シナリオ 『無数の分岐点』


大学の授業で初めて制作したシナリオです。

お時間あればぜひ、、拙い文章ではありますが
読んでいただけたら嬉しいです。

17歳の女の子が、一人の警察官と出会い、それが
分岐点となるお話です。 

主人公の女の子と似たような境遇の人が読んだ時、

「こんな大人もいるんだな」

って少しでも思ってもらえるような作品にしたいと思い、頑張って書きました

心を閉ざしていて、危ない道に逸れてしまいそうな
女の子を、大人が正しい道に戻す
そして、信頼出来る大人もいる

ということを一つの作品を通して伝えたかった。

私の想いが、
伝わるシナリオとなっていれば幸いです。


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タイトル 『無数の分岐点』
著者  深凛


〇回想/凛の家・リビング(夕)
     10年前。電話をしている浅羽美紀(32)。華美な
     服装。声のトーンが高い。
美紀「(電話に)もしもしカズくん?電話待ってた
    よ〜〜。……今日?全然空いてる!」
      美紀、鏡に向かって口紅を塗っている。
      浅羽凛(7)、美紀をじっと見ている。美紀、その
      目線には気づかない。
美紀「(電話に)……うん、……うん、わかった。
    じゃあまた後でね」
      美紀、凛を一瞬見たあとすぐに自分の支度をし
      ながら。
美紀「私今日の夜遅くなるから。適当にあるやつ食べ
    て」 
      美紀、凛を見ることなくドアを開け、バンと閉
      める。ヒールの音が遠ざかる。
凛「(無表情)……」
      凛、台所に移動し、棚においてある食パンを
      一枚取り食べる。
 
〇凛の家・リビング(夜)
     ソファーに座り、テレビを見ながら食パンを食
     べる凛(17)。テレビからはドラマが流れている。    
     美紀(43)、出かける支度をしている。華美な服装
     で唇は赤い。手持ちバッグと、スーツケースを手
     に持って。
美紀「私今日からしばらく家戻らないから」
凛「……しばらく?」
美紀「私がいなくても別に問題無いでしょ」
凛「……」
美紀「これ使って適当に何か買って」
      と言いながら机に1万円を置く。足取り軽くドア
      を開け、バンと閉める。ヒールの音が遠ざか
      る。凛、ドアを見つめて。
凛「……また男か」
      凛、見ていたドラマに目を戻す。流れているド
      ラマの場面は、男と女の間には子供がおり、そ
      の子供が危険な目に合っているという状況。
橘(セリフ)「私行かなきゃ」
男1(セリフ)「ダメだ危険すぎる!」
橘(セリフ)「危険なことくらいわかってる!」
男1(セリフ)「じゃあ」
橘(セリフ)「(言葉を遮って)あの子のためなら……私
   は死んだって構わない!」
       テレビ画面を見つめながら。
凛「(呟くように)……うちの親とは大違い」
 
〇凛の家・リビング(朝)
     ソファーで目を覚ます凛。テレビはついたまま。
     凛、スマートフォンを手に取る。
 
〇スマートフォンの画面
      ニュースサイトの小さな記事に[女優・橘優希、
      万引き発覚で事務所解雇へ]とあり、タップす
      る。女優のアップの顔写真が出る。下にスライ
      ドすると、[万引きがやめられない「クレプトマ
      ニア」(窃盗症)]という関連記事。
凛「クレプトマニア……?」
     タップし、さらに記事を読み進める。[盗みを
     はたらく瞬間のスリルや、成功した瞬間の満足
     感・高揚感に取りつかれている]といった内容。
凛「スリル……満足感……」
 
〇スーパー・店内(夜)
店員「いらっしゃいませ〜」
      店員、凛を見ることなく陳列作業をしている。
      凛、奥まで進みおにぎりを手に取る。周囲を見
      て、誰も見ていないことを確認しバッグへ押し
      込む。
 
