シェア
味醂星
2023年11月27日 20:01
ベッドからものが落ちる音が好きだ読みもしないのに枕元に置いた本がずるりずるりと這いずって逃げていく安易に落胆するのが好きだ窓辺の蝿取蜘蛛がじっと狙いを定めている昨日見た夢も忘れてしまったのでくりかえされるだけの日曜日
2023年11月24日 00:12
「なにがおかしいのよ」まる裸の夏蜜柑が言った。ひと房口に含むと、ぐじゅりもう何も聞こえなくなった。なにがと言われても、おまえ以外のすべての夏が、という他ない。かぐわしい精油の香り、ぽろぽろ崩れる金の粒。あとは白くひかる遠くの街と、渦をまく蚊柱、乾いた乱杙歯、なにかのしっぽだけが。こんなにすずしくて、誰からも望まれて、お前は幸せだよ、と夏蜜柑に言ってみた。
2023年11月24日 00:04
夏は夜。窓をほそく開けると、鼻の奥に甘い山ゆり、湿った苔と月の光、そしてしんと冷えた墨汁を混ぜた、闇がながれこんでくる。ねむれねむれと囁かれても、頭は冴えてゆくばかり。そり、と頬に怖気がはしって、もう二度ともとの世界に戻れまいと思う。
2023年11月24日 00:02
夏というのはとかくつまらぬ。汗は風にさらわれ消えて蝉の声頭を垂れる向日葵がたん、ごとん、列車の音とぐわしゃ取り落としたガラス瓶のそのあざやかな、青だけ。
2023年11月6日 19:50
小さな幸福を乱獲するように生きておりますこともあろうに「もっと早くにこうしておけば」と思いながらすべてが身に過ぎたる日々だからこそ使い果たす時を想像したくないのです無為にふくらむ影絵のようにおもわれて思わず叫びたくなるようなその瞬間を!そのおそろしさを誤魔化すために今日も世界をむさぼりました
2023年11月6日 19:46
冷蔵庫の野菜室で、地獄を飼っている。私が着けた名である。地獄は何よりも赤く、ぼこぼこと湧き出す液状の固体である。私は考える。これは路地に垂らした鼻血であり、子供の皮膚から滲んだ血膿であり、チフスに罹った兵士の下血であり、堕胎を繰り返した女の真っ黒な血、なのかもしれないと。地獄は今日もぼこぼこと湧いている。そうしてなぜか、私が先週買ってきた一袋のモヤシを、今日も新鮮なま
2023年11月6日 19:37
こんこんこんはあいがちゃりこつぜんと白いかべぐちゃっとしみがついていてあしもとにぬるくひろがるまあるいまるい血溜りと、潰れた子犬。