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【特集】第26回参院選(2022年)れいわ新選組――政権交代に必要なこと

 れいわ新選組は、結成の3か月後にむかえた第25回参院選(2019年)で2議席を得ました。これは政党要件を持たない政治団体が参院の非拘束名簿式で当選者を出した初の事例であり、朝日、毎日、産経などが躍進と報じました。

 他方でこれは、野党各党がれいわ新選組を警戒することを結果します。与党も同じでした。れいわ新選組の勢力は小さいものの、もし既存の野党共闘勢力と結びついて無党派層を揺さぶる動きに発展していけばどうなるか――。そこで、あのような勢力はただのポピュリズムに過ぎない、N国党(後のNHK党、政治家女子48党)や参政党と同じだといったように矮小化することも行われ、党や支持層に対するイメージは様々な形でゆがめられてきました。

 しかし現在は、結成から4年の時を経て多くのデータがそろいつつあります。れいわを支持するのはどのような人たちなのでしょうか。れいわは従来の野党の支持層を大きく削ったのでしょうか。あるいは、れいわの票が第26回参院選(2022年)で参政党に流れたという話はどれほど妥当なのでしょうか。

 ここでは出口調査、世論調査、地域分析を総動員してれいわ支持層の実像に迫ります。その考察とあわせて、日本の有権者層のあり方と、あらゆる野党にとって大切な「政権交代に必要なこと」を議論します。また、後半では消費税増税に反対して旧民主党を飛び出した「国民の生活が第一」に端を発する「消費税の系譜」をたどり、全市区町村の票の動向を描きました。


れいわ支持層とは何なのか

 一般的に言って、投票率や政党支持率は、高齢者ほど高くなりがちな傾向を持っています。けれど中には逆の傾向の政党があります。第26回参院選(2022年)でNNNが実施した出口調査の「年代別の比例代表の支持先」より、国民民主党、参政党、れいわ新選組、NHK党を抜き出したものを以下の図1に示しました。これら4党はロスジェネよりも若い世代で主に支持されるグループです。

ロスジェネ(失われた世代):ここでは1970~1982年生まれと規定します。いわゆる就職氷河期世代にあたり、現在は40代~50代前半です。

図1. 第26回参院選NNN全国出口調査 比例代表の支持先(年代別)国民・参政・れいわ・N党

 しかし同じ若い世代でも、その中のどのような層に支持されるのかという点は異なっているはずです。そこで、今度は明るい選挙推進協会の意識調査から、「生活満足度と投票政党」を見てみましょう。

図2. 第26回参院選明推協意識調査(生活満足度と投票政党)国民・参政・れいわ・N党

 れいわ新選組は生活満足度が下がるにつれて急激に票を増していることがわかります。対して国民民主党は生活満足度が高いほど伸びています。若い世代で支持されがちな政党の中でも、とりわけ、れいわと国民は対照的な傾向を持つわけです。

 他の政党はどうでしょうか。図1に示したのとは異なるグループ、それはいわゆる野党共闘勢力です。同じくNNNの出口調査より、立憲民主党、共産党、社民党について抜き出したものを図3に示しました。

図3. 第26回参院選NNN全国出口調査 比例代表の投票先(年代別)立憲・共産・社民

 
 これらのグループは70代以上に基盤があるものの、ロスジェネ世代に対する訴求力を欠いていることがうかがえます。生活満足度との関係も見てみましょう。

図4. 第26回参院選明推協意識調査(生活満足度と投票政党)立憲・共産・社民

 立憲はいずれの層からも票を集めており、強い特性は見られません。共産は「やや不満足」な層にピークをもち、社民は満足度が下がるにつれて次第に増加します。

 こうしたことからは、れいわの支持層が野党共闘勢力とは異なる性格を持っていることがうかがえます。れいわの支持層の中心はロスジェネよりも若い世代にあり、今の生活に大いに否定的な想いを抱いているわけです。野党共闘勢力はしばしば「市民」という言葉を用いてきましたが、れいわが浸透を狙ったのはむしろ「庶民」なのだといえるかもしれません。

 なお自民党、公明党、日本維新の会に関しては議論を外れるためここでは扱わないことにしますが、それらの政党や図1~4の元のデータについて調べる場合は、以下の資料から確認することができます。

●年齢別(図1,図3)について
NNN全国出口調査 より「比例代表の支持先(年代別)」を参照のこと

●生活満足度と投票政党(図2,図4)について
公益財団法人明るい選挙推進協会 令和5年3月発行の 第26回参議院議員通常選挙全国意識調査 調査結果の概要 P.57 表6-8 を参照のこと