〇スーパー・店外(夜)
      いつも通りに歩き、店を出る。後ろを振り返る
      が、店員がついてくる気配はない。
凛「……」
 
〇学校・教室(朝)
      ホームルーム前、生徒たちが各々で雑談をして
      いる。凛、友人の菅波結花(17)と話している。
結花「そういえば昨日さ、家の近くのコンビニに警察
    きてて」
凛「へぇ。なんかあったの?」
結花「なんだろうと思ったら、万引きした人がいたみ
    たいで」
凛「(動揺)……!」
結花「最近もニュースになってたよね。女優の橘優
    希、万引き発覚って」
凛「……」
結花「繰り返しやってたらしいよ。ネット記事の内容
    だけどね」
凛「繰り返し……」
結花「でも、正直、意外とバレなさそうだと思わな
    い?」
      凛、動揺を隠して。
凛「……そうなのかな」
結花「だってやるのなんて一瞬じゃん!やった事ない
    から知らないけど」
凛「……」
結花「まぁ、凛はそういうのとは無縁か。成績も優秀
    で!真面目だもんね〜」
凛「(曖昧に笑って)……そうだね」
 
〇スーパー・店内(夕)
店員「いらっしゃいませ〜」
     凛、学校帰りにいつものように慣れた手つきで
     お菓子をバックに入れる。それを見ている店員。
 
〇スーパー・店外(夕)
     凛の背中を追いかける店員。
店員「ちょっと君」
凛「……!」
店員「一緒に裏まで来てくれる?」
 
〇スーパー裏・倉庫(夕)
      長テーブルを挟みパイプ椅子が4脚。向かい合っ
      て凛と店員が座っている。
店員「君、学生だよね。学校名と名前、教えてくれ
    る?」
      凛、俯いて通学バックの持ち手を握りしめる。
店員「……とりあえず、今警察呼んだから」
      ドアのノック音とともに、宮原柊(25)と、馬場
      徹(50)が室内へ。店員は立ち上がり、そこに柊
      が座る。
柊「君、名前は?」
凛「……浅羽凛、です」
柊「浅羽さん、どうしてこんなことしたの?」
凛「……」
柊「何かやらなきゃいけない理由があった?」
凛「……」
店員「困るんですよねぇ。こういうことされると」
凛「……すみませんでした」
店員「……まぁ、本人も反省してるみたいですし? 
    商品も返してもらったので今回は大事にはしませ
    んけど。次は無いですからね」
凛「……」
柊「親御さんの電話番号教えて?」
凛「……電話かけても、ここには来ないと思います」
     凛、美紀の電話番号を表示し、スマートフォンを
     柊に差し出す。柊、電話をかける。
美紀の声「もしもし」
柊「(電話に)こちら警察ですが、浅羽さんのお電話で
    お間違いないですか」
美紀の声「……警察?」
柊「(電話に)娘さんが、スーパーで万引きをしまして」
美紀「(電話に)……万引き? 娘が?」
柊の声「今からこちらに来ていただくことは可能です
    か」
美紀「(電話に)……今忙しいんですよ。帰ったら娘に
    しっかり言っときますから。もういいですか?
    失礼します」
      美紀、一方的に電話を切る。柊、馬場の顔を見
      て首を横に振る。柊、持っているスマートフォ
      ンを凛に返しながら。
柊「今日はもう家に帰りなさい。こういうことは、
    二度としないように」
凛「……」
 
〇道中(夕)
      車内、柊が運転をしている。
柊「普通の、真面目そうな女の子でしたね」
馬場「見た目と中身が違うことなんてザラにある」
柊「……またやらないといいんですけど」
馬場「一度やり出すと、やめるのは難しいからな」
 
〇凛の家・リビング(夜)
美紀「万引きしたって何?」
凛「……」
美紀「何してくれてんの?私の顔に泥塗る気?勘弁し
    てよ……ほんと迷惑」
凛「……」
美紀「私の邪魔だけはしないで」
 
〇凛の家・部屋(夜)
      凛、ベットに横になり、スマートフォンを見て
      いる。画面には[万引き バレないコツ]という
      記事。
 
〇回想/スーパー・倉庫(夕)
柊「もうこんなこと、二度としないように」
 
〇戻って、凛の家・部屋(夜)
      Twitterを開く。[家にいたくない。お腹空い
      た]とツイート。携帯を閉じた後すぐに通知
      音。[ヒデ:良ければご飯とかどうですか?]
 
