わずにはいられない。一通り食べたい肉を平らげたところで対面に座っている西村さんをふと見ると、若干酒で顔を赤らめた西村さんは、とろんとした目を細めながらゆっくりと口を開いた。

「田村、あのさ、宇宙に行く方法って知ってる?」

─────

注意点

ここからは小説ではなくプロジェクトマネジメントについての考察です。専門でプロジェクトマネジメントをする人がいない時にポイント洗い出しの参考になれば、という粒度で記載しています。

尚、世の中一般的に言われるPM(プロジェクトマネジメント)とは若干そぐわない箇所があるかと思いますが、私個人の分別方法を元に記載しています。ご了承くださいませ。

プロジェクトとは

最初に「プロジェクトマネジメント」の前部であるプロジェクトについてです。

ここでいうプロジェクトとは、何か特定の領域のことではない少し広い領域をベースに考えています。そのため、システム開発かもしれないし、リアルイベントを開催することかもしれないし、今日食べるランチの検討かもしれないし、空を飛ぶ方法かもしれません。そういった何かしらの「やりたいこと」を考え、実行して、事後対応するまでの一連の流れを《プロジェクト》としています。

尚、本稿ではプロジェクトを以下のフェーズに分けて考えていきます。

1.アイデア(起案)
2.計画(企画、プランニング)
3.具体化(要件定義、設計)
4.実施(実行)
5.事後対応(運用、効果測定)

ちなみに、プロジェクトによっては特定のフェーズが確定する前に次のフェーズに移り、検証をした後で前フェーズに戻ることもあります。これはプロジェクトの内容や組織の方針によって変わります。

マネジメントとは

次に後部のマネジメントです。マネジメントとは言葉をそのまま訳すと「管理」となります。しかし個人的には、管理こそがプロジェクトマネジメントである、と考えることに違和感があります。あくまでプロジェクトマネジメントとは「実現性を持った最大化をすること」だと考えています。

原則としてプロジェクトマネジメントは企画の最大価値を超えることはできません。そのため、

・企画されたものを実現する
・実現する前提で最大化する

ことが良いプロジェクトマネジメントだと考えています。

また、本稿では企画をまとめる人(プランナー)と企画を最大化する人(プロジェクトマネージャー)の役割を分けて記載しています。同じ人が両方を兼ねることはありますが役割としては別としています。

1.アイデア(起案)

アイデアとは「やりたいこと」のことです。ちなみにこの「やりたいこと」は「課題」とセットになることが自然です。

・毎日人力で対応をしている作業がつらいから(課題)自動化するWEBシステムがほしい(やりたいこと)
・自分たちの商材認知を上げたいから(課題)参加者を集めてイベントを開催したい(やりたいこと)
・空腹だから(課題)ご飯を食べたい(やりたいこと)
・気になる人の気を引きたいから(課題)空を飛びたい(やりたいこと)

尚、アイデアに対してプロジェクトマネジメントは直接関係しません。プロジェクトマネージャー自身がアイデアを出すことはありますが、あくまで厳密に役割上の関わりはないと考えます。

2.計画(企画、プランニング)

計画とはアイデアを具体化することです。どこまで具体化すべきかは情況や環境に依存しますが、5W1H(Why、What、Who、When、Where、How)をベースに精査をしていきます。

Why(なぜ)は、課題のことです。アイデアのフェーズで分かっていれば特に検討の必要はありません。ただし、プロジェクトの中では重要なポイントがぶれるほど失敗の可能性が大きくなります。そして「なぜ」は最重要ポイントです。

今回でいうと、西村さんが「気になる人の気を引きたいから」ですが、ここを考えずに、ただ「空を飛びたい」だけを実現しようとすると非常に危険です。また、「なぜ」は必ずしも最初に見えたものが正だとは限りませんし、一つだけとも限りません。エリーの「なぜ」は「映画の中のカッコいい女優に憧れたから」です。また田村の目線から見ると「前の仕事での上司への恩返し」や「焼肉食べたい」のように切り取る方向が変わることになります。

