見出し画像

2月13日 『アナーキー経営学』が出版となります!

 昨年10月に『婚活との付き合い方:婚活市場でこじらせないための行為戦略』(中央経済社)を刊行したばかりですが、2月13日にNHK出版から『アナーキー経営学:街中に潜むビジネス感覚』が発売となります。我ながら狂った刊行スケジュールだと思いますが、NHK出版から昨年3月に「書きませんか?」とオファーをもらった際に「3ヶ月で書けますよ」と宣言して、『婚活との付き合い方』の執筆・校正作業と並行しつつ、本当に書いちゃったのだからしょうがない。


 さて、いきなり話が変わりますが、私が敬愛する映画監督の押井守氏の名言に、「映画には二重構造を持たせなければならない」(うろ覚え)というものがあります。
 娯楽として鑑賞に耐えうる映像的な強度をもたせる表層に、映画監督としての自己実現を潜ませる仕掛けを深層に組み込むこと。その両方を備えて初めて、社会的行為たる商業映画は成立するのだと。 
 今回、執筆中にずっと念頭にあったのが、「新書」という商業出版のフィールドで、学者であり書き手である私が、押井守監督のおっしゃられるところの、二重構造をどうもたせるのかということでした。

 学者が新書を書くとなると、長年の研究蓄積を幾分噛み砕いたものか、もしくは研究蓄積に基づいて何らかの「思想」を世に訴えるものか、どちらにせよ「啓蒙」という枠の中で書かれるのが一般的ではないかと思います。
 とはいえ、新書だけでなく教科書も当てはまると思いますが、こういう「啓蒙」というコンテンツは動画配信者やまとめサイトのファスト教養に駆逐されつつあるのでは、と常々考えていました。
 だったらファスト教養のフォーマットで闘ってみるかというと、物を書かせれば2万字から、話させると90分を基本単位に長年磨き上げた私の技術では、「5分でわかる経営学」みたいなコンテンツに太刀打ちすることが出来ません。
 良くも悪くも、長くて凝った文章を書くのが得意な私は、商業市場では書籍というフォーマットで勝負するしか勝ち目が無い訳です。斜陽化しつつ有る「啓蒙」というジャンルから、「楽しく読んでもらう」ことと「経営学者として伝えたいこと」を新書として二重構造をもたせつつ両立させることが可能かを一晩悩んだ結果、「経営学漫談」という結論に至りました。

 経営学漫談というのは私の造語です。有り体に言ってしまうと、私が授業で即興的に話している与太話です。与太話ではありますが、その日の授業でテーマとなる理論や概念を理解する入口になる、街中での自分の体験を面白おかしく話すツカミを毎回やっています。学部生はこの与太話ばかりを覚えてしまうので困ったものなのですが、これがなかなか評判が良かったりします。授業のコア部分では制度派組織論を中心に結構難しい話をしているのですが、少なくとも私の漫談を聞いて満足してくれる学生さんがいる一方で、そこから理論を読み取ってくれる学生さんも出てきます。この経営学漫談を新書というコンテンツに仕立て直してしまえば、押井監督の言われるところの「二重構造」を実現する商業コンテンツになり得るのではないか、と考えたわけです。

 その結果、『アナーキー経営学』は、表向きは難儀な経営学者(私です)が、街中の日常風景を経営学の理論で突飛に解釈してしまう与太話を装いつつ、そこから生まれるちょっとした笑いが、一般の読者の方には制度派組織論、価値評価研究、企業家研究の実践的転回といった経営学の先端的理論の理解へと跳ね返り、更に同業者(経営学者を含む社会科学者)に経営学という学問そのものの問い直しを迫る、という仕掛けを入れるというコンセプトで執筆しました。二重構造ではなく三重構造になってしまった気もしますが、とりあえず一定数の方には「面白い!」と読ませる強度を持った本に仕上がったと思います。

 内容は、リアルの私を知っている人からすると、極めて私らしい「ブラックな経営学漫談」になっています。あえてタイトルに「アナーキー」と付けた論理的な理由は本書の序章と終章に書いていますが、基本的に現代日本にはこんなアナーキーな経営学者がいるんだと、面白がっていただくことを第一にしています。
 書影の腰帯にある通り、こよなく愛するラーメン二郎の考察のような、軽い日常話からスタートし、後半に行くほどに経営学の対象にするにはちょっとこれは……と思うようなギリギリの対象を、あえて経営学として読み解こうとするのが、本書の売りとなります。

 度々話が変わってしまい申し訳ないのですが、慶応大学の岩尾俊兵先生が『世界は経営でできている』(講談社現代新書)を発表されました。
 「経営の民主化」を標榜される岩尾先生の『世界は経営でできている』と、「経営学の解放」を目指す私の『アナーキー経営学』は、「経営学で世界は良くなるはず!」という執筆の動機のところは、同じ地点にあります。   
 『世界は経営でできている』を発売早々に入手して読ませていただきましたが、日常世界を経営学で読み解いていくというコンセプトは一緒なのですが、それぞれの専門領域の違いか、それとも育ちの違い故か、取り上げるテーマから文体、理論まで全く異なる内容の本になっています。
 ネタバレは良くないので伏せますが、コアの部分で岩尾先生が「経営学で世界を変える」という高く、純粋な理想のもとで『世界は経営でできている』を執筆されているのに対して、私は「世界のために経営学を変える」という斜めに捻った思考のもとで『アナーキー経営学』執筆するという、結構な違いがあります。両書を併読していただければ、経営学という学問の面白さをより体験できること請け合いです。

 とりあえず、2月13日の発売日を待つだけなのですが、「ウヒッ」と笑いつつ読み終えた後、この世のすべてが制度と実践で捉えられる経営学者が五人くらい増えたら、学問上の私の勝利条件は達成だと考えています。

 他方で、商業出版市場を戦うフィールドに選んだ経営学者としては、今回の新書の出版は結構覚悟して営業活動に望まねばならないと、気合を入れ直しているところです。
 というのも、「ちょっと正気ですか?」と思わず聞き返すような部数が印刷されてしまいました(注・出版社的には規定通りの部数です)。これをなんとか売りきらないと、次に繋がらないという危機感でいっぱいです。
『アナーキー経営学』に続いて、『ブラック企業の作り方』、『イリーガル・アントレプレナーシップ』と勝手にゴンゾー経営学三部作と名付けた本の企画と章構成だけは準備しているのですが、まずはこの本が売れないと後に繋がりません。

 というわけで、NHK新書『アナーキー経営学:街中に潜むビジネス感覚』を、なにとぞ、ご愛顧いただければ幸いです。


この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?