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【特集】第26回参院選(2022年)立憲民主党――支持されるとはどういうことか

 立憲民主党にとって、第26回参院選(2022年)は議席を減らしただけでなく、比例代表で維新に100万票以上も離されるなど、敗北というよりほかにない結果でした。なぜそのようになったのか、これまで様々な主張がなされてきましたが、そうしたことを論じる前に、実際にどのように票を減らしたのかを正確におさえるのが科学的な態度であるはずです。今回の記事はそこから始めましょう。


一人負けの構図

 まずは全国集計の比例代表のデータから全体像をつかむことにします。擁立した候補者の数に依存する選挙区の票と違い、比例票は党の基礎体力を表すバロメーターとみなすことができます。

 枝野代表のもとで臨んだ第49回衆院選(2021年)から、泉代表に交代した後の第26回参院選(2022年)に至る比例票の変化を表1に示しました。

 表1は、この二度の選挙に臨んだ政党と政治団体について、得票数と絶対得票率、およびその増減を掲載したものです。最も右の列に示した絶対得票率の増減では、立憲の一人負けの構図が浮き彫りとなっています。立憲の票はどこに行ってしまったのでしょうか。

表1.第49回衆院選(2021年)と第26回参院選(2022年)の比例代表の比較

 得票数は総務省発表の速報結果によります。
按分票が端数を生じているものは少数第1位を四捨五入しています。

相対得票率と絶対得票率
 投じられた有効票のうち、特定の勢力が獲得した割合を「相対得票率」といいます。他方で、棄権者も含めた全有権者のうち、特定の勢力が獲得した割合が「絶対得票率」です。マスコミなどで断りなく「得票率」というときは相対得票率を指しています。相対的な票の量で当落が決まるため議席を論じる際には相対得票率が適しますが、同じ相対得票率でも投票率に差があれば得票数が異なってしまう欠点があります。前回選挙との比較など、時系的な検討には、投票率の変化に左右されない絶対得票率が適します。


維新に票を奪われたわけではない

「維新がいたから立憲は伸びなかったのだ」「票を維新に奪われたのだ」といった主張がしばしばされています。しかし表1を見ると維新は-0.15ポイントと、横ばいに近い程度であるものの、むしろ減っていることが明らかです。

 第26回参院選(2022年)は、勢いのある維新が比例得票数で立憲を追い越したというように錯覚されていることが多いように見受けられますが、正しくは立憲も維新も減らしたものの、立憲の減少幅のほうが大きかったため得票数の順位が逆転することになったのです。これが意味するのは、従来の立憲の票が維新に奪われたという解釈が見当違いであることにほかなりません。

 立憲だけの票が大きく減ったのです。参政党については+1.68ポイントと最も増加しているのが目をひきますが、ここは第26回参院選(2022年)で初めて国政選挙に臨んでいるため、得た票がそのまま増加分となっています。参政党支持者の3分の2は一昨年の衆院選で自公に入れていることが調査で明らかになっていますから、立憲から多くの票が流れたとは考えられません。国民はやや伸びていますが、それでも+0.55ポイントです。

 立憲の -4.43 ポイントを説明できるものはどこにもありません。つまり立憲が失った票は他の党に回ったのではなく、かなりの部分が棄権したことが示唆されるわけです。


消えた選挙ブースト

 立憲の票の減少に踏み込むため、政党支持率の推移も見てみましょう。次に示す図1は、2013年1月1日から2022年12月31日までの10年間にわたる民主党系の政党――つまり民主党、民進党、希望の党、国民民主党、立憲民主党の支持率を書き出したものです。

図1.民主党系の支持率の推移
(各社世論調査の政党支持率について、固有の偏りを補正した後に平均をとっています。
x軸のラベルは1月1日のところについています)


 この図1からは、一般的に衆院選や参院選の時に支持率が上がる傾向が読み取れます。選挙ブーストという現象です。

選挙ブースト
 
定義は「国政選挙の公示から投開票に前後して政党支持率が急上昇する現象」です。これは、普段は無党派層である人たちが、選挙運動や報道をうけて各党の支持へと分解していくことを意味しています。ですから各党の選挙ブーストの大きさを合わせると、同期間の無党派層の減少幅と釣り合います。この現象は国政選挙では普遍的に見られますが、地方選挙ではほとんど見られません。


 立憲民主党の支持率だけを図2に書き出してみましょう。

図2.立憲民主党の支持率の推移
(各社世論調査の政党支持率について、固有の偏りを補正した後に平均をとっています。
x軸のラベルは1月1日のところについています)

