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金利から考える、今からが本当は怖い金融市場

【金利と経済の基本】

長期金利は、①株価、②通貨のレート、③国債と債券の価格、④景気(経済成長率)、⑤物価上昇、これらに最も強く関係する借入金のコストです。

国債は持ち手(銀行が多い)にとっては金融資産です。しかし、発行した政府にとっては利払いをして、期限日の満期に返済が必要な借り入れの証書です。その借用証書を売買できると政府が決めたのが債券市場です。

米国のように長期金利が5%台に上がると、借り入れ金利もそれを追うように5%付近に上がってきます。

その国の国債の金利は、銀行の貸付金と債券の金利のベースになります。(時間的には国債の売買で動く10年債の金利が、銀行融資の金利に反映するには3カ月から6カ月くらいかかる)

金利が上昇すると、既存の借り入れのうち、利払いができない不良債権が増え、新規の借り入れは減り、その国の経済は不況に向かいます。これが、インフレの時の金利上昇の原理です。

金利を払う借り入れは、借り手の投資、又は需要のために行うものです。借り入れが減ると、その国の経済の供給力(潜在成長率=生産性の上昇率×労働人口の増加率)に対して、投資又は需要が減って、経済は不況(供給力が需要を上回ること)になっていきます。

企業で言えば、潜在生産力(1人当たり生産性×社員数)は100億円なのに、売上が90億円しかないという状態が不況です。

消えた売上の10億円分、つまり総社員の10%が余分になって、採用がなくなり、雇用もカットされます。

これが失業率の上昇、つまり、その国の総賃金(世帯所得)の減少です。

総賃金が減ると、世帯の消費需要が減ります。ニーズはあっても価格が上がった商品を買えなくなるため、金利が上がっていく経済では、1年後くらいから、失業が増え、不況化していきます。

インフレでの物価上昇は、世界的に供給<需要になっているから起こるものです。

2020年からのコロナ対策の財政支出と、日米欧のGDPの20%、金額にして1500兆円の緩和マネーから約40年ぶりに2021年から世界的に始まったインフレを低下させるために、金利を上げて借り入れを減らすことが必要となりました。

約2年間、世界の物価、株価、不動産を上げた超過需要を減らすことが必要です。このため、日米欧は利上げを迫られたわけです。

そのため、FRBは短期金利0.25%から5.25%へ、ECBは短期金利を0%から4.25%へ、そして日銀はYCCの長期金利の1%超えを容認としました。

【日本と米国の長期金利】

日本円の10年物国債利回り(長期金利)は、2021年まではおよそ0%、2022年はおよそ0.2%、2022年の12月から上昇をはじめ、0.95%まで上昇しました。(23年10月)

(出典:TRADING ECONOMICS/日本長期国債金利)

2023年7月から急激に上昇を始めた3カ月間で、借入金の利払いが2.4倍にも増えました。50億円の変動金利を払っていた大手企業では、今後、利払いが120億円に増えます。

金利というコストが上がったので、借金を減らす動きが出てくるでしょう。

約10年間、短期金利が0%からマイナスに誘導されてきた日本にとっては、長期金利1%超えでも大きな上昇です。

0.25%と思い込んでいた借入の金利が1%に上がれば、4倍の利払いになるからです。中小企業では借り換えを繰り返して経営している企業もあるでしょう。その利払い費が4倍になるという事です。これはきつい。

長期金利が0.25%の超金融緩和から、引き締めの5%に上がった米国は日本よりもっと大変です。長期の借入金利は1年ほどで1%から5%へと5倍に上がります。

50億円の利払いが250億円ですから、破綻するのは間違いありません。これが全米中の企業で起こるわけですから、金融も破綻するでしょう。

問題はその時期です。FRBが米国の賃金が4%から5%上昇しているインフレの中で、再び金融緩和をして、物価が上がる中で2024年に長期金利を3%に下げないと、2025年からの金融は破綻せざるを得なくなってきます。

FRBにとっては2024年は銀行危機を引き起こさないための「インフレの中での金融緩和」という選択肢しか残されていません。それをしなかったら、2024年の後半期や2025年からの米国発の金融危機が勃発する可能性が大。

もし、今回金融危機が発生したら、世界の負債が世界のGDPの3.5倍(4京円)に膨らんでいるので、とてつもなく大きなものとなります。

米国のように2021年に対して金利が5ポイント上がると、世界では「4京円×5%=2000兆円のりばらいの増加」になって、借り手(第一に政府、第二に企業、第三に住宅ローンのある世帯)が利払いと返済の不能に陥っていくからです。

利払いと返済がなされない国債、社債はいずれも3カ月で不良債権となり、銀行、生保、ファンドなど、債券へ投資していた機関投資家の資産を棄損させます。

【政策金利の決まり方】

日銀・FRB・ECBの政策金利(日銀の長期金利1.0%上限、FRB短期金利5.5%、ECB短期金利4.25%)は「期待インフレ率」への中央銀行の判断で決まっています。

