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わたしの放浪記(1)


これから2021年7月〜2022年8月までの1年間の放浪旅を思い出しながら書いていきます。

全て実際にあったことですが、少し時間が経っているので時系列が曖昧な部分もあります。

今でも本当に起こったことなのか分からなくなるくらい、不思議な出来事が多くて忘れられない日々です。

私はたくさんもらったのにどこにも還元していない気がして、せっかくの楽しい日々だったので誰かにそれをお裾分け出来たら嬉しいなと思って書くことにしました。

何より頭の中でばかり完結している自分に嫌気がさしていたんです。
そんな状況を打開する為に今のわたしが誰かに届けられるものはこの体験しかないなと思ったのです。

旅の始まり頃は書きやすいけど、中盤はほんとに言葉にしにくい出来事ばかりなのでそれをどう表現できるか心配ですが、できる限り丁寧に諦めず綴っていきますのでよかったら読んでくださると嬉しいです。
連載ものになります。

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29歳の夏。

日本でオリンピックが開催されていたまさにその時、わたしの人生の中でもっとも印象深い日々が始まろうとしていた。

“29歳彼氏なし”この言葉から何を連想するだろう。

この年齢って女性にとって人生の分岐点でもあるように思うし、独身であれば一般的には彼氏探しに必死になる人や、子供を授かる為の逆算をしてみたりと将来設計を必死に練り直す人が多いように思う。

だけど私にはそんな発想がまるで無かった。
むしろそういう発想になる周囲との温度差に悩んでいた。
何故みんな焦り出すのか、何故みんな子供を欲しがるのか、何故みんな同じことを言うのだろう…。なんで私はそうじゃないんだろう。

この年齢ならではの悩みをひとつも抱けない自分はやっぱりおかしいんじゃないか…。

私は一体何なんだろう…そんな不安が募っていた頃のことだ。

同世代の友達と話をしていても共感できないから、休みの日も友達と会うのも控えていた。
必然と出来るひとり時間。

洋裁をしてみたり、陶芸をしていたり、それなりに趣味もあって楽しんではいたけど、なんかちょっと変化が欲しい…。
だからか、なんとなく旅に出てみようと思った。

じゃあどこに行きたいか。

(……朝、縁側のある部屋で目覚めたい!)
二度見ならぬ二度聞きしたくなるような謎の心の声がハッキリと聞こえた。

これは縁側のある宿をとるしかないか…。

そう思った私は縁側のある宿を探した。
縁側のある宿といえば旅館だけど、ひとりで泊まるのはハードルが高い。

色々探していくうちに安い宿で縁側があるのはゲストハウスだということに落ち着いた。
ただ、ひとり旅もろくにした事がないのにゲストハウスなんて…。

ゲストハウスなんてバックパッカー勢のような、ユーモアがあって明るくて野生的で健やかで強そうな人がいっぱい集まっていて、そんな人たちで賑やかに夜を過ごしているイメージがあった。(偏見がすごい)

こんな陰気な私で大丈夫だろうかと心配だったけど、“落ち着いた雰囲気なのでひとりでゆっくりしたい人にもおすすめです”そんな文面を口コミから探し出し無事安全そうな宿を見つけた。
(ちなみに当時はコロナ禍で海外からの旅客はいないことは確定していた)

イメージ通りの、縁側に面していて朝の日差しが気持ちよさそうな部屋があった。
しかも個室が選べたので迷いなく個室部屋にした。

せっかくだったらゆっくりしたいと2泊3日で予約をしてみた。

どこにいくかより、縁側のある部屋で目覚めることが目的の旅、ほどよく都会でほどよく自然のある隣の県への近場の旅になった。

それはちょうど、オリンピックの開会式の日と重なっていた。

予約をした夜は胸の奥がピチピチと弾けるような、心地よい高揚感でいっぱいだった。
隣の県で対して遠いところではないけど、とっておきのひとり時間。

縁側のある部屋で朝目覚めるという、その自分の欲求に忠実に動いている事実がとてつもなく嬉しかった。

縁側のある部屋で障子から差す柔らかい朝日を想像しながら旅までの日を指折り数えて過ごした。