見出し画像

わたしとキムくん #5 やさしい気持ち

【これまでのあらすじ】
待ちに待ったキムくんとの再会の日。キムくんを迎えに行く車の中で感極まって泣いてしまったみるかく子。
駅の改札で待っていると、キムくんらしき人がこちらへ向かってくる。
……あれ?
キムくんと再会したみるかく子は、一瞬言葉を失ってしまった。
一体何があったのか!?


✳︎


「ヒサシブリ〜」

「ひ…久しぶり……」

「元気だった?」

「うん、元気だったよ。車は向こうに止めてあるから行こう。」

「うん、ありがとう。」

「……ごめん、ちょっとトイレに行ってくるね!」


キムくんへそう告げて、トイレへ向かった。


心を落ち着けるために。


✳︎


ふぅ……


洗面台で息を整える。



なんで、こうなっちゃったんだろ。

なんで?この間まで全然そんな感じじゃなかったじゃん……



2週間ぶりくらいに会ったキムくん。





キムくんの髪型が、





コボちゃんになっていた。



コボちゃん


そういえば、髪の毛切りに行くって言ってたけども……

コボちゃんヘア?マッシュルームヘア?は確かに韓国でよく見かけるけども……


個人的に、この髪型にしていいのは、子ども、

もしくは、すごくお洒落な人だけだと思ってる。


ホットペッパービューティーで、"コボちゃん"と検索をかけてみても、大体ヒットするのは可愛い子どもたちのカットである。


ホットペッパービューティーより拝借。



人を選びまくるこの髪型。


お洒落に興味のない一般人がこの髪型にすると、バナナマン日村になってしまうのだ。


(決して日村さんを否定しているわけではないです。彼は芸能人であり、彼はこの髪型をトレードマークにしていますよね。)


キムくんには、このコボちゃんカットが致命的に似合っていなかった。

キムくんの髪は真っ黒で、サラサラで、見れば見るほど日村ヘアーに見えてきてしまう。


トイレを出たわたしは何事もなかったように冷静に振る舞おうとしたが、内心ずっと動揺していた。


駐車場の料金を払わずに出発しようとして、上がったままのバーにタイヤが引っ掛かり、「ガコンッ」となってしまうくらいに動揺していた。


あたふたしながら、キムくんを助手席にのせてようやく出発。


「ミル、髪切ったんだね。似合ってるよ」

「うん…ありがとう。」


どうしよう……


わたしはお世辞にも、「キムくんも似合ってるよ」なんて言ってあげられない……

いや、でもたかが髪型なんだけど……
でも、でも……


一通り会話をした後、何を話したらいいのかわからなくなってしまった。


そうだ、何か音楽を……


そこで、キムくんが知っている米津玄師やあいみょんの曲をかければ良いもののを。


さっきまで感極まって泣いていたのに、心の整理がつかないままどうしたら良いのかわからなくなってしまったわたしは、椎名林檎を爆音でかけて、キムくんの目も気にせず大きな声で歌った。


