見出し画像

本:空と風と星と詩

尹東柱の詩集「空と風と星と詩」を買った。

「死ぬ日まで天をあおぎ/一点の恥じ入ることもないことを」――戦争末期、留学先の日本で27歳の若さで獄死した詩人、尹東柱。解放後、友人たちが遺された詩集を刊行すると、その清冽な言葉が若者たちを魅了し、韓国では知らぬ者のない「国民的詩人」となった。詩集「空と風と星と詩」とそれ以外の詩あわせて66篇を在日の詩人・金時鐘が選び、訳出。ハングルの原詩を付した。

尹東柱に出会った茨木のり子の「ハングルへの旅」

この本で紹介されていた伊吹郷翻訳の全詩集は中古しかなく、まだ入手していない。

「死ぬ日まで空を仰ぎ 一点の恥辱(はじ)なきことを」(序詞より)
―1945年2月、27歳で福岡刑務所で獄中死した朝鮮民族が誇る青春と抵抗の詩人・尹東柱の全詩業初完訳。全詩のほか、回想・年譜、特高・裁判記録、訳者の詳細な研究解説等を収録。時代を越えて広く読みつがれるロングセラー。

原詩がついているというのが岩波文庫版を選んだ理由のひとつだ。
対訳ではなく、原詩は巻末にまとめられている。

驚いたのは原詩も縦書き表記であることだ。
韓国語を勉強し始めてから、まとまった量のハングルの縦書き表記を見たのは初めてかもしれない。
それと漢字が一部使われていること。
「蒼空」のように題全体が漢字だと、ハングルでどう表記しどう読むのかわからず、オンライン辞書でも「青い空」に相当する言葉しか出てこなくて困ったことがある。

原詩を検索していると、サイトによっては、ハングル表記のみの他、漢字混じ詩の原詩を挙げているところもある。

編訳は詩人、金時鐘。

金時鐘 - Wikipedia

巻末の金時鐘の「解説に代えてーーー尹東柱・生と死の光芒」も読みごたえがある。

「あの極限の軍国主義時代、こぞって戦争賛美や皇威発揚になだれを打っていた時代、同調する気配の微塵もない詩を、それも差し止められている言葉でこつこつと書いていたということは、逆にすぐれて政治的なことであり、植民地統治を強いている側に通じる言葉を自ら断つ、反皇国臣民的行為の決意をともなっていたものです。ですので、尹東柱の詩は、時節とは無縁の心情のやさしい詩であったがために、治安維持法に抵触するだけの必然を却ってかかえていた詩でもあったのでした」

という下りが腑に落ちた。
金時鐘自身が

「それほどの詩人を、同じく詩を書く当の私が距離を置いてきました。日本語を下地にした私の言語感覚と、ともあれ抒情えの考察がまだない朝鮮・韓国での、情感イコール抒情であるかのような思考感覚がなじめなくて、尹東柱の詩にまで情感過多を感じてしまい、総身うぶ毛でおおわれているような尹東柱の清純な叙情感に、私は二の足を踏んでいたのでした。

とも語っている。

詩の言葉だけを追っていると平明でシンプルで美しいのだが、その背景にたじろいでしまう。私はそのギャップで尹東柱の詩に惹かれているのかもしれない。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?