「なぜ」については可能な限り深堀りして後でぶれないようにします。

What(なにを)は、やりたいことです。これも、アイデアのフェーズで分かっていれば特に検討の必要はありません。しかし「なぜ」と一緒に検討して、正しい「なに」を明確化しないと事故につながります。今回ですと、仮にエリーが望む「映画の中のカッコいい女優への憧れ」を実現できて、西村さんの「エリーの気を引きたい」が実現できるのであれば、「なに」は空を飛ばなくても全く問題ありません。

Who(だれが)は対象者です。誰という基準は二つあり、「プロジェクトに関わる人」と「プロジェクトを使う人」がいます。今回の「プロジェクトに関わる人」は西村さん、自分、鈴木の三人でプロジェクト体制となり、「プロジェクトを使う人」は西村さんとエリーで利用者のことです。

When(いつ)は時間です。基本的にはプロジェクトを公開したりする期限のことです。今回のプロジェクトでは明確な期限がありませんでしたが、明確な期限がある場合、所謂「実現性」に大きく関わることがあります。また、もしスカイダイビングの施設予約が半年先まで埋まっていたら別の施設か手段を検討する必要がありました。

Where(どこで)は場所です。今回は東京から日帰りでいける距離にありましたが、仮に関東に存在しない、もしくは日本でスカイダイビングが不可能だとしたら実現性は大きく変わってしまいます。

How(どのように / どのくらい)は方法や程度のことです。今回の「どのように」ですと、最初のパラグライダーは違いましたし、「なぜ」と「なに」を解決する「どのように」がスカイダイビング以上に最適なものが思いつけば、別の方法だとしても全く問題ありません。

「どのくらい」は、大抵の場合一番重要になるのは「お金」です。今回、西村さんは一人約三万円というお金(コスト)に対して(本当に大丈夫なのかは別にして…)気にしなかったのですが、プロジェクトが次のフェーズに移れるか否かは「お金」が一番ネックになることが多いでしょう。

また、次に重要なのは「なぜ」という指標が「どのくらい」なのかです。今回で言うと「エリーにどのくらい気に入られたいのか」や「どこまで佐藤エリサと同化したいのか」という定量的な基準です。今回は特別決まっていませんでしたが、これが明確になっていると次フェーズの具体化が決めやすくなります。

この計画と呼ばれるフェーズは原則プランナーが中心に検討することになります。プロジェクトマネージャーとしては、計画されたものに抜け漏れがないか、現実的に実施可能か、を確認することが重要です。抜け漏れがある場合、その後の具体化作業の時に詰まりますし、実現できないと意味がなくなってしまいます。(ただし、稀に実現性が必ずしも求められないプロジェクトも存在しますので、その場合は事情に合わせることになります)

ちなみにこのフェーズは本来もっと深堀りできます。具体的に言うと、本質的に西村さんとエリーが求めていた「なぜ」は違う、と捉えることが可能なはずです。ただし今回はPMの考察に重きをおいているためこれ以上の深堀りはしません。

3.具体化(要件定義、設計)

具体化フェーズは、計画されたものを実際に実行可能にするための詳細化をしていく段階です。大抵の場合、計画フェーズで検討していた粒度では実行するための具体的なタスクの落とし込みはできません。そのため計画を元に「実際に何をしなければいけないのか」を洗い出していくのがこのフェーズとなります。また、実際に具体化したタスクを実行するのに必要な時間を正確に見積もっていくのもこの段階です。今回でいうと参加条件や現地までのアクセス方法と時間、当日の服装規定やキャンセル条件などを確認することで実際の参加方法や準備すべきこと、予約方法が明確になります。

マネジメントは「実現性を保った最大化をすること」だと記載しましたが、最大化をするために必ずしもタスクを詰め込むことが最善ではありません。実行できないタスク量だと実現性がない、という観点もありますし、タスクに濃淡をつけることでプロジェクトは最適化されます。ただしここは経験やセンス、好みに依存するところでもあります。重要度と緊急度を鑑みタスク量を検討することも有効な方法です。

