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日銀の金融政策正常化「格付けにマイナスも」 S&P担当~MMTと日本国債の格付け~【日経新聞をより深く】

1.日銀の金融政策正常化「格付けにマイナスも」 S&P担当

日銀は2022年12月の会合で長期金利の変動許容幅を拡大し、大規模緩和策の修正に踏み切った。膨らむ歳出を新規国債の発行でまかなう借金頼みの財政運営は岐路を迎えている。日本国債の格付けを判断する主要3社の担当者はどうみているのか。初回はS&Pグローバル・レーティングのキム・エン・タンシニアディレクターに聞いた。

――12月に日銀が決めた長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)の見直しは、国債の格付けにどのように影響しますか。

「金融政策の枠組みは国債の格付けと強い関連性がある。ただ12月の日銀の行動が特に重要な変化だとは考えていない。日本政府は非常に重い債務負担を負っている。それにもかかわらず、日本の格付けが依然として比較的高いのは、円が主要通貨であることも理由の一つだ」

――YCCの持続可能性についてはどう見ていますか。

「YCCを続けても、日銀の影響力を市場が信じなくなっているために持続しない可能性はある。日銀が政策の信頼性を失えば、日本の金利がさらに上昇することもあり得る。そうなると経済成長は鈍化し、財政にも打撃を与えるだろう。日銀は金融情勢のコントロールに努め、政府の財政状態をこれ以上悪化させないようにしている」

――日銀が保有する国債が増加しています。中央銀行の信用に影響はあるのでしょうか。

「極端に言えば、日銀による国債の大量購入は、今後数年ではないにしてもやがて、日銀の信用を失わせることにつながりかねない。当面は現在の金融政策の枠組みが日本経済の回復を持続させるのに役立つ。だがこのままでは日銀が長期的に制約を受けることを考え始めなければならない」

――日本の債務残高の国内総生産(GDP)比は264%と主要7カ国(G7)で突出して高くなっています。

「既に(格付けに)影響を与えている。通常、高所得国、特に主要通貨を持つ国の国債は、高い格付けを受ける。日本の格付けの『A+』も決して低くはないが、政府債務の水準がこれほどまでに高くなければ、もっと高くなっていただろう」

――新型コロナウイルス感染拡大時には政府支出が増加しました。

「格付けの観点からは、日本政府による経済支援の継続は信用を大きく弱めるものではない。日本はもとから債務と財政実績の両指標が非常に弱かったからだ。さらに弱まったとしても、国債の信用に重大な変化はないとみている」

――日銀が追加の政策修正や金利の引き上げを行った場合、国債の格付けはどうなりますか。

「どのような状況で起こるかに左右される。日銀がインフレ率が1桁台前半でプラスに転じた場合に、正常化に着手すれば格付けへの影響はプラスになる可能性がある。日銀が信用を失い、インフレ率が日銀の予想よりも速く上昇し始め、利上げを余儀なくされた場合には、日本の格付けへの影響はネガティブなものになるだろう」

(出典:日経新聞2023年2月10日

日本国債の格付けに対する議論が出ています。現在A+の日本国債は、その下落が議論されるようになった背景に、膨らむ歳出を新規国債の発行で賄い、その国債を日銀が引き受ける大規模金融緩和があります。つまり、どれだけ国債を発行しようとも、自国通貨建てであれば、破綻することはないということです。

このMMT(現代貨幣理論)の考え方を見て、国債の格付けについても考えてみたいと思います。

2.銀行の信用創造は無から行われるのだろうか。

銀行の信用創造について考えてみましょう。

銀行の信用創造の元の言葉は、Credit Creationです。Creditは信用と翻訳されています。銀行の信用創造とは、預金という銀行にとっては負債になるものを創造するということです。銀行はどうやって負債(=預金)を創造するのか。