「所得の高い地域で票を得ている」説について

 れいわ新選組の得票率の高い地域が平均所得の高い地域と重なっているため、生活の苦しい人たちの支持を得たとはいえないのだとする議論がしばしば見られます。たとえば慶応大学名誉教授の堀茂樹氏は、2019年に次のような主張を行いました。

「注目すべき事実。人口の多い東京都区でれいわの得票率が相対的に高かった渋谷、杉並、世田谷、目黒はいずれも平均所得トップクラス。都の全62市区町村中、渋谷は3位、杉並は11位、世田谷は7位、目黒は5位。神奈川県でれいわ得票率の高かった鎌倉、葉山、逗子も県内で平均所得1位、2位、3位の市」(2019年8月14日・堀氏)

「れいわ支持層が主に低所得層だとの仮説を裏づけるデータは皆無。その仮説の反証ではないにせよ、仮説の的確性を疑わせる事実はある。即ち、れいわの得票率の比較的高かったのが沖縄以外では首都圏と京都であって、東京ではとりわけ平均所得も物価も高い渋谷杉並世田谷目黒等の区だったという事実です」(2019年8月17日・堀氏)

 この主張の何が問題なのかは後で指摘するとして、まずは事実の確認から始めましょう。第25回参院選(2019年)と第26回参院選(2022年)について、れいわ新選組の絶対得票率を市区町村ごとに塗り分けたものを以下に示します。

図5. 第25回参院選(2019年)比例代表・れいわ新選組絶対得票率


図6. 第26回参院選(2022年)比例代表・れいわ新選組絶対得票率

 次の2枚は関東地方を拡大したものです。


図7. 第25回参院選(2019年)比例代表・れいわ新選組絶対得票率 関東地方


図8. 第26回参院選(2022年)比例代表・れいわ新選組絶対得票率 関東地方

 図5~8の票の分析は記事の後半でとりあげますが、確かに堀氏の指摘にあるように、渋谷、杉並、世田谷、目黒で絶対得票率が高くなっていることが読み取れます。また神奈川県でも、鎌倉、逗子、葉山といった所得の高い地域で票を得る傾向があるようです。

 しかしながら、これは以下のように説明されるのです。

 山本太郎氏が日本未来の党などの支持を得て、はじめて国政選挙に臨んだのは第46回衆院選(2012年)の東京8区からでしたが、ここは杉並区の中西部にあたる選挙区です。そして翌年の第23回参院選(2013年)では、杉並に近接する渋谷、世田谷、目黒、武蔵野などで街宣を行って票を拡大し、当選を果たしました。

 つまり、これらの地域で票を得ているのは所得との関係というよりも、単に政治活動の出発点であったという理由にほかならないわけです。参考に、第23回参院選(2013年)東京都選挙区の山本太郎氏の絶対得票率の分布を図9に示しました。

図9. 第23回参院選(2013年)東京都選挙区・山本太郎絶対得票率

 また、神奈川県の鎌倉、逗子、葉山はかつて山本太郎氏が所属していた生活の党の絶対得票率が高かった地域でした。政党の地盤は後に第46回衆院選(2012年)の日本未来の党までさかのぼって解説を行いますが、初期のれいわ新選組は当時から関係のあった政治団体や、山本太郎氏個人が票を開拓した面が強いので、こうした選挙運動の歴史が主にあらわれることとなったのです。

 地域分析をするときは、たとえ平均所得の高い地域で票を得ているからといって、そうした地域にも生活の苦しい人たちがいることを忘れるわけにはいきません。例えば欧州の選挙では、労働者の権利の擁護を訴えてきたリベラル左派政党が、かえって平均所得の高い都市部で票を得る傾向が見られることがあります。

 民主党と共和党が有権者を二分するアメリカのような場合はともかくとして、ここで行っているのはわずか数%の有権者という狭い部分の検討です。アメリカでは分厚い民主党支持層と分厚い共和党支持層が地盤の取り合いを行っていますが、野党が多党化した日本では、むしろ数%支持者がいくつもの薄いレイヤーとして重なっているようにとらえる必要があるわけです。そうした一つ一つのレイヤーのあり方を知ろうとするのなら、世論調査や意識調査など、数%の支持者の人から直に回答を得るようなアプローチをしなければなりません。単に地域が重なるということだけで判断してしまえば、そうした数%の人たちの特性は、残りの九十数%のあり方に打ち消されて捉えられなくなってしまうでしょう。