 左から見ていくと、結党後はじめての選挙であった第48回衆院選(2017年)で、立憲には最大の選挙ブーストが起きています(立憲が結党される直前の民進党の支持率の2倍まで伸びています)。それよりは小さくなりますが、第25回参院選(2019年)と第49回衆院選(2021年)の選挙ブーストの存在も明瞭です。しかし第26回参院選(2022年)ではそれがほとんどなく、普段の変動に埋没する程度しか見られなくなっています。

 つまり第26回参院選(2022年)で、立憲は選挙期間中の支持の拡大がほとんどできなかったのです。

 直近の参院選で選挙ブーストが起こらなくなった理由を解明し、問題を解決できないならば、従来のような選挙戦はもはやできないということになるわけです。次期衆院選を論じる際に選挙ブーストに期待する意見もみられますが、それは楽観的な態度だといえるでしょう。


無党派層の投票先が激減した

 なぜ第26回参院選(2022年)では立憲に選挙ブーストがなかったのでしょうか。選挙ブーストが起きるのは、無党派層という支持政党を持たない人たちが、選挙期間中に特定の政党を支持するようになるからです。公示日になると選挙運動が始まり、政治家の発言も活発になります。マスコミも近く選挙があることを報じます。すると無党派層の人たちも、次の選挙は投票に行こうか、それならどこに入れようかと考えて、改めて社会の様々な問題を振り返ったり、今ある政党を見つめてみるわけです。

 ところで無党派層の中には、投票日が近づいてもどの党も支持せずに、そのつど自分なりに良いと判断したところに投票する人も少なくありません。これは無党派層のうち、特に政党拒否層と呼ばれる政治への関心が高い人たちですが、選挙ブーストには現れません。けれども出口調査で「無党派層の投票先」が調査されているため、そうした人たちも含めた投票行動を知ることができます。

 時事通信の出口調査から、無党派層の投票先(%)を見てみましょう。

表2.無党派層の比例投票先(時事通信出口調査)

 立憲は28.021.024.814.1 (%)と推移しています。図1や図2すでに見たように、第48回衆院選(2017年)の選挙ブーストは大きなものでしたが、この表においても無党派層の投票先が 28.0 と大きい点が整合しています。

 そして最も重要な点は、第26回参院選(2022年)にかけて無党派層からの票が 14.1 まで激減したことで、これは図1と図2で選挙ブーストが見られなかったことと整合しています。

 選挙ブーストは、無党派層を惹きつけて支持者に変えられた時に起こります。無党派層を惹きつけているわけですから、そうした時は無党派層のままその政党に入れる人もまた多くなるはずです。選挙ブーストの大きさと無党派層の比例投票先に正の相関があるのはこのためです。

 なお、第49回衆院選(2021年)から第26回参院選(2022年)にかけては維新も 18.816.9 と減っていますから、ここでも「無党派層を維新にとられた」という解釈は成り立ちません。もちろん限られた地域ではそのようなところもあるかもしれませんが、全国集計では通用しないということです。

 以下に、共同通信、朝日新聞、読売新聞のものも掲げました。

表3.無党派層の比例投票先(共同通信出口調査)
表4.無党派層の比例投票先(朝日新聞出口調査)
表5.無党派層の比例投票先(読売新聞出口調査)

 この4枚の表のなんと整合的であることでしょうか。これは立憲がいかに無党派層を失ってきたかという履歴にほかなりません。


「提案路線」のあやまち

 選挙ブーストがおきず、選挙の際の支持拡大がほとんど実現しなかったことと、無党派層の投票先が大きく減ってしまったことを、データで見てきました。

 立憲はなぜそのようになってしまったのでしょうか。それは、党がどのような人たちに支持され、何を期待されたかを大きく見誤っていたからです。2021年11月30日に行われた代表選挙の際、泉氏は批判路線から提案路線への転換を、小川淳也氏は保守層へのウイングの拡大をそれぞれ掲げました。代表選は泉氏が勝利し、提案型野党が掲げられました。その頃からの報道を見出しだけでも振り返ってみましょう。

「立民の泉代表『提案路線』に自信 独自調査では支持率健闘」というのは大したものです。当時すでに関東と関西の形勢が非常に悪かったため、箸にも棒にもかからない調査だと言って即座に否定しましたが、提案型野党を掲げて、ウイングの拡大と言って、いったい何百万票を喪失したのでしょうか。このようなことに振り回された候補者たちが可哀想でなりません。