〇駅前(夜)
      山本秀則(49)、凛らしき人物を見つけ近づく。
      凛のプロフィール画面を表示して。
秀則「あの……この方ですか?」
凛「はい」
      凛、Twitterを開き、秀則のプロフィール画面を
      表示して。
凛「この方ですか?」
秀則「これです。ヒデ、です。……お腹、空いてます
    よね?」
 
〇飲食店・店内(夜)
      4人がけの席に向かい合って座っている。テーブ
      ルには5品ほどの料理。
秀則「家にいたくないって書いてたけど、どうし
    て?」
凛「……理由は特にないです」
秀則「ご飯はいつもどうしてるの?」
凛「家にあるもの適当に食べたり、外で買ったりとか
    してます」
秀則「お母さん、いつもいないの?」
凛「基本仕事か、男かで、私に関心ないので」
秀則「そっか。それは可哀想だね」
凛「……」
秀則「僕はもっと、君のこと知りたいな」
 
〇道中(夜)
秀則「今日はありがとう」
      と言いながら凛の体を触る。凛、強引に距離を
      取って。
凛「こちらこそ、今日はありがとうございまし
    た。……お金まで出していただいて」
秀則「役に立ててよかった。またなんかあればいつで
    も連絡していいからね」
 
〇同・スーパー・店内(夜)
      凛、お菓子を手に取る。慣れた手つきでバッグ
      の中へ。
 
〇凛の家・部屋(夜)
      スマートフォンの画面。[ヒデ:明日も一緒に
      ご飯どう?]と表示。
凛「……キモ。てかウザ」
      バッグから万引きした商品を取り出す。額に手
      を当てて俯く。
 
〇スーパー・店内(夕)
      凛、お菓子を手に取る。それをバッグに入れよ
      うとした時。
柊「浅羽さん!」
凛「……!!」
      凛、手に持っていた商品を棚に戻す。
 
〇公園(夕)
      ベンチに横並びで座っている。柊、お菓子を差
      し出して。
柊「ほら、食べな」
凛「……いりません」
柊「ひとりじゃ食べきれないから」
      と言って再度差し出す。凛、無言で食べる。
柊「買い物してたらたまたま見かけて。それで声かけ
    た」
凛「……」
柊「まだ、やめられない?」
凛「……なんでそんなこと聞くんですか」
柊「前に浅羽さんと似たような子に会ったことがあっ
    てさ」
凛「?」
柊「なんていうか……雰囲気?」
凛「……」
柊「お母さんとは?あの後話した?」
 
〇回想/凛の家・リビング(夜)
美紀「私の顔に泥塗る気?……ほんと迷惑」
 
〇戻って、公園(夕)
凛「別にいいじゃないですか、そんなこと」
柊「……」
凛「もういいですか?」
      凛、立ち上がって歩こうとする。
柊「困ったことがあればいつでも相談して。あそこに
    (と言って交番を指す)いつもいるから」
 
〇警察署・ロッカールーム(夜)
      勤務終わり、制服から私服に着替えている。
馬場「何かあったのか」
柊「?」
馬場「一日中考え込んでる顔してたぞ」
柊「……」
馬場「久しぶりに飲み行くか」
 
〇居酒屋・店内(夜)
      テーブルを挟み向かい合って座っている。ビール
      や品物が7品ほど並んでいる。
柊「昨日、万引きで捕まえた子に会ったんです」
馬場「あぁ、高校生の?」
柊「スーパーで見かけて、そしたらまた……やろうと
    してたっぽくて」
馬場「……そうか」
柊「俺がたまたま見てたから声かけて。止められまし
    たけど」
馬場「……」
柊「重なって見えるんです。あの子と、3年前の子が」
 
〇柊の回想/スーパー・店内(夕)
      3年前。柊、桜良(17)が万引きしそうな瞬間を見
      て。
柊「棚に戻しなさい」
桜良「……!」
柊「もうやらないって、ついこの前約束したはずだ」
 
〇同・道中(夕)
      桜良、早足で歩く。柊、追いかけ桜良の腕を掴
      んで。
柊「どうして何度も繰り返す」
桜良「……そんな簡単にやめられないの!……自力で
    やめられるならとっくにやめてる」
柊「そう言いながら、これから先もずっと繰り返す
    つもりか?」
 
