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私の頭のなかの雑音①

「ピーーーーーーー」

忘れもしない。それは、7月30日の夕方のこと。
いつものように仕事を終えて、「さぁ、子どものお迎えだ」と立ち上がった途端に、耳鳴りがした。

耳鳴りなんてよくあることで、大抵10秒も経たないうちに消えていった。でも、今回は違う。ずーっと鳴りやまない。5分経っても、10分経っても鳴りやまない。

「あんまり長いし、これは耳鳴りじゃなくて電化製品とかの音かな」。
そう思って部屋を移動してみるも、音はついてくる。お迎えから帰ってきても、ご飯を食べても鳴りやまない。不安でじっとしていられなくなり、夫が帰ってきたあと子どもを任せて、夜の町をあてどなく散歩した。

ツイッターに耳鳴りのことを書き込むと、いくつかありがたいリプライをもらった。その原因が突発性難聴であれば、一刻も早く耳鼻科にかかることが重要とのことだったので、翌朝耳鼻科に行くことにした。

頭のなかにセミがいる

起きると、耳鳴りはすっかり止んでいた。でも、念のためと思い朝から耳鼻科を受診。聴力にはまったく問題がないとのことで、まずはひと安心。ビタミン剤を処方され、それで様子をみるようにということだった。私はもう、すっかり治ったような気でいた。

ところが、夕方になるとまた耳鳴りが始まる。寝るまで途切れることなく、ずーっと。でも、翌朝起きると止んでいる。そんなことを2~3日繰り返していた。

そして1週間ほど経つと音は次第に存在感を増し、私はとうとう音が気になって眠れなくなる。耳鳴りは、いつの間にか頭全体で鳴り始め、音も「ピーーー」から、「ビーーー」や「ジーーー」に変わっていた。

頭のなかにセミがいるような音。検索したら、これは「頭鳴(ずめい)」というらしい。耳鼻科の先生は「気にしないのが一番」というが、頭でビービー音が鳴り続けていて、気にしないでいることなんてできるのか。リラックスしたくても、本を読もうとしても、眠ろうとしても、ずーっと音から逃れられない。もしかしたら、これが一生続くのかもしれない。

なんでこんなことになったのだろう。私は、どうしたら良いのだろう・・・。毎晩「耳鳴り 治し方」「耳鳴り 名医」などと検索しては、さらに不安になって眠れなくなる。そんな悪循環を繰り返していた。

不眠と不安でご飯も食べられなくなり、ゼリー飲料ぐらいしか口にできない日も。2週間経った頃には、体重が4㎏ほど落ちていた。もう、心身ともに疲れきっていた。毎日まともに眠れず、早朝に目が覚めると、それ以上眠ることを諦め、自分の頭の中のセミを連れて大きな公園へと向かう。たくさんのセミの鳴き声のなかにいると、頭の中の音と同化してラクになれるからだ。セミ、大嫌いなのに。でも、とにかくこの音から逃れたい一心だった。

仕事をやめる覚悟も

ただ、ときどき急に何も音が鳴らない時間が訪れたりする。そんな時はチャンスとばかりに、原稿を書く時間に充てた。いやぁ、音が鳴らないだけで、こんなにもストレスがないものなのか!! 音さえなければ、私は元気だ。原稿もこれまで通りに書ける。ひょっとしたら、このまま治るんじゃないかしら・・・?

そんな幸せも束の間、数時間してまた音が復活すると、一転絶望的な気持ちに。その繰り返しだった。音が鳴っていると、資料を読んでも頭に入ってこないし、集中力に欠け、思考力も低下し、原稿が書けない。もはや眼鏡への興味や仕事へのモチベーションも失いかけていた。

「もう、この仕事は続けられないのだろうな・・・」

8月は原稿執筆もメディア出演も新規の仕事はすべて断り、ライターの仕事をやめる覚悟もしていた。

仕事はおろか、家事もままならない日々。雑音がしているときは、なぜか家の照明やテレビがとても眩しく感じられ、真っ暗な部屋へ逃げ込んだ。そしていつしか、家のなかでもサングラスを掛ける生活に。子どもには、そんな私がどのように映っていたのかな・・・。こんなお母さんで、ごめんなさい。自分がつくづく情けなくて、子どもがいないところで毎日のように泣いていた。(②へ続く

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