 確かに地域分析では、様々な統計を票に絡めて議論することも行います。人口、男女比、人口密度(都市化の度合い)、所得、産業別従事者数、海外なら人種や宗教との重なりを見て、統計的な分析をすることもあります。しかしながら、たとえそれらが単に重なるということを示すときであっても、裏では前身政党や後継政党にあたるものは何か、共通の政治家がいるか、支持や推薦があるか、他党との共同街宣が行われたか、街宣した地域が以前と共通するか、世論調査や情勢調査で示唆される点があるかなどを可能な限り調べたうえで、何が支配的な要因なのかを考えます。

 先に主張を引用した堀氏には、ぼくは当時、次のように注意を促しました。

「少なくとも今回の場合では、地域分析は所得との対応を見る用途には適さないので、そういった点を見るならば、むしろ世論調査や意識調査を参照されるのが良いと思います」(2019年8月16日・三春)

 データを提供した本人が適さないと言ったのです。それにもかかわらずこうした主張が展開され、またそれが少なからぬ人に広まってしまったのは残念なことでした。様々な調査が手に入るようになった現在は、こうした誤った認識は改められる必要があります。


「希望」という切り口

 それでは実のところ、れいわ新選組の得票率と年収の関係はどうなっているのでしょうか。それは第25回参院選(2019年)の後に「#リアル選挙分析 参院選2019プロジェクト」(出典)で実際に聞かれました。これは投票に行った人を対象に実施された5000サンプルのオンライン調査です。

 れいわ新選組に関する結果を図10に示しました。ここで、図10はあえて右側ほど年収が低くなるように軸をとっていることに注意してください(後に図11~12と比較する際に見やすいと考えて、このようにしました)。

図10. 年収別のれいわ新選組の得票率

 図10では、数字上は年収が低いほどれいわ新選組に投票した割合が多くなっています。ただしこの結果を、リアル選挙分析は統計的に有意とは結論していません。標本調査は回答数に応じた誤差を持ちますが、最大限の誤差を想定したときに、なお年収が低い層の方が多く投票しているとはいえなかったのです。

 2019年当時の民間給与実態統計調査では、900万以上の層の割合は6.7%、600~900万は13.8%、300~600万は41.7%、300万未満は37.8%となっています(出典は国税庁長官官房企画課・令和元年分民間給与実態統計調査,P23, 第16表 給与階級別給与所得者数・構成比)。図10の左側の部分(900万以上と600~900万)では多くの回答が得られずに、どうしても誤差は拡大します。年収と得票率の関係を明確にするためには、さらなる調査が必要となるでしょう。

 つまり、れいわ支持層には生活満足度の低い人たちが多い(図2)ものの、年収に関しては明瞭な傾向は確認できていないのです。また明るい選挙推進協会の意識調査からは、経営者・役員・管理職の中にも一定数、れいわ新選組に投票している人がいることが示されます。もちろん管理職といっても、今は生活に苦しくてたまらない管理職などいくらでもいるわけですが、いずれにせよ図2にあらわれている生活に不満な層というのは、単に年収という切り口よりも広くとらえる必要がありそうです。そこで以下の2つの質問の結果を見てください。

図11.「未来の明るい社会像を描けるか」れいわ投票者の回答


図12.「努力が報われる社会であると思えるか」れいわ投票者の回答

 これらは同じくリアル選挙分析でかけられた質問で、「まったくあてはまらない」が多いことは、いずれも統計的に有意と結論されています。

 ここで引用した結果を受けて、リアル選挙分析は以下のように述べています。

日本が「希望格差社会」であると看破されてから15年、いよいよ日本は「希望分断社会」に入ってきたのかもしれません。年収や学歴、または正社員であるか派遣社員であるかといった大雑把な社会属性ではなく、「社会に希望が持てるかどうか」が与党への信認・不信任を決めているのかもしれません。

#リアル選挙分析 参院選2019プロジェクト

 れいわ新選組の支持者の中心が所得の高い層にあるというのは間違いです。しかしれいわが庶民・アンダークラスへの浸透を狙ったからといって、年収という軸ひとつだけで支持者の特性を説明しきれるわけでもないのでした。その傾向をより明確に表す切り口は、「希望」であるのかもしれません。今の日本に危機感を持ち、その変革を望む層――れいわ支持層はそのように描き出すことができるのです。