椎名林檎「無罪モラトリアム」


ランチも、その後行ったカフェでも、会話はあるものの、どこかうわの空になってしまうわたし。

そんなわたしの態度に連動してなのか、キムくんもなんだかぎこちなくて、会話が弾まない。


どうしよう……

どうしても、どうしても、コボちゃん日村ヘアが気になってしまう。


「見晴らしいいね〜」

コボちゃん。

「このタルト美味しい!食べてみる?」

コボちゃん。

「なんでその髪型にしたの?」とか、

「前の方が良かったな…」とか、

「コボちゃんっていうキャラクターみたいだよ」とか、

明るく言ってみようかな?とも思ったけども、傷つけてしまわないかと思って、言い出せなかった。



✳︎



祇園の宵山まで時間を持て余したわたしたちは、その後神社へ行った。


そうだ!こんな時は神頼みだ。神様にお願いしてみよう。


伏見稲荷神社みたいに鳥居が連なる神社⛩


二礼二拍手一礼をして、神様に念入りにお願いをする。


もしも、この出会いがいいご縁であるのなら。
どうか、どうか、何卒よろしくお願いします。


参拝した後、おみくじを引いてみたら、大吉だった。

わりといいことばかり書かれてあったのだが……


お分かりいただけただろうか。


「恋愛」のところ。



一線を超えるな……

神のお告げ


ほかはいいことばかり書いているのに、恋愛のところはなぜか。


「一線を超えるな」


つまり、そういうことなのかもしれない。
いや、たかがおみくじやけども。
いや、でもでも。
今の心情にドンピシャすぎる。


神社を後にしたわたしたちは、パン屋さんや本屋さんにも立ち寄ったりして、祇園祭までの時間を過ごした。


が、


やっぱりなんだかお互いなんだか少しぎこちなくて、恋愛が発展しそうな気配はない。


バチェラーで、お互いそこまで気が乗り切れていない相手とのデートってきっとこんな感じなんだな、と思った。


✳︎


夕方ごろ、キムくんが宿泊するホテルに到着し、先にチェックインすることに。


「荷物置いてくるから、ここで待ってて。」


そう言ってキムくんはホテルの中へ入って行った。


車の中で1人、心を落ち着ける。


あぁ、わたし、キムくんを迎えに行く時の車の中が一番気持ちが盛り上がってたよなぁ……
あのときの気持ちと涙はどこへ行ってしまったんだろう……


そんなことを悶々と考えていると、キムくんが戻ってきてこう言った。


「まだお祭りまでは時間があるよね?どこへ行こうか?」

どこかで時間を潰したかったけど、田舎じもとのめんどくさいところ。誰が何してたなんてすぐ広がってしまう。


どこどこの、だれだれちゃんが、男の子と一緒にいたよ、なんて。


最近までしばらく地元には住んでいなかったものの、こんなお祭りの日は特に知り合いにバッタリ会ってしまう可能性があるので要注意だ。


キムくんのコボちゃんヘアは、日本の田舎の中でみると、妙に目立つし。


「いや……実は、その辺に知り合いもたくさんいるから、あんまり歩き回りたくないんだよね。わたしがデートしてるって思われたら嫌だし。」

「…これ、デートだけど?」


そう、キムくんが言った。


……デートだという意識はあるんだ。


でも、ごめん。

これをデートだと認めたくない自分がいる……


「じゃぁ、ちょっと市内をぐるっとドライブしよう」


キムくんの「デートだよ」発言をスルーして、わたしは車のエンジンをかけた。

今日再会してから今まで、わたしの態度を少し冷たく感じてしまったかもしれない。

でもごめん。今のわたしにはこれが精一杯だ。


✳︎


自分が通っていた小学校、中学校、小さい頃に住んでいたアパートなどをドライブして、公園に車を止めて河原まで歩いた。


広い川面に映る夕日が綺麗だった。


緩やかに流れる水の音と、少しずつ赤く染まる空が雰囲気を演出してくれている。


景色の力も借りて、ゆっくりと優しい時間が流れる。


コボちゃんヘアを視界に入れずに、こうやって2人で並んでいると、やっぱり落ち着くんだよなぁ……


30分ほどのんびり雑談していたら、ちょうどいい時間になってきた。


「そろそろ行こうか。」


わたしがそう言うと、キムくんが先に立ち上がって、手を差し出してくれた。

厚みがあって柔らかい、温かい手だった。


そのまま手を繋いで歩くのかな、と思ったのだけど、わたしが立ち上がったら、キムくんはすぐに手を離した。


そのまま手を繋いでいてくれたら、わたしもドキドキするかもしれないのに。恋愛ってそういうところから始まるんじゃないのかな……?


"手をつなごう 手を ずっとこうしてたいの……"

やさしい気持ち/Chara


デートだと思いたくない気持ちと、でもときめく瞬間を待っている気持ち。

これがデートなら、コボちゃんが気にならないくらい、もっとキュンとさせてほしい……


女心と秋の空。


なんだか矛盾しているなと自分でも思ったのだけど、それが正直な気持ちだった。





続く…

【あとがき】
前回のラストでわたしが絶句してしまった理由、それは「キムくんがコボちゃんヘアになっていたから」でした。

「そんな、髪型くらいで……」と思われる方ももしかしたらいらっしゃるかもしれません^^;

が、もし、みなさんの彼がとてつもなく似合わない髪型で現れたら、どうしますか?
笑って指摘しますか?
「なんでその髪型にしたの?」と尋ねますか?
わたしはどうしたら良いかわからなかったので、教えてください……笑

とはいえ、別にわたし自身もめちゃくちゃお洒落で垢抜けているわけではないので人のことは言えません^^;(めちゃ言うとるやないか!)
服も今ではほとんどUNIQLOだし。

でも、自分の骨格やパーソナルカラーなどを考慮して、コスパ良く自分に似合う髪型や服装を追求しているつもりです。

以前にも書いたと思いますが、キムくんは磨けば光るポテンシャルを持っていると感じていたので(何様ww)いきなり似合わない髪型で現れたのが本当に惜しかった……

でも、確かにこの髪型は韓国でよく見かけるんです。
流行ってるんですか?日本のスポーツ刈りみたいなものでしょうか?
なんという髪型ですか?

韓国のファッション文化有識者の方、教えてください。

では、また〜^^

▼"やさしい気持ち" /Chara




この記事が参加している募集

夏の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?