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【特集】第26回参院選(2022年)立憲民主党――政権交代のプレリュード

 この記事は2022年に行われた参院選を扱った特集ですが、はじめに衆院補選などを経た最新の情勢に触れることにします。


それは半年前に始まった

 今年の4月28日に行われた3つの衆院補選では、共産や社民などの支援を受けた立憲民主党の候補者が全ての選挙区で勝利をおさめました。このことをうけて立憲の支持率や比例投票先は上昇を見せています。けれどもそうした傾向は、実は補選の半年前から始まっていたことをご存じでしょうか。

 立憲民主党の支持率と比例投票先について、各社の世論調査を平均した結果を以下に示しました。

図1. 立憲民主党の支持率と比例投票先

これは政党支持率を手前側に、比例投票先を奥側に重ねて表示したグラフです。政党支持率の上に比例投票先を積みあげたものではないことに注意してください。たとえば最新の数値は、政党支持率が10.0%、比例投票先が17.5%というように、それぞれをそのまま読むことができます。平均にはNHK、読売新聞・NNN、朝日新聞、毎日新聞、時事通信、共同通信、ANN、日経新聞・テレビ東京、JNN、選挙ドットコム・JX通信の世論調査を用いました。

 この図1には細かい増減がありますが、大きく見ると、2023年の後半に政党支持率のトレンドが上昇に転じていたことが読み取れます。このことは比例投票先ではさらに明瞭です。

 半年前から起きていたこの上昇は何に由来すると考えられるのでしょうか。次の図2には、国会の会期を濃い色で示しました。

図2. 立憲民主党の支持率と比例投票先(国会会期を表示)

 2021年1月にある比例投票先のピークは、新型コロナウイルスの緊急事態宣言で菅内閣への不満が高まった時期と重なります。第49回衆院選(2021年)から第26回参院選(2022年)にかけておきた下落は、与党への批判や対決から政策の提案にシフトするという、いわゆる「提案路線」の失敗を物語るものです。

 第26回参院選(2022年)から1年あまり、立憲の支持率と比例投票先は低迷が続きました。それが上昇に転じた2023年10月は臨時国会の召集と重なります。国会の閉会からお正月にかけては微減となりましたが、通常国会が始まると再び伸びに転じ、予算の審議と採決を経て、衆院補選でさらに一段高い水準となっています。

 もっとも従来は、たとえ国会の会期中とはいえ、立憲の支持率や比例投票先が一概に伸びてきたわけではありません。図2からも、2019年から2023年の前半までは上昇と下降が混在していたことが読み取れます。それでは、なぜ今になって状況に変化が生まれたのでしょうか。


野党の前にあらわれた「新しい状況」

 次に自民党の支持率と比例投票先を示しました。主な下落が2023年の後半に起きていることに注目してください。

図3. 自民党の支持率と比例投票先(国会会期を表示)

図1および図2とは縦軸の取り方をかえていることには留意が必要です。自民党の支持率と比例投票先は、最新の平均においてもいまだ立憲民主党を上回る状況にあります。

 第26回参院選(2022年)以降、旧統一協会との関係などをめぐって自民党は信頼を失ってきました。けれども2023年の5月の時点で、その支持率と比例投票先は平均35%あり、これは過去にも見られた範囲の下落だといえます。しかし2023年の後半には、その水準を10ポイントほど割り込む下落がおこりました。これは自民党の政権奪還(2012年12月)以降で例を見ないような事態だったのです。

 ここで有権者の動きを考えるとき、支持率が変化していないということは、支持者そのものが変化していないことを意味するのではありません。あくまで支持をやめていく人と、新たに支持をはじめる人が同じ数だけ存在し、つり合っているということです。こうしたことは科学では平衡状態と呼ばれます。条件が変わってつり合いが崩れると、以前の平衡状態は新たにつり合うところまで変化していきます。政治では、時事的なできごとをうけて、支持をやめていく人と新たに支持をはじめる人のつり合いが一時的に崩れ、再び安定するまでに数週間から数か月ほどを要したのち、新たな平衡に到達します。支持率の上昇や下落は細かく言えばこのような現象です。