れいわ結党時の票はどこからやってきたか

 れいわ新選組がはじめて臨んだ第25回参院選(2019年)で、立憲民主党は得票数を大きく減らしました。他方で共産党や社民党はほぼ横ばいであったため、従来の立憲の票がれいわに流れたのではないかといった議論がなされました。このことは今はある程度、データからうかがうことができるようになっています。次の図13が、れいわに集まった票の内訳と推定されるのです。

図13. 初めて臨んだ国政選挙でれいわ新選組に集まった票の構成

 これは明るい選挙推進協会による第25回参議院議員通常選挙全国意識調査の、前回選挙と今回選挙の比例投票先の集計表をもとにして、「第25回参院選(2019年)でれいわ新選組に投票した人が、第48回衆院選(2017年)でどこに入れていたか」を逆算したものです(逆算には 出典 p.49 表4-5 のデータを用いました。やや回答数が少ないことに留意が必要です)。

 れいわに集まった票のうち、かつて立憲に入れていたのは3割弱でした。共産と合わせて4割ですが、それでも自公維と比べればおよそ2倍にあたるので、確かにとりこんだ野党共闘勢力の票は少なくないと考えることができます。

 けれどもこれには若干の補足が必要かもしれません。それというのも、立憲そのものが、第48回衆院選(2017年)で無党派層に大きく波及した勢力であるからです。この点は立憲民主党の分析で取り上げてきましたが(表2~5の「無党派層の比例投票先」を参照のこと)、ここでも簡単に触れておくことにします。

 立憲は第48回衆院選(2017年)の時事、共同、朝日、読売いずれの出口調査でも、無党派層の比例投票先で自民など他の党を大きく突き放す結果でした。このときの立憲は、民進党が公約(出典)を反故にして希望の党へ合流を決めるなか、様々な経緯がありつつも、そこを飛び出した勢力です。選挙直前の新党の結成、小池百合子代表(当時)の希望の党との対比、ドタバタと手作り感のある選挙運動。そういった激動のなかで無党派層からの注目が集まっていきました。この政治家たちは筋を通すのではないか? 以前の民主党とはどこかが違うのではないか? 市民を巻き込んだ新しい動きになるのではないか? そうした期待を寄せた人たちに、枝野代表(当時)は「立憲民主党はあなたです」(2019年10月14日・新宿演説・出典)と呼びかけ、支持者や無党派層との呼応が起こりました。いわば支持層を固めて終わるような静的な選挙ではなく、割れた党の活路を求めて支持層を切り開くような動的な選挙が展開されました。そしてそれは希望の党をしのいで野党第一党の座を得るという形で結実し、おそらく第二次安倍政権の発足(2012年12月)以降で有数の、市民派の手ごたえになったのです。そうしたことを背景にして、初期の立憲の支持率は著しい上昇を示しました。

 しかしながら、立憲は2018年のうちに結党時の期待を失い、支持率も半分に低下します。そして迎えたのが第25回参院選(2019年)でした。ですから第48回衆院選(2017年)から第25回参院選(2019年)にかけて、立憲かられいわに投票先を変えた人たちの中には、かつて「立憲民主党はあなたです」といった言葉にこたえて、淡い期待を抱いて投票した無党派層がいるはずです。また、第48回衆院選(2017年)では、そもそも山本太郎氏が共同代表をつとめていた自由党が候補者を立てておらず、その票がはじめから立憲などに入っていたであろうことも、見落とすことはできません。


れいわの票は参政党に行ったか

 図13と同じことを、第26回参院選(2022年)の参政党について行ったのが以下に示す図14で、これが参政党に集まった票の内訳の推定です。(逆算には 出典 p.43 表5-4 のデータを用いました。回答数が少ないことに留意が必要です)。

図14. 初めて臨んだ国政選挙で参政党に集まった票の構成

 参政党は既存政党のうち自民や維新などの右派の票を多く取っており、れいわからは1割強が流れていることがうかがえます。なかでも維新票の取り込みは注目で、先の大阪府知事選(2023年4月9日)に参政党から立候補して11万4764票を得た吉野敏明氏も、NHKの出口調査(投票日当日実施)によると参政党支持層と同程度の票を維新支持層からとっています。ですから府知事選で吉野氏の票が予想より多かったと評価する議論もありますが、それだけ維新が強い地域で立候補したゆえの数字だといえます。