 左に第49回衆院選(2021年)、右に第26回参院選(2022年)の比例代表の絶対得票率分布を示しました。驚かれる人も少なくないでしょう。いま立憲の選挙基盤は恐るべき虫食い状態となっています。

図3. 第49回衆院選(2021年)比例代表と第26回参院選(2022年)比例代表の絶対得票率分布


 なぜ支持されたのかということを政党の代表が理解していないというのは、有権者にとっても政党にとっても悲劇以外の何物でもありません。支持者の鼓動を感じられないなら政党の運営などできるわけがない。言うまでもないことです。

 最後に挙げた「提案型野党」が敗因とする共同通信の記事ですが、結局、立憲の参院選総括には次のように記述されました。総括は下のリンクからダウンロードできます。

「提案型野党」を標榜したことから、国会論戦において「批判か提案か」の二者択一に自らを縛ることとなり、意図に反して立憲民主党が「何をやりたい政党か分からない」という印象を有権者に与えることになった。

立憲民主党「第26回参議院議員通常選挙総括」より

 この参院選総括の内容は踏み込みの浅い点はあるものの、提案型野党について反省したことや、与党に明確に対峙することに言及したのは評価できる点です。しかしその後の状況を鑑みて、この総括を活かした党運営ができていると果たして言えるでしょうか。

 この期に及んで、「党内のリベラル派は大切だが、中道にもウイングを広げていかなければ、党への支持は広がらない」などという発言を耳にします。そうした者は提案路線やウイングの拡大がなぜ間違いだったのかという理由をまったく理解していないのです。

 ぼくは参院選前に、そうした姿勢に再三にわたって言及してきました。

 そのような姿勢では、結党時に「立憲民主党はあなたです」という言葉に呼応して、懸命に支えたような人たちがこぼれ落ちてしまうのです。「提案型野党」では、そのような熱い支持層は生まれずに、むしろ政治家とのつながりや連合などの支持団体との利害関係で狭くまとまることを結果してしまうでしょう。そうした態度では有権者全体をゆさぶる勢いも生まれずに、無党派層を獲得することもできないというわけです。

「第2回 野党共闘はどこへ」より

 大局的に見て、今回の選挙結果には何も不思議なところはないのです。提案路線がいかに埋没するものであるのかは選挙結果が如実に示すところだといえるでしょう。

 そもそも政策論議は「あなた方のやり方ではだめであり、このようでなければならないのだ」というように、ある面では「だめだ」という批判や反対の形を、またある面では「こうでなければならない」という提案の形をとるもので、あえて「提案型」などというのは始めからおかしな話でした。泉氏の掲げる「提案型野党」の提案は、結局は自民に実現してもらうための「お願い」になってしまうのであり、実績を積むのは与党側にほかなりません。

 2009年8月から2012年12月まで自民が野党だったとき、自民はそのような迎合的な態度はとりませんでした。当時の自民は審議拒否をし、議会でプラカードを振りかざし、内閣不信任決議案や問責決議案を乱発し、政権奪還に向かっていくのです。与党が絶対安定多数を持っているなかでは、野党はあらゆる手を尽くして民意の残余を体現するのです。今の立憲は野党第一党としてお行儀がよすぎます。不正が行われ、慣例が破られ、法が棄損されているなかで、まるで小突かれてヘラヘラ笑っているいじめられっ子のように見えてきます。それでちょっと批判されるとビクビクする。維新を横目でうかがっている。そのような勢力が、必死になって選挙運動を支え、闘う価値を見出されるでしょうか。それを見出されなかったから、先の参院選でこのように敗北したのではないですか。

 また、「ウイングを広げる」と言っても、意図する中道保守層はすでに他の政党が競合し、限られたパイを食い合っているレッドオーシャン(熾烈な競争の行われている領域)です。立憲の結党初期に期待したような人たちを開拓することをなぜ軽んじるのでしょうか。そここそがブルーオーシャンであることがなぜわからないのでしょうか。立憲は近年でほとんど唯一、その層に大きく波及した政党であるのに、目を向けないのはまったく理解に苦しみます。

 以下では、立憲民主党の歴史と選挙結果を照らし合わせつつ、どのような時に支持が伸び、どのような時に支持を失ったのかを振り返っていきます。第25回参院選(2019年)と第26回参院選(2022年)の票の増減などにも検討を加えました。地図14枚とその他の図表を収録しています。

 また立憲と維新のすみ分け(選挙区調整)が愚行であり、それを行った場合にどのようなことになるのかも指摘します。立憲民主党の参院選総括にも要約と検討を行い、再起するための提案を示しました。

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