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【特集】第26回参院選(2022年)公明党――地盤の異変、とらえた

 公明党は先の参院選で比例代表の得票数を減らし、政権与党の座について以来の低水準となりました。このことについて、支持者の高齢化にともなう運動量の低下や、自公協力のほころびなどが指摘されています。しかしながらどの地域でどれほど票を減らしたのかということや、それが次の国政選挙や統一地方選挙にどのように影響しうるのかということが、いまだ具体的に議論されていません。そこで今回は、過去45年間にわたる全国の市区町村の票のデータをもとに、公明党の地盤の形成過程や、現在おきている異変を解明していきます。

自公協力における供与と逆供与

 広く知られているように、これまで自民党と公明党は選挙協力を行ってきました。これは、小選挙区では公明党支持層が自民党の候補に投票する一方、比例代表では自民党支持層の一部が公明党に投票するというもので、2000年以降の衆院選で顕著になっています。前者の票の動きを「供与」、後者を「逆供与」と呼ぶことにしましょう。

図1.自公協力の概要〈1〉

 こうした票のやり取りは、小選挙区比例代表並立制が導入されて、一人が二票持つようになったことによって可能となりました。供与は大きく、逆供与は小さいです。しかし小選挙区は選挙区ごとに一人しか当選しない制度であるため、ともに政権を担う公明党にとって自民党と争う意味はありません。自民党の統一候補に票を供与し、その見返りとして比例代表で逆供与を受けた方が、議員は多く誕生するわけです。横軸を「票数」や「人数」として表すと、供与と逆供与の関係はこうなります。

図2.自公協力の概要〈2〉


 こうした票のやり取りは、絶対得票率の検討で浮き彫りになります。

相対得票率と絶対得票率:投じられた有効票のうち、特定の勢力が獲得した割合を「相対得票率」といいます。他方で、棄権者も含めた全有権者のうち、特定の勢力が獲得した割合が「絶対得票率」です。マスコミなどで断りなく「得票率」というときは相対得票率を指しています。相対的な票の量で当落が決まるため議席を論じる際には相対得票率が適し、投票率の変化に左右されないため時系的な検討には絶対得票率が適します。(詳細は「何人に一人が自民党に投票しているのか」参照)

 下の図3に、衆院選における自民党と公明党の絶対得票率の推移を示しました。これは全国集計で、それぞれ党の結成から直近の第49回衆院選(2021年)までが表示されています。

図3.絶対得票率の推移(衆院選・全国集計)

 日本では1994年の公選法の改正により、従来の中選挙区制が小選挙区比例代表並立制に変わりました。左端から出発した線が途中で分岐しているのはこのためです。なお、第41回衆院選(1996年)で公明党は新進党に合流しているため、このときだけ絶対得票率もゼロと表示されています。

 図3に書き込んだの番号に注目してください。は中選挙区時代の最後にあたる第40回衆院選(1993年)における公明党の絶対得票率で、その水準を灰色の点線で延長してあります。これが小選挙区と比例代表の二つに分かれるとき、それぞれはどのような水準になっているでしょうか。

 で示した公明党の小選挙区は、を大きく下回る水準となっています。このの差が小選挙区で自民党に供与されているわけです。供与を受けた自民党では、小選挙区()が比例代表()よりも高くなっています。しかしの差は供与の分だけではありません。は公明党に逆供与する分だけより低くなった結果であり、と比べて引き上げられています。この小選挙区と比例代表の大きなギャップこそ、自公協力を象徴するものであるといえるでしょう。

 参院選の票を同様に表示したのが下の図4です。従来の制度(地方区・全国区)を点線で、現在の制度(選挙区・比例代表)を実線で示しました。

図4.絶対得票率の推移(参院選・全国集計)

参院選の制度:参院選は1982年に公選法の改正があり、従来の地方区と全国区が、それぞれ選挙区と比例代表に変わりました。全国区と比例代表は異なる制度ですが、全国を一つとする共通点があります。地方区と選挙区は呼び名が異なるだけですが、地方の人口減にともなう一票の格差是正によって複数人区が減少し、時間とともに質的な変化が起きています。つまり地方の一人区化が進み、衆院選の小選挙区のような意味合いが次第に強くなっています。

 参院選も一人が二票を入れる制度なので、かつての地方区と全国区、今の選挙区と比例代表の間にはギャップが生まれます。しかし図4の自民党を見ると、その差は図3の小選挙区比例代表並立制導入以後ののような大きなギャップではありません。このため、参院選での自公協力は限定的であり、個別の政党の実力がより直接的に表れていると言ってよいわけです。ですから直近の第26回参院選(2022年)で公明党が比例票を減らしたことの意味は重要です。

 これまで下の2本の記事で、かつての地方の保守層がいかに厚かったかを議論してきました。

 これらの記事で扱ったデータは1977年以降であり、そのうち自民党が特に強かったのは図4のBの領域です。ここで図3にも、Bと同時期にあたる部分をB'で示しました。衆院選ではB'の前にAがあり、B'の時代の後は投票率の崩壊と自民党の分裂がおきています。並立制導入以後をCとすると、自民党はABB')→ C という流れで票を失ってきたということができます。

 こうした基盤の脆弱化のなかで、党勢の維持に制度的に寄与したのが、衆院選の小選挙区比例代表並立制導入と、参院選の選挙区で進んだ地方の一人区化でした。そして党勢の維持を具体的に担ったのが自公協力です。したがって公明党の比例票に異変がおきたならば、それは衆院の小選挙区や参院の一人区での自民党の票にはねかえるでしょう。

 それでは、どの地域でその影響が強く表れるのでしょうか。今回は市区町村ごとの絶対得票率の検討を45年にわたって行い、明確な傾向をつかみました。これは今後の選挙戦略に影響しうるもので、このことを知ったうえで今後の選挙を闘うのと、知らずに闘うのでは大きく話が違ってくるはずです。

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