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あじさいと眼鏡雑誌

幼稚園の送り迎えで通る道に、今年もあじさいが咲いている。

いつしか私にとってこのあじさいは、安堵感や達成感の象徴のような存在となっていた。咲き誇る花に「おつかれさま」と労ってもらっている感じがして、普段はさして花に興味がないくせに、このあじさいだけは写真を撮ってインスタにアップしたりしていた。

6月といえば、眼鏡雑誌が発売になる時季。私は2誌の眼鏡雑誌にライターとして関わっている。いずれも、発行は年2回。いわゆる春夏号の発行は、だいたい5月末~6月上旬ぐらいだ。

春夏号の準備は3月からスタートし、桜のつぼみがほころぶ頃から次第に忙しくなる。その間は道に咲く草花に目をやる余裕もなく、頭のなかは原稿のことばかり。子どもの手を引き歩きながらも、「キャプションの見出しはどうしよう」などと考えたりしている、ダメな母親だ。

そんな日々が約2か月ほど続き、6月初旬には雑誌が発売に。ようやく心に余裕ができた頃、道のあじさいが目にとまる。「あぁ、桜が咲いていたかと思ったら、もうあじさいか。この春も頑張ったな」と思える瞬間だ。

今年の春はずっと子どもと過ごしていたので、季節の草花や虫を観察するかのように散歩をしていた。私はかなりの虫嫌いなのだけど、この2か月で、アリやてんとう虫ぐらいでは怯まなくなった。

そして幼稚園の再開とともに、あじさいが咲いた。この約2か月間たしかに「おつかれさま」なのだけど、気持ちは複雑だ。今年はいつものように、雑誌の発売を報告できない。

自粛期間中は育児に追われ、その合間に仕事をこなし、バタバタしていて何も考えられなかったのだけど。日常が戻りつつある今、いつものように咲くあじさいを見て、自分の気持ちに気が付いてしまった。

眼鏡ライターにとって、眼鏡雑誌のない春はやっぱり寂しい。

来年は、どんな気持ちであじさいを見るのだろう。

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