〇戻って、居酒屋・店内(夜)
馬場「もう3年か。……まだ気にしてんのか?」
柊「気にしてない……って言ったら嘘になります」
馬場「……」
柊「あの時の俺は……やめさせることしか考えてなく
    て、本人の事情なんて全部無視した。かける言葉
    も全部間違ってました」
馬場「あの時と、今の子は違う。あんまり重ねすぎる
    な」
柊「……わかってます。でももうあの頃の俺じゃな
    い。……同じ失敗は繰り返さない」
馬場「忘れろとは言わない。だが、引きずりすぎると
    今後に支障をきたすぞ」
 
〇凛の家・リビング(朝)
      凛、支度を終えご飯を食べている。美紀、出か
      ける準備をしながら。
美紀「明日、男の人連れてくるから家いないでね。
    友達の家にでも泊まって」
凛「……」
 
〇学校・教室(朝)
      結花、自分の机で学級日誌を書いている。
結花「今日何日だっけ」
凛「7日」
結花「……明日母の日じゃん!」
凛「そうなの?」
結花「(笑って)そうなの?って。凛は何かあげるの?」
凛「……特に考えてない」
結花「ええ! あげたらお母さん喜ぶよ!」
 
〇雑貨店・店内(夕)
結花「何あげるか迷っちゃうね〜」
凛「……毎年あげてるの?」
結花「一応ね。こんな時じゃないと、改まってお礼な 
    んて恥ずかしいじゃん?」
凛「そういうもんなんだ」
結花「一周回ってこれとかいいかな」
      と、カーネーションを指さす。「母の日のプレゼ
      ントにいかがですか?」と書かれたポップ。
凛「……いいんじゃない?」
結花「凛は?プレゼント決めた?」
凛「……私も同じのにしようかな」
結花「(笑って)おそろいだね」
 
〇凛の家・リビング(夜)
      凛、昨日買ったカーネーションを手に持ってい
      る。ドアが開き、美紀が帰宅。
凛「おかえ」
美紀「(遮って)なんでいるの?今日家いないでって言
    ったよね」
凛「……」
美紀「何?その目。私がこういうこと言うといっつも
    その目するよね」
凛「……」
美紀「嫌いなんだよその目つき。早く出てってくれな
    い?これ以上イライラさせないで」
      凛、買った花を手に持って家を飛び出す。
 
〇公園(夜)
      凛、ベンチに座りカーネーションを手に持つ。
      柊、巡回中に凛に気づいて。
柊「こんな遅い時間にどうしたの」
凛「……!」
      柊、凛が持っているものを指さして。
柊「それ、カーネーション?」
凛「……前に会った時、聞きましたよね。あの日の
    後、お母さんと話したかって」
柊「うん」
      といいながら間を空けて凛の隣りに座る。
凛「私が……やった日の数日後、母が帰って来て。
    その時、私になんて言ったと思います? 「何して
    くれてんの?ほんと迷惑」って」
柊「……」
凛「最後に「私の邪魔しないで」って言われました」
柊「……そうだったんだ」
      凛、持っているカーネーションを見て。
凛「これ、友達と昨日買いに行ったんです」
柊「……」
凛「……友達、楽しそうにあげるもの選んでました。
    プレゼントをあげたいと思えるお母さんなんだな
    と思って……羨ましかった」
柊「……」
凛「私なんか、喜ばれるどころか渡す前に男が来るか
   ら出てけって」
柊「……」
凛「(涙目で)ほんと、笑っちゃう」
柊「……お父さんは?」
凛「いません。私がまだ小さい頃に両親は離婚してる
    ので」
柊「……」
凛「物心ついた時から、母はよく男の人を家に連れて
    きてました」
 
〇回想/凛の家・リビング(夕)
      7年前。美紀、男と家に帰って来る。
美紀「ほら、入って入って」
      リビングにいる凛を見て。
美紀「なんだ。いんのか」
男2「俺は別にいてもいいよ」
美紀「いたら邪魔でしょ?それに2人で話したいし。
    外でご飯食べよ?」
      美紀、男2と家を出て行く。それを眺める凛。
 
〇戻って、公園(夜)
凛「母にとって私は、昔からずっといらない存在だっ
    た」
柊「……」
凛「邪魔になるくらいなら、私の事なんて産まなきゃ
    良かったのに。……なんで私の事産んだんだろ
    う」
柊「……家には帰りずらい?」
凛「適当に泊まるところ探します」
柊「それだったら、今日はここに行くといい」
    と言ってスマートフォンの画面を見せる。[養護
    施設 ひだまり]のホームページ。
凛「ひだまり……?」
 