銀行が信用創造を行った際のバランスシートは以下のようになります。

【銀行】
貸付金 1000 / 預金 1000

【民間】
預金 1000 / 借入金 1000

ここでMMT(現代貨幣理論)を主張する人たちは、何も無いところから信用創造を行うといいます。

ここに違和感を感じます。銀行の資産になる貸付金の資産としての価値は、借り手が金利を払い続け、約定の返済を100%行うという借り手信用から来ています。

無から貸付金を創造した銀行(誰にでもいくらでも貸す銀行)は、貸付金の回収ができず、資産は不良債権の山となり、破産します。

例えば、A社が銀行に1億円の借入を申し込んだとします。すると、銀行は審査を行います。そして、その審査のために必要な質問をするはずです。

①1億円は何を買うため、あるいは支払いのために借りるのか(マネーの使途)
②どんな事業を行っていて、1年間の利益はいくらであり、その事業の将来性はどのようなものか。
③決算書3期分。A社のP/L、B/S、C/F
④1億円の負債を引き当てる担保の有無。

銀行はこのような質問を行い、または調査を行い、貸付金1億円が利払いされ約定日に返済されるかという借り手信用を確認しているのです。

借り手に信用がないと、銀行は決して貸し付けを行うことはありません。銀行は、借り手の利払いと返済の信用を担保にして貸付金(リスク資産)を創造しているのです。

これは無形の借入契約の未来の履行という信用なので、物的なものは見えません。信用は物的ではないため銀行のバランスシートの結果だけを見て、無から信用創造が行われているという誤った論が出てきています。

貸付金の利払いと返済が100%確実であると、融資担当者が判断しないと、貸付金の創造は行われません。銀行は買い手が現在持っている「利払いと返済の信用力」を1億円払ってかっているのです。貸付金に対して、収入が少ない人、あるいは他の負債が大きな人には銀行は貸しません。

例えば、自分には10年後に遺産相続で、利払いと返済の信用力を持つことができると不確定なことを理由に借入を申し込んでも、銀行が貸すことはありません。親の死期は不確定であり、必ず自分が思っている通りの遺産分割されるかもわかりません。貸す側は不確定要素を嫌います。今後、普通はこれから株価が上がるからといっても貸してくれませんし、価値の変動が株価のように激しくない土地であっても、現在の評価から低めにしか貸してくれません。

つまり、銀行は無から信用創造しているというのは誤りで、借り手の利払いと返済の信用力に対して信用創造しているのです。

では、日銀は何も無いところから信用創造をしているのでしょうか。

3.日銀の信用創造も「何もないところから行われているものではない」

日銀の信用創造、言い換えれば銀行へのマネーの発行は以下のようなバランスシートで行われています。

①国債発行
【政府】
日銀当座預金 1000 / 国債 1000

②銀行の国債引き受け
【銀行】
国債 1000 / 日銀当座預金 1000

③日銀の国債購入
【日銀】
国債 1000 / 日銀当座預金 1000

④信用創造
【銀行】
日銀当座預金 1000 / 国債 1000

結果として、政府発行の国債は日銀が保有し、その購入分だけマネーを発行して銀行へと流しています。

日銀のバランスシートを見ておきましょう。

(参照:日銀毎旬報告より筆者作成

国債を中心とした日銀の資産の購入に払ったマネーが日銀当座預金522兆円と121兆円です。

日銀当座預金の所有者は日銀に口座を持つ銀行です。(正確には生損保、証券会社、政府系銀行、外銀を含む金融機関)。

日銀は、銀行に対してマネーを供給し、企業や世帯へのマネーの供給(貸し付け)は銀行が行います。日銀がマネー発行(信用創造)で国債を買うのは、国債がその国では、利払いと返済信用の高い債券とされているからです。満期には政府は確実に返済する。決してデフォルトはしないと考えられているからです。

一般に政府信用は無限大とされています。(事実かどうかは別として)日銀は政府の国債の返済信用を国債(借入の証書)として買って、当座預金マネーと紙幣を発行しています。

上記のバランスシートを見れば明らかなように、国債という持ち手にとっての金融資産を日銀が買って、その代金を当座預金マネーと発行した紙幣で払っているのです。日銀は銀行への貸付金の時も国債の担保をとります。(例外は日銀特融。田中角栄の要請で行われた)