 2023年の後半に自民党の支持率と比例投票先が大きく落ちたことは、与野党の平衡に変化を与えました。しかしながら、与野党の間に無党派層がバッファ(緩衝となるもの)として存在することにより、この変化には一定の遅延が生じます。つまり、与党の支持率の低下はまず無党派層の増加となり、次に増えた無党派層が野党に関心を持つことにより、野党の支持率の増加をもたらします。これまで多くの論者が「与党の支持率が落ちたとはいえ野党が伸びているわけではない」という主張を繰り返してきましたが、このタイムラグにより、そうした誤認が起こるのです。

 無党派層が野党の支持へと転化するのは、それに値する何らかのアピールポイントがあった時にほかなりません。国会や補選が鍵となったのはこのためであると考えることができます。したがって、この新たな局面の中で、国会などの野党の活動を広く有権者に伝えることがいっそう重要になってくるといえるでしょう。


議員の闘いを、支え、伝える

 あらためて図2を見ると、第49回衆院選(2021年)から第26回参院選(2022年)までの立憲の後退には厳しいものがあったと言わざるを得ません。この後退は、与党への批判や対決から政策の提案にシフトするという、いわゆる「提案路線」の失敗と無関係ではなく、その結果として無党派層の票を大量に失い、一人負けの状態になったことをPART1の分析で論じました。この記事ではそうしたことを強く批判していますが、今となって図2の推移を見れば、支持というのはこのように動くのだという現実を伝えたかったことを多くの方に理解してもらえると思います。

 5月に行われた各社の世論調査では、政権選択をめぐる質問が行われ、それぞれ政権交代を可とする回答が半数から多数を占めています。

ANN世論調査(5月18~19日実施)
「あなたは、次の衆議院選挙後の政権として、自公政権が継続することを期待しますか、または政権が交代することを期待しますか?」
 自公政権の継続を期待する 39
 政権交代を期待する    52

読売新聞世論調査(5月17~19日実施)
「次の衆議院選挙のあとに、自民党中心の政権の継続を望みますか、それとも、現在の野党中心の政権に交代することを望みますか」
 自民党中心の政権の継続 42
 野党中心の政権に交代  42

朝日新聞世論調査(5月18~19日実施)
「今後も、自民党を中心とした政権が続くのがよいと思いますか。それとも、自民党以外の政党による政権に代わるのがよいと思いますか」
 自民党を中心とした政権   33
 自民党以外の政党による政権 54

 しかし朝日新聞の調査では次のような結果も出ています。

朝日新聞世論調査(5月18~19日実施)
「自民党に対抗する勢力として、いまの野党に期待できますか」
 期待できる  19
 期待できない 73

 政権交代を望む層が多くなりつつある一方で、いまの野党に期待できないという回答もまた多いのです。けれどそうした人の中にも「期待できないが、こうなってくれれば」と思っている層がいるはずです。

 立憲はすでに一定の支持の拡大に成功したといえますが、それに上積みしていくためにはどうした姿勢が求められるのでしょうか。ここで参考になるのが日本維新の会の現状です。

 この一年ほどのあいだ、自民党の支持率が後退するなかで、なぜ日本維新の会は伸びるどころか低迷の一途をたどっているのでしょうか。その要因には万博の不振も挙げられるかもしれませんが、最大の要因は自身を「第二自民党でいい」(馬場代表)などとして、自民党への批判を欠いてきたからです。批判するべきものがあるのなら、批判しなければ支持は得られません。

 やがてくる衆院選にむけて緊張が高まっていく中で、いまだ高水準にある無党派層や、投票先の未定層が何者につくのか、判断される時が来るでしょう。自民党の支持率や比例投票先が低迷する現状からは、現在の与党への批判層がかつてないほど膨れ上がっていることが示唆されます。立憲は野党第一党としてそうした票を最も取り込みやすいポジションにいるのですから、自民党に対する明確な対立軸を打ち出していくことがいっそう重要となるでしょう。

 そうした対立軸を明確にして闘っている議員たちの活動を支え、「いまの野党に期待できない」とする人たちに伝えていくことが、大きな意味を持つはずです。


 さて、以上のような大局的な議論も重要なのですが、この参院選の特集では一人一人の票といった細かい話を扱うことが中心にあります。ここからは、連合や立正佼成会の票、辻元清美氏の大量得票とその影響などを、地図を用いて分析していきます。

 みちしるべでは様々なデータの検討を通じて、今の社会はどのように見えるのか、何をすれば変わるのかといったことを模索していきます。今後も様々な発見を共有できるように取り組んでいくので、応援していただけたら幸いです。


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