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【韓国旅行記】〜ラブストーリーは突然に⁉︎後編3

【前回までのあらすじ】

韓国の旅最終日に広蔵市場のユッケ店でキムさんと再会したみるかく子。
美味しかったユッケとビールの味の詳細もあんまり覚えていないくらい、キムさんとのおしゃべりに花を咲かせた。
そして空港へ向かう前にカフェでコーヒーを飲むことになり…


ユッケ店を後にした私たちは、北村韓屋村へ向かった。

わたしはまだ北村韓屋村をちゃんと散歩したことがなく、韓屋が並ぶ路地を見てみたいとキムさんに言った。

フライトの時間があるので、韓屋村でゆっくりする時間はないけど、コーヒーを飲みながらサクッと周辺を歩くだけでいい。

路地裏散策が好きだ。


広蔵市場がある鐘路5街駅から、北村韓屋村がある安国駅までたったの2駅だけど、隣駅で乗り換えがある。

わたしたちは移動中もパパゴで話すのに夢中で、簡単な乗り換えを失敗して笑い合った。


地下鉄を待っている間、キムさんが言った。

「コンタクトをしていて疲れないの?」

「あー、いつもコンタクトで慣れてるから疲れないよ。
キムさんにあった日は、朝早かったから誰かに会うと思ってなくて、メガネだったし化粧もしてなかったよね。」

「そうなんだ。それならいいけど、コンタクトは疲れそうだから。楽にしてればいいのに。」


キムさんは、「へんなの。」とでも言いたげな顔をしていた。



あれ?



もしかしてこの人は、


着飾らずに、素のままで、気楽に一緒にいれる人かもしれないな……



何となく、そんな雰囲気を感じた。




✳︎



安国駅の階段を上がって外に出ると、暑い。


外に出るだけで暑い。


3歩あるくだけで暑い。


わたしはキムさんに言った。


「ちょっと暑すぎるから、どこでもいいからカフェに入ろう。」

10秒で散策を断念。


韓屋散策よりカフェで涼みたい気温だ。


私たちは人が並んでいない、でもモダンな雰囲気のカフェを見つけた。


2階席貸切。


「デザインはいいのに、誰もいないね。」


キムさんが笑って、わたしも「そうだね。」と笑った。


私たちは、窓際の席に並んで座った。


「キムさんはもう兵役は終わっているの?」

「うん。僕は早くに行ったから。」

「大変だった?辛かった?」

「いや、人によると思うけど、僕はそんなに。大変なこともあったけど、楽しかったよ。
いろんな人に出会えて、心も成長することができたから。」


つい最近「D.P.」を観たわたしは意外に思った。
兵役とは全ての韓国人男性にとって辛く重い経験だと思っていたから。


わたしが大学生の時、兵役を終えて入学してきた、少し年上の韓国人学生がいた。その彼は、「軍隊のことは思い出したくも話したくもない。」と言っていたのを今でも覚えている。

本当に、入隊した部隊にもよるのだろうな。


「『D.P.』観たから、ちょっと心配になってた。良い経験だったならよかった。」

「D.P.はソンソックも出ているよね?もうすぐシーズン2があるよね。」

「うん、わたしも配信をすごく楽しみにしてるんだ。」


『犯罪都市』といい、「D.P.」といい、キムさんはドラマや映画を割と観る人のようだ。

そういえば、空港へ向かうタクシーの中でも、『パラサイト』と『万引き家族』の話を少しした。


「キムさんの趣味は何?」

「映画、ゲーム、本。家で遊ぶのが好き。
みる(わたしの名前)は?」

「映画、ドラマ、絵を描くこと、あと野球観戦。」


と答えると、キムさんが間髪入れずに聞いてきた。


「野球観戦が好きなら、大谷翔平が好き?」



こんなに韓国ドラマ・映画が好きだといいつつも、わたしのスマホの待ち受け画像は大谷翔平である。



世界に誇れる推し。


「うん、好き。いつか彼の試合を観に行ってみたい。」


わたしとキムさんは、お互いのスマホのパパゴを見せ合って話しているし、キムさんはわたしより20センチ背が高いので、わたしの待ち受けが大谷翔平であることは既に知っていたと思うのだが、初めて聞くような素振りをしてくれていた。


コーヒーを飲みながらひとしきり雑談をした後、キムさんが言った。


「日本でお祭りを見たかったけど、急に帰国することになったから、見れなかったのが残念だ。
みるの地元も、祇園祭があるんだよね?
お祭りの準備をしている人たちを見かけた。」


わたしの地元の祇園祭は、京都や博多に比べると大きいお祭りではないが、地元では四大祭りのひとつで、わたしも大好きだ。


特に、宵山の灯りをみながら聴く祇園囃子の笛の音色がなんとも情緒があり、心に沁みる。


コロナで数年間開催されておらず、今年は久々に山鉾が町を練り歩くということで、地元に少し活気が戻っている雰囲気も感じていた。


そんな詳細は語らず、わたしは短く答えた。


「そうだね。わたしの地元にもあるよ。
でも、有名で大きいお祭りはやっぱり博多や京都の祇園だよね。」


キムさんが、「ふ〜ん、そうなんだ。」というような顔をした。


そろそろ空港に向かう時間が近づいてきたのでわたしは言った。


「そろそろホテルに荷物を取りに行って、ソウル駅から空港に向かわなきゃ。」


するとキムさんが言った。


「僕も、ソウル駅に用事があるから、一緒にソウル駅まで行ってもいい?」


そのひと言が素直に嬉しくて、「うん!」と答えた。




✳︎



ソウル駅の空港ターミナルに到着。


キムさんは、「いつも自宅から直接空港へ行くからここは初めてきた」と言って、物珍しそうに周りを見渡していた。


キムさんは改札ギリギリまで見送ってくれた。


「楽しい時間をありがとう。」


と伝えると、


「僕も楽しかった!」


と返ってきた。



改札を通ってホーム階へ降りるエレベーターに乗ると、キムさんはまだ改札の向こうにいて、手を振ってくれた。



✳︎



ホームに電車が到着して、スーツケースを置いて指定席に座ってホッとひと息をつく。



最初はどうなることかと思ったけど、波乱万丈で舞台も無事に観れて楽しい旅だったな……


と、早くも旅の余韻に浸っていると、わたしのスマホが鳴った。




キムさんからだった。








「ヌナ、祇園祭に連れて行ってくれる?」






次回、新シーズンへ続く……

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