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山梨で暮らす:大野拓己さん(農家、2016年に笛吹市に移住)にお話を伺いました(その1)

11月8日(金)に開催された地方創生Miraiサロン。暮らす・働く・つながるをテーマにしたサロンも2周目に入り、最初の「山梨で暮らす」のテーマに戻ってきました。

今回のゲストは、東京から笛吹市に農家として移住された大野拓己さん。今回は、大野さんの移住前から今日に至るまでの経緯を、そのときの幸福感や充実度などを0~10の11段階で可視化しながら、お話を伺っていきました。

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大学卒業後、東京で広告営業などの仕事に携わっていましたが、大野さんご自身は、東京の生活に大きな不満があるわけでもなく、これまでは移住ということを強く意識したことはなかったとのこと。この時点の生活に対する充実度は、ちょうど真ん中の5くらい。

移住を考えるようになったのは、2015年10月に結婚されたことがきっかけだった。有機農業に興味があった奥様はとスローライフへの憧れや東京での子育てへの不安などを話し合う中で、農家として地方に移住することを考えはじめた。これまで農業経験のない大野さんであったが、お母様やお姉さんが家庭菜園などをやっていたことから、野菜を作ることへの親しみはあった。しかし、それをなりわいとするとなると訳が違うはず。それでも、あまり深く悩まずに、「やってみよう」と思ったのが、大野さんのすごいところ。結婚や新たな人生への期待に、大野さんの気持ちは、最大の10まで上昇する。

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まずは地方の情報を得ようと2人訪れたのが、有楽町にあるふるさと回帰支援センター。そして、最初に訪れた山梨のブースで運命的な出会いが待っていた。大野さんのちょうど前に相談をされていたのが、その後お世話になる笛吹市の農家、宮川さんご夫妻であった。長年葉物野菜を中心とした農業を続けてきたが、ご主人が腰を悪くされたこともあり、将来、畑を継いでくれる人を紹介して欲しいということで、相談員の倉田さんの元を訪れていた。後継者を探している農家さんと新規就農を目指している移住者。そして、どちらも葉物野菜へのこだわりを持っている。この奇跡的とも言える出来事から間もなく、2016年の3月に大野さん夫妻は初めて笛吹市の宮川さんを訪れることになる。口数の少ないご主人と明るく面倒見のいい奥様。畑などを見せてもらい、帰りに頂いた野菜のおいしさが、大野さん夫妻の移住への気持ちを一歩前に進めた。それから1カ月ほどした桃の花が咲く時期にもう一度宮川さんの元を訪れた時には、既に移住の意思を固めていたという。新しい暮らしへの期待を不安が入り交じる中、大野さんの気持ちはまた5くらいまで戻ってくる。

山梨県立農業大学校の職業訓練農業科の野菜・有機農業コースで学ぶことを考えていた大野さんは、7月の入学に間に合わせるために動き出す。5月末には、これまで勤めていた会社を退職し、6月には笛吹市に移住した。7月の農業大学校入学までの間、大野さんの畑を手伝うことになったが、個人事業主である宮川さんから雇用される大野さんの時給金額に、これまでポジティブであったさすがの大野さんも農業の厳しさと将来への不安を感じ、その気持ちは一時的にではあるが2まで低下する。それでも夫婦2人で農業大学校で学びながら実習先となる宮川さんの畑を手伝うことで、少しずつ知識や技術を学んでいくことで、自信や将来への希望を取り戻してくる。。その頃、宮川さんのご主人が入院されたこともあり、病院から指示をもらいながら、パートの皆さんと協力しながら畑仕事を行ってきた。12月にコースを終了すると、2017年からはいよいよ農家として本格的に働き始めることになる。

果樹農家と異なり、通年で約20種類の葉物野菜を栽培してきた宮川さん。果樹地帯である境川では珍しいという。もともと養蚕が盛んであった地域であったが、周辺の農家が桑畑から果樹に転換していく中で、ハウスで花きの栽培をはじめた。その後、つながりのある仲買人を通じて、スーパーに葉物野菜を出荷するようになった。農協への出荷ではなく、独自に販路を持っていることも、大野さんは農業を始めてから知るようになった。

最初は、年間の作付け計画を学ぶと、ある程度の仕事の流れが分かってきた。果樹と異なり短期間で栽培と収穫を繰り返していく中で、栽培技術も身につけていった。これまで宮川さんの経験と勘に基づく指導に頼っていた作付けのタイミングなども、自分なりに考えて宮川さんに提案するようになっていった。宮川さんの持つ暗黙知を、自分なりに形式知化することも積極的に行ってきた。また、移住の翌年となる2017年には、待望のお子さんも誕生し、幸福感や充実感も高まる中で、山梨での生活も軌道に乗ってきた時期でもあったようだ。

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本格的に農業をはじめて今年で3年目となる。2018年の台風では育苗用のハウスが被害を受けたが、それ以外は大きな問題もなく、比較的順調とのこと。大野さんの山梨暮らしの満足度・充実度は、以前よりも高い8くらいをキープしているとのこと。2017年から宮川さんが活用していた、新規就農者のための実践研修の支援を目的とした「農の雇用事業」補助も終了し、いよいよ農家として独り立ちしていく。これまでの宮川さんの奥様がやっていたお金の管理についても、来年からは大野さんが担っていくことになる。また、農業関連のイベントで出会った方のご紹介で、新たにスーパーへの出荷と販路も拡大し、収入も東京時代の4割くらいまで減ったところから、今は6割近くまでに回復してきた。

次回に続く

文責:佐藤 文昭(山梨大学地域未来創造センター特任教授)

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