国債は普通、「その国で、返済信用がもっとも高い債券」です。国債の信用を企業の社債の信用が上回ることはありません。借入の金利は、国債の利回りより常に高いのです。

しかし、実は借り手の政府は、実質的には1円の純返済も行っていません。財政が赤字、つまり財政支出が税収を上回っているので、政府には返済するマネーはないのです。

以下は、令和4年度(21年4月から22年3月)の、新規国債の発行計画です。

(出典:令和4年度国債発行予定額

既発国債1200兆円の長短国債で、令和3年度は1年に返済満期が来る分は143兆円です。現在、長短の国債の平均満期は8.3年です。

8.3年で、1200兆円の長短国債を返済するという約束を政府は銀行に行い、1200兆円の国債を売ってきたのです。ところが、当年度だけで、一般会計+補正予算で国債の新規発行分66兆円のマネーが不足している政府は、仮に政府の資産を処分しても144兆円分の返済原資を持っていません。

では、どうしているのか。それは返済の延期をしているのです。

144兆円の借換債という新規債を国債を持つ銀行に買ってもらい、その代金として入ってくる政府当座預金から、満期が来た国債の保有者に返済するのです。

仮に100年債を発行すれば、借換債の発行はなくなります。しかし、100年債ではその国債を銀行が買うときの金利は、期限の不確実性が増すので、4%以上になるのではないでしょうか。

1200兆円の4%は1年で48兆円です。政府は4%の金利は払えません。そのため、現在の平均金利が0.5%の10年債の発行にしているのです。

その10年債を返済満期が来たときは、100%借換債を発行して銀行に売ります。この借換債が1年に144兆円あったということです。

政府の財政が黒字に転化しない限り、借換債の発行必要額は年々増えていきます。令和3年度には66兆円の赤字だった政府財政が黒字になるときは来るのでしょうか。

新規国債の返済期限を15年、20年、25年、30年、35年・・・と伸ばしていかなければ借換債の発行は減りません。最終的には金利だけを払う永久債ということになります。

(例:コンサル債:英国で発行されている永久に一定額の利子(クーポン)が支払われる債券公債。償還しない代わりに、永久に利子が払われる契約に基づく永久債の代表的な例の一つ)

4.日銀と銀行は無から信用創造ができるので、国債はいくらでも買うことができるのか?

日銀と銀行は「最も信用が高い債券としての国債」を買って預金マネーを発行しています。最も信用が高い債券とは「利払いと返済が、ほかの債券(例えばトヨタの社債)より確実な債券、つまり、リスクが0%の債券」です。

国債の信用を日銀と銀行は、何によって判断しているのでしょうか。それは、米国の格付け会社の格付けです。

国債の信用は借り手である政府が決めるものではありません。国債を買う側の銀行のグループが決めます。その銀行グループが作っているのがS&Pやムーディーズなどの格付け機関です。

銀行でお金を借りるとき、借り手は自分の返済信用を決めることはできません。貸し手である銀行が処分ができる資産と所得の現在と将来を判定して決めるのです。銀行には審査があり、審査に合格しなければ貸出は実行されません。

国債の信用の判定をするのが、格付け機関です。米国の格付け機関は世界の通貨の国債の格付けを行っています。

国内では無限信用とされる国債も国際的な売買では無限信用ではありません。

日本国債の信用格付けは1990年代のAAA級からA+級に下がっています。

(出典:日経新聞2022年12月25日

約20年間に世界では23位まで下がって、A+級です。Bがつくまであと一歩のところまで来ています。日本が金融緩和の出口に向かい、金利が上昇すれば、国債の格下げが検討される可能性が出ています。

GDPに対する債務比率が100%のスペイン、タイ、メキシコ、フィリピン、インドネシア、160%のイタリアは国債がリスク債券になるBBB級以下です。日本はGDPに対する債務比率は260%です。しかし対外債権が約1200兆円あるため、格付けはA+です。

しかし、この格付けがBBB級に下がると、国際的な大手銀行は国債を売らなければなりません。BBBとなると、国債も貸し付けや他の債券のように資産評価(査定)の時、欠け目が必要な「リスク債券」と判断されるからです。

銀行の資産の内容は他の銀行と預金者から評価を受けます。自分で自行を信用の高い銀行と評価しても無効です。BBB級以下の国債を持っていると、銀行の信用と株価が下がるからです。BBB級の格付けの国債は銀行間融資のレポ金融の担保として受け入れてもらえません。保有しているときは損をしてでも売ります。

国債の格付けは通貨の価値信用とも同じです。2022年10月に1ドル151円に下がった円国債のドル価格は2021年比では「115円÷151円=76%」へと24%も下がりました。そのため、海外金融機関から投げ売られたのです。24%も円国債のドルでの価値が下がれば、自行の資産の信用を保つために保有を続けることはできません。