〇養護施設・外(夜)
      凛、柊に連れられ養護施設へ。建物前に白川成
      海(32)がやってきて。
成海「初めまして、白川成海です」
凛「(頭を下げて)浅羽凛です」
成海「浅羽さん。よろしくね」
柊「今日、宿泊大丈夫ですか」
成海「大丈夫ですよ」
柊「ありがとうございます。じゃあ、俺はこれで」
 
〇養護施設・部屋(夜)
成海「この部屋自由に使ってね。一階の共有スペース
    も、適当に使って大丈夫だから。何かあれば私に
    言って」
凛「ありがとうございます」
 
〇養護施設・リビング(夜)
      一階へ降りると共有スペースから話し声が聞こ
      え、ドアの前で立ち止まる凛。
女1「いつまでここいるの?」
女2「ん〜、でも母親次第かな」
女1「一緒。うちも今、親が職員の人と面談してるみ
    たい」
凛「……面談?」
 
〇養護施設・リビング(朝)
成海「もう出ていくの?ずっといていいのよ?」
凛「……家に帰ります」
成海「親だからって理由で、一緒にいなきゃいけない
    ことないよ」
凛「……」
成海「いつでも来て良いからね」
 
〇学校・教室(朝)
      凛が座っている所に、結花が声をかける。
結花「プレゼント、喜んでくれた?」
凛「あぁ……渡さなかった」
結花「え?」
凛「渡そうとは思ってたんだけど、その前にいろいろ
    あって」
結花「……そっか」
凛「結花のお母さんってさ、理想のお母さん!って
    感じだよね。私の親とは全然違う」
結花「……そうなのかな?凛のお母さんはどんな人? 
    私会ったことないから気になる」
凛「どんな人……。私のお母さんは……いつも寂しそ
    うで、すっごくたまに優しくなる人」
結花「えぇ!どういうこと?難しくてよくわかんな
    い」
凛「(少し笑って)わかんなくていいよ」
結花「なんでだよ!」
凛「また結花のお母さんに会いたいな」
結花「え〜!もういつでもお家きて!」
 
〇凛の家・部屋(夜)
       ベッドで横になる凛。
 
〇回想/養護施設・リビング(夜)
女1「うちも今、親が職員の人と面談してるみたい」
 
〇戻って、凛の家・部屋(夜)
凛「あそこには行けないしな……」
      Twitterで「家泊めてくれる人探してます」と呟く
      と、すぐに通知音。スマートフォンの画面
     [トモノリ:よければDMしませんか?]
     [康雄:都内住みです。今どちらにいますか?]
     [ヒデ:明日、17時に前と同じ駅でどうか
      な?]との表示。
 
〇駅前(夜)
      秀則、先に来ていた凛を見つけて。
秀則「久しぶりだね。また会えて嬉しいよ」
凛「……」
 
〇パトカー・車内(夜)
      巡回中、凛と秀則が歩道を歩いているところを
      見て。
馬場「……?あれって」
柊「浅羽さん……!」
馬場「一緒に歩いてる男は……誰だ?」
柊「父親はいないと聞きましたが」
馬場「……?」
 
〇ラブホテル・外(夜)
      建物前で立ち止まる秀則。
凛「……え?」
秀則「家って言ってたんだけど、今部屋汚くて。今日
    はここに泊まろう」
凛「……あの、やっぱり今日は」
      凛、駅へ向かおうと踵を返す。
秀則「どうしたの?早く入ろう」
      秀則、凛の手を握る。
凛「……!離してください」
      近くで見ていた柊、凛に近寄って。
柊「何している!」
      秀則、凛の手を離し逃げる。柊が追う。
 
〇同・道中(夜)
      柊、10mほど先で秀則を捕まえて。
柊「親の許可無く未成年を連れていくのは犯罪だ。
    わかってんのか?」
秀則「あの子が……家に帰りたくないって言うから」
柊「だからってホテルに連れ込んでいい訳ないだ    
    ろ!」
秀則「……俺はただ!親切心でお願いを聞いてやろう
    と思っただけだ!」
      柊、秀則の胸ぐらを掴む。
柊「ふざけんのもいい加減にしろよ」
      馬場、間に入りなだめるように。
馬場「やめろやめろ」
柊「(吐き捨てるように)……ゴミだな」
      柊、凛の所まで戻って。
柊「自分をもっと大切にしなさい!」
凛「……!」
柊「よく知らない人間について行くことがどれだけ危
    ないことかぐらい、考えればわかるはずだ!」
凛「……」
柊 「浅羽さんに、危ない目に合って欲しくない」
 
