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絵本『ビビを見た!』を読んで

ぜひ読んでほしい、と借りた絵本『ビビを見た!』。

福岡アジア美術館で版画展を見たのは、たしか1年前。

その後、下川町から北上して1時間もかからない音威子府村(おといねっぷむら、と読みます)にある彫刻家, 版画家の砂澤ビッキの美術館への訪問が決め手で、木版画の力づよさにノックアウト。

以来、木の質感と彫りの躍動に、すっかり心うばわれてしまっていた。

ゆえに『ビビを見た!』の挿絵の版画たちは、ますます鬼気迫るもので、物語のなかの大男が登場するシーンは、夜、無音の部屋で一人読み進めているとゾッと鳥肌が立った。

同時に、実写化するには工夫をこらしていどむ、おもしろそうな絵本だなどとのんきに思っていたら、なんと今年の夏に、KAAT(神奈川芸術劇場)で既にお芝居になっていました。

物語は、なにものかのお告げによって、盲目の少年・ホタルの目が、7時間だけ見えるようになるところから始まる。

ホタルの目が見えるようになった世界では、もともと目が見えていた人たちが全員盲目になっていて、ホタルたちが暮らしている街がなにかたいへんなものに襲われ、危険がせまっている。

電車に乗って逃げる最中に出会った、羽根の生えたふしぎな少女・ビビは、ワカオという者から逃げていた。ホタルは「ころされる!」と叫ぶビビと一緒に逃げ、電車に乗る人々もビビのことも助けようとするが……という、あらすじ。

本の最後に、作者である大海赫(おおうみあかし)さんのあとがきで

ホタルが「ぼくだけがビビを見た!」と言ったように、皆様もどうか、生きているうちに、「美々」を見て、おなくなり下さい。

と、ある。

「子ども向けだけれど容赦ない描写」「ちょっとグロいかも」といった前評判を少しだけ聞いていたけれど、読者に対して「おなくなり下さい」とあとがきに記す作家さんを、初めて見た。

結果、たいへん好きな絵本になりました。

「見た」という言葉は、目撃した、という感覚に近い。

「ビビと出会った」ではなく「ビビを見た」。

ビビの主体性はぼやけ、ホタルの発見と喜びだけが「ビビを見た!」というタイトルにこめられている……ように感じる。

ビビが何者なのか、あとがきにある「美々」とはなんなのか、ネタバレになるから書きませんが、『ビビを見た!』というタイトルが、まったく読者の方も向いていない感じがして、それがいい。

ホタルとビビ、その一対一の関係が、読書体験においても物語においても起きることのすべて、と言ったらよいか。

読者もまた、自分でビビを見ないと、物語における傍観者にすぎない。

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