 ここで図13を見ると、れいわは自民と維新の一部の票も取っていたことがわかりますが、図14で参政党が自民や維新を多く取っている以上、かつて自民と維新かられいわに流れた層が、新たに参政党へと流れた可能性はあるのかもしれません。

 山本太郎氏の活動の出発点には原発事故がありました。それと問題意識の重なる環境勢力の票が、第25回参院選(2019年)ではれいわ新選組に流れ込んでいます。これは後に地図を並べて示しますが、絶対得票率の高い自治体が非常に細かく一致する勢力があります。そうした勢力のなかには環境に配慮するだけの余裕がある人たちが一定数は含まれるはずですが、それは生活が厳しく仕事に追われ、政治に関心を払うゆとりがないような人たち、あるいは政治に失望した人たちなどとは別のグループであるわけです。

 そうした環境勢力が、食品添加物の問題やオーガニック食品、菜食などに関心がある人たちと一定の重なりを持っていることは想像に難くありません。そこで、現時点で調査等のデータはないものの、そうした人たちの一部が新型コロナの問題を介して、参政党に関心を抱いたという仮説が成り立ちます。

 しかしながら参政党の公約の中には「次世代原発の推進」があるので、原発問題や被爆問題から入った山本太郎氏の支持層とは相いれないでしょう。また、れいわ新選組が主に獲得した、今の生活に不満を抱く層が安易に参政党に流れると考えるのも無理筋です。後に示しますが、先に触れた環境勢力と参政党の地盤にもかなり限定的な対応しか見られず、これも大部分はれいわ新選組にとどまっていると考えるのが妥当だといえそうです。こうしたことのトータルで、図14の数字でも、参政党の票のうち、れいわから流れたのは結局1割ほどとなっているわけです。

 さて、以上のことから、おおむねれいわ支持層のイメージが形作られるのではないでしょうか。それは年齢的にはロスジェネよりも若い世代が中心です。生活に不満足ですが、必ずしもすべてが困窮している人たちとは限りません。けれどいずれにせよ、このままでは日本の未来に展望が見いだせない人たちであるわけです。そして、そのなかには反原発に由来する環境勢力が含まれています。地域的には東京で強いものの、全国で票をとっています。


なぜ「新選組」だったのか

 『大躍進し損ねた山本太郎・れいわ新選組に必要な事』(出典)のなかで、衆院議員の米山隆一氏は次のことを述べています。

 れいわ新選組の擁立した候補者は、率直に言って、山本太郎氏以外は「クラスのヒーロー、ヒロイン」タイプではありませんし、知名度も非常に高いとまでは言えませんでした。この候補者擁立戦略をとる以上、コアな支持者の熱狂は得ても、その外側の、一般的な有権者に支持を広げる事は困難で、得票率、獲得議席が「大躍進」に至らず「停滞」したのは、「従来の選挙セオリー」から考えたら、あまりに当然の結果だったのです。

大躍進し損ねた山本太郎・れいわ新選組に必要な事

 しかしこの指摘には、首をかしげざるを得ません。れいわ新選組がどのような選挙運動を行ってきたのか、ここで山本太郎氏の演説を少し振り返ってみることにします。

 自分は生きてていいんだろうか? 消えてしまいたい、死にたい、そう思ってしまう世の中のほうが間違ってんですよ。そんな世の中つくったのは今の政治であるならば、全く真逆の世界もつくれる、それが政治でしょ? それを決めんのが選挙でしょ? あなたは存在しているだけで価値がある。あなたは生きてるだけで価値がある。私はそういわれたい。あなたは?
 世の中の役に立たないんだったら、生きてる価値がないよねといわれる社会と、あなたは存在しているだけで価値があるねといわれる社会、あなたはどっちの社会がほしい?

2019年7月20日新宿演説より抜粋・出典

 これは単にこういう話をしゃべったというのではありません。重度障碍者の候補2人を擁立し、この人たちを当選させたいのだと訴えかけるなかで出た言葉です。これまで野党は、多様性を認め合う、弱者に寄り添うと言いつつも、こうした当事者を国会に送ってはきませんでした。だからこの2人が当選した後にはじめて参院本会議場のバリアフリー化改修(2019年7月28日実施)が行われることになるわけです。

 このときれいわ新選組は、重度障碍者の2人に加え、コンビニ問題の当事者、シングルマザー、元派遣労働者といった人たちを、今の社会の様々な問題を体現する当事者として候補に並べました。れいわ新選組の「新選組」とは、「新しい時代に新しく選ばれる者たち」という意味でした(2019年4月10日結党記者会見)。