〇養護施設・外(夜)
      建物前に出てきた成海。柊、少し離れたところ
      で話を聞いている。
成海「どうして泊めてくれる人、Twitterで探した
    の?」
凛「……」
成海「前に一度ここに来てくれたのに、どうして昨日
    は来てくれなかったの」
凛「……信じてるんです、今でも」
成海「……?」
凛「あんなお母さんだけど、でも……信じたいんで
    す。他の男なんか見向きもしないで、いつか私だ
    けを見てくれる日が来るって」
成海「浅羽さん……」
凛「あそこに泊まった日、長く泊まると施設の人と親
    が面談しなきゃいけないって話してるの聞いて。
    ここに居続けたら、本当に捨てられちゃう気がし
    て怖かったんです」
成海「……」
凛「私は、周りの子と同じようなお母さんがほしかっ
    た。……それって求めすぎですか?」
      成海、首を横に振って。
成海「求めすぎなんかじゃない」
凛「……」
成海「でも、お母さんとは少し距離を置いた方が話し
    やすくなることもあると思う」
凛「……」
成海「しばらくはここに住んでみない?」
 
〇公園(夕)
      柊、交番から凛がベンチに座っているのを見
      て、声をかける。
柊「あれからどう?」
凛「ひだまり、過ごしやすいです」
柊「(笑って)それならよかった。……そういえば、
    あの男、初対面じゃなかったの?」
凛「……」
柊「あの後の事情聴取で、以前にも一度会ったことが
    あるって」 
凛「……前に一度、ご飯を奢ってもらいました」
柊「その時は?」
凛「……(俯く)」
柊「何もされてない?」
凛「特に変なことされた訳じゃないので」
柊「そういう問題じゃない」
凛「……後日、泊めてくれる人を探していますってツ
    イートしたら、その人からDMがきて。会ったこ  
    とない人よりは安心だし、大丈夫かなって思った
    んですけど」
柊「……でもよかった。危ない目に合う前で」
凛「……あの時、びっくりしました」
柊「え?」
凛「あんなに大人から怒られたの、初めて」
 
〇回想/道中(夜)
柊「もっと自分を大切にしなさい!」
 
〇戻って、公園(夕)
柊「(少し笑って)あぁ。あれね」
凛「……でも、私のためにこんなに必死になってくれ
    る人がいるんだなあって。嬉しかった」
柊「前に、浅羽さんと似たような女の子に会ったこと
    あるって言ったでしょ?」
 
〇柊の回想/スーパー裏・倉庫(夜)
      咲良の母、店員と柊に頭を下げて。
桜良の母「うちの娘が、何度もご迷惑をお掛けし
    て……本当にすみませんでした」
桜良「……」
 
〇同・スーパー・入口前(夜)
柊「いいお母さんじゃない。もうこんなことしちゃだ
    めだよ」
桜良「……どうしてそんなこと言うの?」
 
〇戻って、公園(夕)
柊「後になって、彼女が母親から虐待を受けていたこ
    とを知った。俺はその事実に最後まで気づけなか
    った。親は子供に愛情を注ぐのが当たり前だって
    信じて疑わなかった」
凛「……」
柊「当時はひだまりの存在も知る前で。彼女を補導す
    る度に、家に帰りなさいと言い続けた」
 
〇柊の回想/道中(夜)
      5年前。遅い時間まで外を歩いている桜良を見か
      けて。
柊「またこんな時間まで出歩い……」
      柊、桜良の顔を見て。
柊「その痣……」
桜良「これ、母親に殴られた跡です」
柊「……!」
桜良「私の親見て「いいお母さんじゃない」って何? 
    外ズラだけ見て判断して」
柊「……」
桜良「……あんな家帰りたくなるわけない。私の事情
    なんて一切聞かずに何様のつもり?」
 
