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2023年11月の記事一覧

日曜日

日曜日

ベッドから
ものが落ちる音が好きだ
読みもしないのに枕元に置いた本が
ずるりずるりと
這いずって逃げていく

安易に落胆するのが好きだ
窓辺の蝿取蜘蛛が
じっと狙いを定めている
昨日見た夢も忘れてしまったので
くりかえされるだけの日曜日

夏蜜柑

夏蜜柑

「なにがおかしいのよ」
まる裸の夏蜜柑が言った。
ひと房口に含むと、
ぐじゅり
もう何も聞こえなくなった。

なにがと言われても、
おまえ以外のすべての夏が、
という他ない。
かぐわしい精油の香り、
ぽろぽろ崩れる金の粒。

あとは白くひかる遠くの街と、
渦をまく蚊柱、
乾いた乱杙歯、
なにかのしっぽ
だけが。

こんなにすずしくて、
誰からも望まれて、
お前は幸せだよ、と
夏蜜柑に言ってみた。

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おそろしきもの

おそろしきもの

夏は夜。
窓をほそく開けると、
鼻の奥に
甘い山ゆり、
湿った苔と月の光、そして
しんと冷えた墨汁を混ぜた、
闇がながれこんでくる。
ねむれねむれと囁かれても、
頭は冴えてゆくばかり。
そり、と頬に怖気がはしって、
もう二度と
もとの世界に戻れまいと思う。

夏

夏というのは
とかくつまらぬ。
汗は風にさらわれ消えて
蝉の声
頭を垂れる向日葵
がたん、ごとん、列車の音と
ぐわしゃ
取り落としたガラス瓶の
そのあざやかな、
青だけ。

エコロジー

エコロジー

小さな幸福を
乱獲するように生きております

こともあろうに
「もっと早くにこうしておけば」と
思いながら

すべてが身に過ぎたる日々だからこそ
使い果たす時を想像したくないのです
無為にふくらむ影絵のようにおもわれて
思わず叫びたくなるような

その瞬間を!

そのおそろしさを誤魔化すために
今日も世界をむさぼりました

地獄

地獄

冷蔵庫の野菜室で、地獄を飼っている。
私が着けた名である。
地獄は何よりも赤く、
ぼこぼこと湧き出す液状の固体である。

私は考える。
これは路地に垂らした鼻血であり、
子供の皮膚から滲んだ血膿であり、
チフスに罹った兵士の下血であり、
堕胎を繰り返した女の真っ黒な血、
なのかもしれないと。

地獄は今日もぼこぼこと湧いている。
そうしてなぜか、
私が先週買ってきた一袋のモヤシを、
今日も新鮮なま

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ノック

ノック

こん
こん
こん
はあい
がちゃり

こつぜんと
白いかべ
ぐちゃっと
しみがついていて
あしもとに
ぬるくひろがる
まあるいまるい
血溜りと、
潰れた子犬。