 擁立した候補者に滲み出るスタンスがなかったら、「ロスジェネを含む、全ての人々の暮らしを底上げします」というスローガンもまた、いかようにでも掲げれる票集めのための言葉としかみなされなかったでしょう。この政治家は自分たちに向かって声をかけている、自分たちの方を見ている、そしてそれは単に口で言っているだけではないのだと、感じる人たちは生まれなかったでしょう。

 ですから先に引用した演説一本をとりあげてみても、突き刺さる層はそれぞれの当事者に輪をかけて広いのです。消費税廃止や奨学金徳政令、公的住宅の拡充、最低賃金1500円などの政策は、こうしたなかで掲げられたのです。

 それはむしろ、最善に近いアプローチだったといえるのではないでしょうか。たとえ米山氏の言う選挙のセオリーに従っていたとしても、既存の野党支持層か興味本位で横滑りした無党派層の票を一時的に集めるだけに終わり、政治に失望した層に食い込み、有権者を耕すようなことはできなかったでしょう。

 確かにれいわ新選組は第25回参院選(2019年)で2議席しか得ることができませんでした。けれどもそれを停滞と評価するのなら、当事者を擁立し票の掘り起こしを図ったのにもかかわらず、これほど動かなかった有権者の性質は何なのかと、考えを進める必要があるはずです。その動かない有権者の性質こそ、立憲をはじめとする野党が直面する絶望的な選挙情勢の核心であるわけで、れいわ新選組を停滞とするならば、それはその絶望的な選挙情勢に一石を投じたうえでの停滞と評価するべきであるからです。次の一石でそれを突破することができるのかどうかということはれいわに限る話ではなく、全野党の目の前に突き付けられている問題です。ですから「野党論」として行われない「れいわ論」はことごとく駄目であるわけです。


政権交代に必要なこと

 ――自民一強体制の存続条件とは

 年齢別の政党支持率を見る際は、国政選挙で行われる出口調査が参考になります。普段行われる世論調査や意識調査は回答数が1000件~2000件ほどであるため、有権者全体のあり方は知りえても、細かい内訳に踏み込もうとすると誤差に翻弄されがちです。対して衆院選や参院選の出口調査は多くの場合10万件~20万件ほどの回答が集計されているため、細かい内訳を見る際も十分な回答数が確保されています。

 他方で出口調査は、投票に行った人の情報しか得られないという欠点をもっています。図1や図3も出口調査なので投票に行った人に限る情報です。しかし選挙情勢を動かして政治を変えていくことを考えるのであれば、これまで投票に行かなかった人に目を向けないわけにはいきません。そこで今度はそういった人も含む、有権者全体の政党支持率を見てみましょう。

 下の図15は、第26回参院選(2022年)の後に行われた明るい選挙推進協会の意識調査より、年齢別の政党支持率を表示したものです。色付きの部分が政党支持層で、①与党は下側から、②野党は上側から積んでいます。③「支持政党なし」「わからない」とした無党派層は中央の白地に斜線を引いた部分となっています。これはつまり、様々な内訳を与党側(下)、野党側(上)、無党派層(中央)の3グループにまとめることでそれぞれの回答数を確保しているというわけです。ですから一つ一つの棒の内訳よりも、各年代でこれら3グループの配分がどのように変わるのかに注目してください。なお18・19歳はそれでも回答が少ないため、ここでは議論から除外します。

図15. 第26回参院選明推協意識調査(社会的属性と政党支持)より年齢別政党支持率

この図では18・19歳でれいわ新選組の支持が多いように見えますが、これは回答数の少なさが影響した結果であり、18:19歳でれいわが多く支持されていると考えることはできません。実際は図1にあるように、10代と20代はほとんど同程度となっています。このように、矛盾する時は出口調査を優先してください。

 図15からは、与党(下)も野党(上)も、年代が上がるにつれて支持層が増える傾向が読み取れます。他方で若い世代はというと、そもそも政党を支持している方が少数となっています。とりわけその傾向が厳しいのは、与党側より野党側であるといえるでしょう。

 この図からは、野党が若い世代に広がりを持てていない理由は、若い世代に自民が浸透しているからではないことが明らかです。しばしば出口調査の結果をもって、若い世代が自民を支持しているとする主張を見ることがありますが、出口調査はあくまで投票に行った人たちのデータでしかないので、若い世代全体の傾向と考えることはできません。正しい議論をするためには、そもそも若い世代には政党を支持しない層や、選挙に行かない膨大な層があるという認識が必要です。