〇戻って、公園(夕)
柊「最後に、自分の考え押しつけるなって言われて、
    それ以来その子には会ってない。今どこで何して
    るかも、わからない」
凛「……」
柊「もっと彼女の話を聞くべきだった」
凛「……」
柊「もしまた彼女と似たような子に出会ったら、その
    時は絶対、同じ過ちは繰り返さないって心に誓
    ってた」
凛「……私は、(柊を見て)頼れる大人に出会えて良か
    ったと思っています」
柊「……!」
 
〇学校・教室(夕)
      放課後、凛が帰り支度をしている。
結花「……ねえ凛」
凛「ん?」
結花「……最近ずっとお家帰ってないの?」
凛「……なんで?」
結花「昨日お母さんが、凛がひだまりから出てくるところ見たって」
凛「……」
結花「ほんとなの?」
凛「そうだよ。ほんと」
結花「なんで言ってくれなかったの」
凛「……言うことじゃないと思ったから」
結花「私じゃ力になれないってこと?言っても意味な
    いって思ったから?」
凛「そうじゃなくて。……私が言ったら「一緒に住
    も?」とか言い出すでしょ」
結花「当たり前じゃん」
凛「だから言わなかったの」
結花「だからなんで」
凛「……結花にも、結花のお母さんにも迷惑かけたく
    ない」
結花「迷惑なんかじゃ」
凛「(遮って)もし結花が迷惑じゃなくても、私は迷惑
    をかけてると思っちゃう」
結花「……」
凛「同情とかされたくない。可哀想とか思われたくな
    いし、そんな気持ちで私と居て欲しくなかった」
結花「同情なんかするわけない」
凛「……でもこれは、私の問題だから。結花に負担か
    けたくない」
結花「……お母さんと一緒には住めないの?」
凛「今は住めないかな。一度距離を置いた方が良いっ
    て職員の人に言われてて」
結花「……」
凛「私が悪かったのかな。もっと素直で可愛げのある
    娘だったら、私の事見てくれたのかも」
結花「凛のお母さんがそうなったのは、凛のせいじゃ
    ない」
凛「それはわかってる。私のせいじゃない」
結花「……」
凛「ウチの親、ホント最悪で。でも、あんなお母さん
    だけど……たった一人のお母さんだから」
結花「……」
凛「(困ったように笑って)嫌いになれないの」
      結花、涙目になり、咄嗟に顔を手で覆う。
凛「なんで結花が泣く」
結花「だって、こんなのおかしいじゃん。なんで凛が
    って」
凛「……ありがとね」
結花「私何にもしてない」
凛「そんなことない」
結花「私に出来ることがあれば何でも言って」
 
〇養護施設・リビング(昼)
      机を挟み、向かい合って座っている。
美紀「娘が……お世話になっております」
成海「娘さん、言ってましたよ。お母さんが、いつか
    私のことだけを見てくれる日が来るって信じたい
    って」
美紀「あの子が、そんなこと……。凛は、私の事嫌い
    なんだと思ってました」
成海「どんな母親であっても、子どもは嫌いになりき
    れないこともあると思います」
美紀「……」
成海「それに甘えて、今まで凛さんの存在を蔑ろにし
    てきたのは、お母様の責任です」
美紀「……夫と離婚してから、自分のことに必死で。
    いつからか、どう接していいのかも分からなく
    て」
成海「一度、凛さんと、しっかりと向き合ってみては
    いかがですか」

〇交番・外(夕)
      交番前に立っていた柊を見つけ、凛が声をかけ
      る。
凛「お久しぶりです」
      柊、凛を見つけ目を見開く。
柊「……!元気そうで安心した。……しばらくはあそ
    こで暮らすの?」
凛「はい。……お母さんと距離を置くようになってか
    ら、返って前よりも話すようになりました。主に
    LINEのやり取りで、たまに電話するぐらいですけ
    ど」
柊「そっか」
凛「(頭を下げて)……改めて、いろいろ、ありがと
    うございました」
柊「礼なんてそんな」
凛「それじゃあ、失礼します」
      凛、歩き出す。
柊「(呟くように)……あんな笑顔、初めて見たな」
      凛、10歩ほど歩き後ろを振り返る。柊はそれに
      気づいていない。
無線の声「駅前で暴力事件発生。すぐに現場に向か
    え」
柊「こちら宮原、了解」
      柊、走り出す。凛、微笑んでまた歩き出す。
 
タイトル 『無数の分岐点』
                       完


#シナリオ  #創作

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