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電力を自給するイーストロンドンの劇場「Arcola theater」(アルコラシアター)のこと

2011年の3月11日に、震災が起きた。

その2週間後くらいに、わたしは池袋の東京芸術劇場にいた。

だいすきな野田秀樹氏の舞台を観るためだ。

今でこそ何もかも忘れて浮かれたような電飾で明るい都内だけれど、当時は節電と、発電所の停止で、広告の電子掲示板やきらびやかな照明などがことごとく消え、くわえて文化芸術にまつわるイベントなどは、軒並み延期や中止になった。

そのさなか、『南へ』という野田秀樹氏の作品は、上演が続行された。

わたしは当時、大学一年生。

心なしか閑散とする池袋を歩き、劇場へ向かった。

わたしにとって、災害のさなかに文化芸術を、どうとりあつかうか、完全に判断をゆだねられた、印象的な出来事だ。

先日、ロンドンの東にある「アルコラシアター」を、教えていただいた。

2007年にCO2排出ゼロを目指し、2010年には「Arcola Energy Ltd.」という会社を創設。

エネルギー専門に取り組むべく、立ち上がったこの会社は、燃料電池の開発やゴミを出さないエネルギーのシステムエンジニアリングを事業にしている。

CEOのベン氏は、ケンブリッジ大学卒。

新しいテクノロジーと、その使い手(つまりわたしたち生活者)との橋渡しをしてきた人、とある。

「アルコラシアター」では、2012年から24平方メートルのソーラーパネルを設置して、劇場で使うほとんどの電力を自給している。

しかも作った電気は余るため、「ナショナル・グリッド」というイギリスの会社に売電し、劇場の収入にもしている──というツワモノ。

エネルギー会社が初めにあったわけではなくて、劇場が先にあって、エネルギーにも取り組み始めたという順番も、なんだか気になる。

「ロンドンって、ソーラーパネルで劇場のすべての電力をまかなえるほど、日照時間があるのだろうか」と思ったら、使えない木端を燃やして熱を作り、暖房設備として使っているらしい──って、これどこかで聞いた話だな。

「アルコラシアター」のこの取り組みに限っては、わたしが住んでいる北海道下川町でも、すでにまったく同じことをやっているのだった。

加えて太陽熱パネルも、熱エネルギーを作るために設置されている。

イーストロンドンのエネルギー会社や近隣の工場、研究機関との協働で、結果、アルコラシアター全体で25%のCO2を削減しているという。

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声を大にして言いたいのだけれど、べつにわたしは、ナチュラリストではない。

話題になっているグレタさんのような強い正義感と感受性もないし、哲学も、確固たる環境意識もとりたてて持っているわけでもないし、知識の質や量だって、平均値だろう。

ただなんとなく、生理的に、考えなければならない気がするだけ。

企業のプラスチック廃止などのニュースに影響されている部分も少なからずあるだろうけれど、やっぱり、北海道という広くて雄大な大地が真っ暗になったあの日、そもそも人力の敵わない自然の中で生きているのだから、エネルギーだとか環境だとか、無視できない、後戻りできないと、なんとなく、感じているだけ。

そのさなかで、煌々と照明を使ったり仰々しい音響機材を使ったりする劇場も、いつまでも同じような仕組みではいられない……と直感したころ、ちょうど教えていただいたのが「アルコラシアター」だった。

今は、震災のようにいのちが脅かされることが起きたとき、安全をもとめて人が集まる場所に、劇場は選ばれない。

災害時の避難場所は、たいてい公民館とか学校だ。

劇場が、「ここにいれば大丈夫」と思えるよりどころになったら。

劇場とまで言わなくても、お芝居やら歌やら踊りやらをふだんから演っている場所が、生活インフラを支える、暮らしを助けるものだと、広く、認知されたなら。

かけがえないのないものに、なるかしら。

お芝居をやるひとたちは、演劇だとか芝居を、敷居の高いものだと言う人が多い。

でも、本当にそうかな。

当事者がそう思っている間は、永遠に、敷居が高いままなのではないかとも、思う。

仮に「演劇は敷居の高いもの」だとして、どうしたって演劇に対する認識や芸術的価値を理解してもらおうという歩み寄り方になるけれど、劇場、もしくは演劇をやる場所そのものに対する敷居を下げる──否、敷居を下げるというよりむしろ、ライフラインになるような仕組みを作れば、演劇は決して高尚なものではなくなるのではないか──と、思った。

「アルコラシアター」が、なぜ劇場としてオフグリッドの取り組みを始めたのかまでは、紹介しきれなかったけれど、まだまだ探りがいのある劇場。

ぜひ、現地へ行ってみたいな。

ナチュラリストではないけれど、わたしにとっては、この劇場の存在が、なんだかとても救いになったのだということを、ただ伝えたいのがこのnoteです。

同時に、自分が持つハコモノで、このイベントをやろうと思ったのも、アルコラシアターに背中を押されたから。

いろいろと手探りな状態が続くけれど、折れずに居たいです。おやすみ。

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