 特にロスジェネよりも若い世代(図15では50代以下)には巨大な無党派層が広がります。この無党派層のことは、かつて「政治の空白域」と名付けました。

政治の空白域:ロスジェネよりも若い世代に広がる無党派層のこと。
(初出は『文藝春秋オピニオン2020年の論点100』, p.80-83, 『一九九〇年代の激変と現代における「政治の空白域」』

 どこが加わる、どこが離れるといった細かい議論はさておいて、野党共闘をやるというのは図15の上側を何らかの形でまとめるという行為です。けれど支持層がこれほど小さいのですから、野党共闘をいかように行っても、自民党の過半数割れを射程に入れるのが限界です。公明党の存在があるため、それでは政権交代に届きません。従来のまま党と政治家が数合わせをしても、あるいは支持者や票の足し算をしても、政権は見えないということです。

 それでは支持者のあり方がどのようになれば政権に届きうるでしょうか。今度は、自民党から民主党への政権交代が起きた第45回衆院選(2009年)のデータを見ていきます。なお政権交代なので与野党が入れ替わりますが、図15の構図とあわせるために、次の図16でも自公を下側に積んでいます。

図16. 第45衆院選明推協意識調査(社会的属性と政党支持)より年齢別政党支持率

 図15と図16を比較すると、各年齢における自公支持層の大きさは変わっていないことがわかります。選挙結果の比例票でも、自民は第45回衆院選で1881万票、第26回参院選で1825万票と横ばいです。

 変わったのは上側に積んだ方でした。図16の政権交代の時には、民主党を主として全世代に張り出していた支持が、図15では若い世代で大幅に縮小しています。

 政権交代をするためには、図16のような全世代型の支持が必要です。しかし図15はとてもそうした状況になく、たとえ維新まで合わせても全く及ばない水準となっています。ですから野党共闘をしたり、一部の立憲の政治家が望むような維新との協力を掲げてみたところで、政権を得られるとはほどんど誰も考えていないでしょう。支持者を納得させるために政権交代を目指しているようなポーズをとっているわけです。自民の一角を割って、それに立憲と維新が協力し、共産を排除して右派政権を作るようなことを考えている政治家はいるかもしれませんが、それで日本の経済的な衰退が転換しうるはずもないので、すぐに失望を招くのが関の山なのです。

 もっと根本から考えるべきなのです。なぜ野党が与党に勝てないのかというと、それはロスジェネよりも若い世代に巨大な無党派層――政治の空白域――が広がっているからです。つまり政治の空白域を空白域のままにしておくことが自民一強体制の存続条件です

 そうであるのなら、そこを開拓することが政権交代への最短の道であるわけです。いわば図15の空白域を上側から掘削していくのです。その点においてれいわ新選組は、社会の様々な問題を体現する当事者の擁立というアプローチを示しました。そしてロスジェネ(図1)や生活に不満な層(図2)からの支持を得るという一定の成果を得ています。それは注目に値するし、れいわ新選組を本当に否定するのなら、それとは別のアプローチで掘削して見せることを通じて否定しなければならないのではないでしょうか。また、れいわ新選組をどのように評価するのかに関係なく、政治に向き合う人はこうしたことに対して何か言えなければまずいのではないでしょうか。

 第25回参院選(2019年)でれいわ新選組が得られたのは2議席にとどまります。巨大な政治の空白域を前にして、ほんの一石を投じたにすぎません。先の統一地方選の県議選・政令市議選(2023年4月9日)でも、当選したのは推薦候補2人のみでした。

 この記事の最後で改めて論じますが、政治の空白域に浸透することはそこまで大変であるわけです。このことは、もともと空白域がどのようにして形成したのかを振り返ってみれば明らかとなります。

 バブルの崩壊によって日本の経済がダメージを受けると、雇用の非正規化や労働者の権利の切り下げを進めようとする圧力が政府や官僚、経営者の側から高まっていきました。他方でソ連の崩壊を契機として、労働者の利害を代弁する労働組合など左派系の勢力は弱体化していきました。こうした背景のもと、人々の反発が社会党や共産党の支持拡大につながることを恐れなくなった自民党は、新自由主義的な政策を露骨に進めるようになったのです。

