【短編】ご主人様はまだか
三匹の犬が、並んで遠くを眺めている。
飼い主の帰りを待っているのだ。
毎朝、飼い主がこの方向へ出かけて行き、夕方この方向から帰って来る事を犬たちは知っている。
しかし、待てども待てども、飼い主は帰って来ない。
いつもなら、とっくに帰って来ている時間だというのに。
犬たちは、心配そうに飼い主が帰ってくるはずの方向を見つめた。
春のやさしい夕空に、そよそよと気持ちの良い風が吹きぬけた。
うららかなこの季節、今日は朝からとても暖かかった。
犬たちは、めずらしく三匹揃って寝坊した。
いつもなら、ちょっとした物音でも目を覚ますというのに、春の暖かな気候が誘う眠気の中で、昼過ぎまで犬たちは目を覚まさなかった。
犬たちはひどく後悔し、目を覚ましてからずっとこの方向を見つめている。
しかし、全く飼い主が帰って来る気配はない。
犬たちは、今にも泣き出しそうだった。
と、その時、犬たちの後ろから聞き覚えのあるやさしい声が聞こえた。
「おまえたち、何をしてるんだい」
振り向くと、そこには飼い主が立っていた。
実は今日、飼い主も寝坊して、今の今まで寝室で眠っていたのだった。
そうとは知らない犬たちは驚いて、どういうことかとお互いの顔を覗き合った。
そして、一匹の犬は、目をまんまるにしてこう言った。
「ご主人様は、地球を一周してきたんだ!」
春の暖かな日曜日、そよそよと気持ちの良い風が吹き抜けた。
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