ちなみに、このフェーズを検討していく中で計画段階での5W1Hが達成できなくなることが頻繁に起きます。その場合に取るべき手段は二つあり「具体化の手段を変える」もしくは「5W1Hを変える」です。

「具体化の手段を変える」については非常にシンプルで、具体化する(実際に行う)手段を別の手段で検討し直すことです。

「5W1Hを変える」については、そもそも計画段階で決まっていたことが必須なのか、という意味です。これは往々にして発生します。例えば今回の「いつ」が仮に十二月中に実施しなければならないと決まっていたして「その根拠は本当にあるのか」ということです。もしないのであれば計画の修正という手段が可能になります。

今回のスカイダイビングは、参加者として実施フェーズのタスクが多くないためそこまで問題になりませんでしたが、より複雑なプロジェクトではこの具体化フェーズでどこまでしっかり具体化して正確な時間を見積もれるかがプロジェクトの成否に大きく関わります。ここで一番信頼性のある情報は「経験」です。そのためプロジェクトの中に経験者がいると成功確率は上がります。今回であれば「スカイダイビングの経験者」ですし、更に言うと「関東ダイビングクラブの体験コースに参加したことがある人」です。

4.実施(実行)

具体化が完了したら実際にプロジェクトを実施していきます。プロジェクトマネージャーとして、このフェーズの役割は進捗管理となります。要するに具体化したタスクが「タスクの期待成果通りに」「遅れなく」進行しているかを確認する、ということです。

ここで一番重要なことは「実施フェーズにおいて何かしらのトラブルは必ず発生する」と覚悟することです。トラブルの理由は際限なく考えられます。そもそものタスクの洗い出しが甘かったのかもしれませんし、実行者が体調不良で稼働できなかったのかもしれません。また今回の場合であれば天候不良が原因でした。ここでの対策としては二つあります。「事前に予測すること」と「バッファを用意すること」です。

「事前に予測すること」というのは、例えば実行するのが人であれば体調を崩すかもしれないし、自然が関わることなら自然災害はあり得ると考えることです。可能ならその対策を用意すべきですが、最低限の認知だけしておくだけでもその後の対応に有益です。

「バッファを用意すること」というのは前の具体化フェーズで見積もった時間に予備の時間を確保しておく、という意味です。今回のプロジェクトでは「いつ」が明確ではなかったのですが、営利目的のプロジェクトでは期限があるのが自然です。そのため期限を考慮したバッファを設定することが必要になります。また可能なら、バッファは「バッファと見えないようにする」とベターなのですが、今回は割愛させていただきます。

最後にトラブル対策として重要なのは「慌てないこと」です。仮に予測していた以上の問題が発生したとしても冷静に解決策を考えること。それが全体のパフォーマンスにも繋がります。

5.事後対応(運用、効果測定)

事後対応はプロジェクトによってやるべきことが変わります。今回でいうと「次回会うための計画」かもしれないですし「今回のスカイダイビングにおけるエリーの満足度」かもしれません。この段階で重要になるのが計画フェーズにおける「なぜ」という指標が「どのくらい」なのか、です。今回は割愛しますが「どのくらい」が定量化されているとプロジェクトの成功判断がしやすくなります。また、企画というフェーズの深堀りという観点でも大切な事項です。

最後に

本稿では、小話を元にざっくりとしたプロジェクトマネジメントの考察をしてみました。書いた感想としては、大きく二つの懸念があります。

一つ目は何度が記載した、「企画の深堀り」についてです。プロジェクトの本来の成功はプランニングや実行を含めた全体のパフォーマンスに依存しますので、今回記載した範囲だけですと若干消化不良な気がしています。

またもう一つは、今回記載したプロジェクトマネジメントが「表向きのPM」に限定したことです。裏側のPMを別のタイミングで纏めたいと思っています。

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