 当時、こうした流れに対抗できる勢力は次第になくなっていきました。社会党が弱体化すると、社会党の後を担って自民党に対抗する勢力が模索されますが、この時期に目指されたのは保守二大政党制であり、いずれも新自由主義的な政策を掲げました。その結果、当時から10年ほどの間に社会に出ていった若者たちは、不安定な仕事や長時間労働を強いられる形となり、いわばバブル崩壊で生じた歪みをおしつけられたのです。その人たちこそ、いまロスジェネ(ロスト・ジェネレーション)と呼ばれている世代でした。

 1990年以前に社会に出ていった若者は、政治的には自民党と社会党という二大政党がしのぎを削る状況のもとで、就職し、技能を磨き、ボーナスで車を買い、結婚し、子供を育て、マイホームを建て、老後に備えてささやかな貯金を持つというような、ゆっくりとでも絶えず豊かになっていく社会のなかで生きていくことができました。けれども1990年以降の若者は、そうした父や母の世代が歩んだような人生を、もはや思い描くことができなくなったのです。そのような世代が毎年毎年、生み出されて積み重なってきました。日本社会の「底」が、ここに形成されたのです。

『武器としての世論調査』リターンズ―2022年参院選編―第3回・投票率の底から


 政治に切り捨てられた日本社会の「底」。それがバブル崩壊(1991~1993年)以降、30年間積もった結果が政治の空白域にほかなりません。

 政権交代したときに民主党が全世代的な支持を得ていたことを図16で見ましたが、空白域はこの後にできたのではなく、すでに郵政解散で関心を集めた第44回衆院選(2005年)の時点でも、形成が確認できています。ですから図16の全世代的な支持は、自民党とは別の者に任せたら何か変わるのではないかと、一時的に支持が集まった結果となっています。このとき民主党に期待してやがて再び失望した経験から、より堅固になったのが今の空白域と言えるかもしれません。

 それは空白域といっても、歳をとりながら流れていく氷河のようなものなのです。図15におけるそれは、時間の経過ととともに上の世代にせりあがり、野党の支持層をさらに上の世代へと押し流していきます。そう、それは地層を削り、堆積物を押し流しながら進む氷河に近いのです。その進行が、経年とともに投票率の低下をもたらすものの正体でもあります。

 これと本当に向き合わなければ政権交代などありません。しかし一部の野党の試みを振り返ってみればどうでしょうか。対談や集会などのイベントを行い、集合写真をSNSにアップロードして、いかにも若者を気にかけています、また若者に支持されていますといったスタイルをとる政治家を見ることがあります。そこまででなくても、似たようなことをする政治家は枚挙にいとまがありません。

 若者の支持を得るというのはそんなことではないのです。そうしたイベントにやってくるのは社会のなかの上澄みです。始めから政治に関心があり、政治家や政党をおびやかさないようなことばかりしかしゃべらない若者です。他方で一番苦しく、否定的な層が置き去りにされているのです。

 ロスジェネ以降の若者は、この社会の中の最も否定的な層の一角です。しかしその否定性こそが、この日本の30年にわたる衰退を転換しうる大きな鍵でもあるわけです。最も否定的な層が、最も強く社会を変えていく原動力を持つはずであること。しかしそれがいまだに見えないままであるということ。こうしたことが若者の投票率を上げるという問題の核心にあります。投票率を上げることや政治の空白域を取り込むことを重要視するのは、図16のような分布を作るにはまさにそれが不可欠であるからです。

 投票率に関する最も駄目な部類の議論として、選挙に行かない人たち全てが政治に失望した層なのではない、選挙に行かない人たちは現状追認である、とするものが挙げられます。けれどこれは、そうした人々が変わり得るという視点が欠落したものなのです。今の日本の崩れつつある状況を少し見つめてみるならば、そうした人たちが変わりうる余地はあり、そのために何が足りないのかと考えることになるはずです。人々が変わり得るという期待があるからこそ、政治を変えようとする取り組みは続けられるのではないですか。


 以上で前半部の議論を終わります。ここからの後半部はみちしるべ内部での公開となりますが、いちど話が変わり、しばらく「国民の生活が第一」や日本未来の党に端を発する「消費税の系譜」と、環境勢力とれいわ新選組の票の秘密をとりあげます。そしてその後、もういちど政権交代と政治の空白域の議論を行っていきます。

 みちしるべでは現在、各政党の選挙分析をとりあげていますが、個別の選挙や政党に限る話が内容の全てではありません。それらを通じて、今の社会はどのように見えるのかといった全体像の把握、何をすれば変わるのかといった展望を描くことを目指します。ぜひ各政党の記事を読んでみてください。

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