5.日銀が国債を買い続ければ、財政破綻は無いは本当か

MMTは自国通貨建ての国債を発行できる政府の財政破綻は無いとします。これを日本で考えれば、日銀が円を発行して国債を買い続ければ日本政府の財政破綻は無い」ということになります。

これは、「日銀は無から信用創造(マネーの発行)ができる」という論から派生したものです。

簡単に言えば、日銀は政府信用の証券である国債を買って、通貨を発行している。この通貨信用の元になっているのは、「政府はいくら国債が増えても、国債の利払いと返済ができる」という信用がある。つまり、「国債の信用が高い」という条件で、日銀がその国債を買って通貨発行ができる。

しかし、その国債の信用を格付けするのは、米国の格付け機関です。

自己資本比率の計算の時、国債を時価評価してリスク資産にしなければならないのが国際的な銀行取引のルールです。国債の価値が下落すれば、銀行間借入のレポ金融の担保にもならず、追証(マージンコール)が必要になります。現金不足で追証(マージンコール)が出せないときは返済が必要になり、その返済もできないので、銀行は破産します。

これは、中央銀行にとっても同じです。自国国債の格付けがBBB級に下がると、10年満期の保有国債なら、「国債保有高×(1+発行時の金利)の10乗÷(1+現在の金利)の10乗)の評価額にしなければなりません。長期債の中心である10年債では金利が1%上がるたびに「保有国債×8%の損失」が出ます。BBB級の国債は、含み損を陶原に計上しなければなりません。

日銀の自己資本は引当金7.7兆円、準備金3.4兆円を入れても11.1兆円しかありません。(資本金は1億円なので、無視できるほどです)

一方で、保有国債は584兆円(平均の残存期間は約8年)です。金利が1%上昇すると、評価額は以下のようになります。

584兆円×(1+0.25%)の8乗÷(1+1.25%)の8乗≒542兆円 … 42兆円の含み損の計上

日銀の自己資本は国債価格が2%下がるだけで債務超過になります。現在の長期金利0.5%で2022年12月末時点で8.8兆円になりました。

インフレ率が4%を超えた日本も秋ごろには金利が1.25%になっていてもおかしくありません。1.25%になれば、保有する国債の含み損は42兆円となり、自己資本の4倍近くに達します。完全に、実質債務超過となります。

中欧銀行が債務超過になると、どうなるのか。政府機関には破産という概念はありません。中央銀行には民間銀行のような破産はありません。ですから、中央銀行が債務超過になっても破産することはありません。

では何も起こらないのかというと、そうではありません。

BBB級の国債は時価評価するとともに、中央銀行間の取引、民間大手銀行の国際取引から排除されます。SWIFTから排除されているロシア国債が、西側の格付けでは売買されていないことが、その典型例です。

世界の中央銀行間の取引、民間大手銀行の国際取引から排除されるとどうなるか。自国通貨で貿易通貨のドルを買うことができなくなります。手持ちの外貨準備でしか、エネルギー、食品、商品、部品の輸入ができなくなります。

円でドルを買う場合、米国債がA級の格付けを保っていれば、円は150円を超えて1ドル200円の超円安になる可能性があります。これが事実上の破産ということになります。

国内では円は通用します。しかし、対外的には価値を失います。

日銀はどこまでも国債を買うことができるという説はそれだけを見れば間違いありません。しかし、国際取引ではSWIFTから排除されたロシアルーブルのように、海外銀行での売買ができなくなってしまいます。これは、日本にとっては事実上の財政破産であり、通貨の暴落になっていきます。

国債と通貨の価値(信用)は買う側が評価するものです。発行する政府が円国債と円には信用があるといっても、取引する海外銀行が信用が低いと評価すれば低くなります。

日本国民は円を信用しているかもしれません。しかし、国際的にはBBB級に下がった国債と通貨は額面の価値を信用した売買は行われなくなります。円が暴落していくという意味です。

エネルギー、資源、食料の輸入が必須の日本経済は中央銀行の円国債の取引と海外民間銀行での円買い、円国債買いがなくなれば、短期間で止まります。政府の破産より遥かに怖いのは、現在A+の日本国債の格付けがBBB級に下がることです。

未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】

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