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戯言

 心療内科に、精神科に通い始めて、10年近くが経つ。精神安定剤を服み始めて5年近くが経つ。
( ぼくの記憶はうんざりするくらいアテにならないから実は適当な年数なんだけれど )

 そんなこんなでぼくは24歳になりました。

 23歳、つまり1年前は1日30錠以上服んでいた薬がいまでは1日2錠。

 1年間で成長できたと思う。頑張ったって。
まわりの、ぼくよりウンと長生きしている大人達も褒めてくれるから。えらいね、って。

 だけど、ぼくは、成長できたと思う反面、どんどん自分がツマラナイ人間になってきているような気がする。面白みのナイ人間になってしまった、気がして、何が正解なのかわからなくなってしまう。
 薬を馬鹿みたいに、それこそ浴びるように服んでいたころはもっと、突飛な発想ができた気がするの。みんながあっ、と驚くような。空も飛べそうだった。たぶん、実際に飛んでいた。

 でもそんな突飛な発想ができるようになる魔法の薬は、空も飛べちゃう薬は、ひとたび舐めると、チープな言葉で言うと、まさに地獄のような苦しみが待っている。
 全身にちいさな虫が沢山這っているような感覚が消えないの。自分の意識とは別に四六時中動き続ける手足、指。ちいさくちいさく震え続ける唇。渇いてネバつく口内。呂律の回らない舌。

 そんなこわい薬に縋ってしまいたくなるぼくはとんでもなくばか、ばあか。お馬鹿さん。

 「ふつうになりたい」なんて至極ふつうな言葉を吐いて、ぼくはいったいどうなりたいの。

 きっと、どうにもなりたくない。

 ただ、風に飛ばされるビニール袋のようにふわりふわりと飛んでいたいだけ。
 海底でゆらめく海藻になりたいだけ。

 地位も名誉も、お金も幸せもぜんぶ要らない。

 だからティースプーンひとすくいの平穏だけをください。

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