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米国の米ドル基軸通貨という利権が崩れている

現在、世界で機能している変動相場制は1973年から続いています。

教科書に書かれている、変動相場制に期待されたもっとも基本的な機能は、為替相場の変動によって貿易収支の均衡を達成することです。

今、貿易収支が赤字になったとすると、外国為替市場では外貨に対する需要が供給を上回ることになり、為替相場は外貨高(自国通貨安)となります。そのような為替相場の変化は、一方では輸出価格を下げるので輸出を増加させ、他方では輸入価格を引き上げて輸入を抑える効果を持つため、貿易収支の赤字を改善することができます。こうして、為替の変動によって、貿易収支は均衡に向かっていく、といのうが教科書的な筋書きです。

この教科書的な筋書きでは、基軸通貨の利点は出てきません。しかし、現実世界では、米ドルは変動相場制での貿易の自動調整機能が働かず、貿易赤字がずっと続いています。

その秘密を解くには、まず「流動性のジレンマ」を知る必要があります。1960年に経済学者ロバート・トリフィンが指摘したため、「トリフィンのジレンマ」とも呼ばれます。

特定の国の通貨を基軸通貨とする国際通貨体制においては、基軸通貨の供給と信用の維持を同時に達成できないというジレンマ(矛盾)をいいます。

具体的には国際貿易の拡大に応じて、国際流動性が米国(基軸通貨国)の国際収支赤字(米ドル流出)で供給される場合は、米ドル(基軸通貨)の信認が低下し、一方で米国が国際収支バランスを維持しようとすれば、国際流動性が不足し、世界経済の成長を阻害してしまうというものです。

<流動性のジレンマのポイント>
◎世界経済の中で基軸通貨国が国際的な競争力を有していると、貿易黒字が発生して、流動性供給が不十分となる。

◎逆に基軸通貨国の経済力の低下に伴って競争力が低下し始めると、貿易赤字を通じて世界経済への流動性供給は十分に供給される一方で、基軸通貨国の信認の低下へと結びつき、結果として流動性は不安定化する。

この流動性のジレンマは基軸通貨の矛盾を突いています。そのため、貿易赤字を続ける米国の通貨であるドルへの信認は低下しているはずです。しかし、米ドルは基軸通貨であり続けています。なぜでしょうか。

それは、SWIFT回線上で海外のドルが米銀へUターンするためです。

この米銀へ資金がUターンする仕組みによって、貿易収支の黒字国は、1971年のニクソンショック以降、長期的には3分の1に下がった米ドルの犠牲になってきたとも言えます。

日本を筆頭に、ドイツ、中国、産油国、2000年代からのロシアは、ドルの外貨準備、ドル国債の所有で長期的には大きな損をしてきました。1ドルは1971年が360円、2023年11月現在は150円となり、円安になったとはいっても、42%にまで下がっています。日本が持つ、ドル預金とドル国債の価値はおよそ3分の1に減ったのです。

(出典:TRADING ECONOMICS/ドルー円為替相場

ドル預金とドル国債の所有者は、日本、中国、ドイツ(ドル預金が多い)、産油国、ロシア、アフリカ、東南アジアです。FRBと米銀にUターンしてきたドルを負債資本として利用するのは、対外負債をほぼ毎年1兆ドル増やしてきた米国なのです。(詳細はドル基軸通貨体制が世界を支配する仕組み

変動相場制でのドル基軸の国際金融は、米国経済の基幹システムになってきました。この基幹システムこそ、米国が米ドルを基軸通貨として守り続けたい理由です。

対米の金融資産を約1,000兆円と世界一持つ日本には、米国債を売ることは許されません。代わりに世界一の債権国として、日本の財務省と政治家を持ち上げます。

米国経済を支えてきたのは、貿易に必要な外貨準備を大きく超える米ドルを買い続けてきた中国と日本です。

もしも、海外がドルを米国に貸し付けなくなるか、ドルの増加買いがなければ、赤字の米国経済は破産します。米国は米ドル基軸通貨という大きな利権を使い、米ドル還流システムを作り上げ、経済を維持してきたのです。

そして、米国がこの戦略を維持できたのは、超大国米国の軍事力であり、それを背景にした政治力があったからです。

しかし、これが特に現在のバイデン政権となってから衰退著しくなっています。その典型がサウジアラビアが米国から距離を取っていることでしょう。米ドルが基軸通貨であり続けた理由の一つがペトロダラーシステムです。

ペトロダラーとは、原油の決済はドルで行うという中東産油国と米国との約束です。1971年にニクソンショック(金とドルの交換停止)が起き、ドルには金という裏付けがなくなりましたが、原油の決済をドルで行うことで、原油を裏付けとした通貨としてその力を維持してきました。その根幹であるサウジアラビアとの関係が希薄化し、ペトロダラーシステムが崩壊へと向かっています。

さらにBRICSの台頭、加盟国の拡大によって、世界の勢力図が変わりつつあります。2024年からアルゼンチン、サウジアラビア、イラン、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、エチオピアの6カ国がBRICSに加盟します。拡大したBRICSは世界のGDPの37%を占めることになり、G7の29.9%を上回ります。

そして、このBRICSは貿易決済をドルではなく、R5(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの通貨名の頭文字がすべて「R」で始まる)で行うことを予定しています。つまり、脱ドルです。

さらに、世界的に反シオニストの抗議が沸き起こり、それを支援する米国への不信も高まっています。

さらに33兆ドルという巨額の政府債務を抱える米国では、金利が約5%であり、今後、米政府の利払いも巨額になります。

米ドル基軸通貨の米国利権が崩壊を始めているように感じます。


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