ケインズのマクロ経済学に反対して、合理的期待形成学派を作ったルーカス経済学の用語である「期待インフレ率」が基となります。

期待インフレ率は、1年くらい前から現在までのCPI(消費財の物価指数)の毎月のデータから債券市場で国債を売買している銀行・生損保・年金基金・外銀が「集合知(標準偏差)」として予想する長期のインフレ率です。

ルーカスはケインズの国債発行の景気浮揚策は市場の期待金利を上げるので2年、3年では無効になるとしました。

しかし、1990年代からは、中央銀行がそれまでは法が禁じていた国債を買って国債の大量発行があっても金利が上がらないようにしたのです。

【金融市場でインフレが認識されると価格が下がる既発国債】

日本は1,200兆円、米国は32兆ドル(4,800兆円)の既発国債があります。

民間の債券市場ではその国の期待インフレ率が高くなると、銀行が通貨価値の低下を見込むため、既発国債と債券の価格が下がります。

下がる国債は売りが増えますから、買い手は減って金利は一層上がります。(つまり、国債の価格は下がる)

国債の利回り=国債の固定金利÷今日の国債価格(変動)

日本の国債の1か月での売買は3,900兆円と、金利が上がって国債価格が下がる中、2021年の約2倍に増えています。

(出典:日本証券業協会資料より筆者作成)

日銀を含む金融機関が国債を持つ保有日数は「30日×(1,200兆円÷3,900兆円=9.2日)」と、金利が上がっていなかった2021年の1/2に短縮しています。

この保有期間の1/2への短縮は金利が5%は上がった米国、4.25%に上がったユーロ債も同じです。

円国債の売りが増えた原因は、0%だった市場の金利が2022年から上がったため、長短の円国債1,200兆円(平均残存期間8年)の時価が下がったためです。

額面1,200兆円÷[(1.01-0.0025)の8乗]=1200兆円÷1.06=1,132兆円
1200兆円→1,132兆円への下落

国債を持つ金融機関全体では、円国債の売りで売却損失が出て、売らなかった国債は含み損として、合計68兆円の損が出ています。

国債による損失は、23年12月決算から、順次拡大して明らかになるでしょう。

2021年までは、国債の売買で金融機関に利益が出ていたのですが、市場の金利が上がった2023年1月以降は逆転しました。

そして、日銀は既に実質債務超過に陥っています。

既に実質債務超過である点は米国FRB、ユーロのECB、英国のイングランド銀行も同じです。

【今からが本当は怖い金融市場】

実は2021年の0.25%から5.5%への5ポイント以上の利上げによって、米国FRBは日銀よりひどい債務超過です。

米国債の32兆ドルは、FRB、米銀、ファンドが約60%~70%を保有。残りは海外勢の日本、中国、英国、スイス、産油国、東南アジア、タックスヘイブンなどが約30~40%を保有しています。

5ポイントも金利が上がると、米国債は以下のように下がっていきます。平均残存期間は米国債では30年、40年の長期債が日本より多いので、10年と考えます。発行時の金利を1%、2023年10月の10年債の金利を5%とします。

国債残高32兆ドル×(0.05-0.01)×8年 =10.24兆ドルの時価損失

1ドル150円換算で考えると1,536兆円も米国債の価値が下がっています。

FRB+すべての米銀は、日本よりはるかに大きく、強烈な債務超過です。リーマンショックの比ではありません。

一見、平穏に見えている世界の金融市場ですが、実は大きな問題を抱えています。

世界の銀行家は金利の上昇による国債と債券価格の下落と債務超過については黙り込んでいるように見えます。対策がないからでしょうか。

対策がないままに、銀行が資産の時価評価では回復ができない債務超過になったと、自ら告白すれば、預金不安が起こって預金取り付けとなり、1週間もあれば資金不足に陥って、預金の払い戻しと送金に応じられなくなります。

そうなると、預金の引き出し不能と送金の不能から金融恐慌になり、さらに金融だけではなく実態経済も恐慌状態となります。

【最後は国有化しかない】

民間企業は自己資本が消えると、債務超過になり信用を失って銀行取引が停止され、支払ができず破産します。事業の継続はできません。

しかし、日銀やFRBには、政府が不足資金を入れる増資があるので、破産しません。財政が赤字であり、資金不足の政府からの増資は次のような方法で行われるはずです。

①政府(財務省)が日銀に対して、国債を発行する。
②日銀がその国債を買って、通貨を増発する。
③政府はその現金で日銀に増資資金を支払う。

円の信用がある間、つまり外為市場で円が売られて1ドル200円、250円と暴落しない間は実行可能でしょう。

現在、財務省の日銀への出資は55%です(資本金は1億円なので5,500万円)。財務省が上記の方法で日銀に対して増資をすると、日銀は国有化され、財務省の子会社となります。

民営化前の郵貯は国有でした。日銀と民間銀行が融資機能を持った郵貯になるという事です。

日本人はほとんどの人が円を信用し、1ドルが150円台になっても円預金がほぼすべてです。大丈夫でしょうか。

しかし、米ドルもユーロも、そしてポンドも、似たような状況です。

本当は怖い金融市場。しかし、これはすべて西側の金融の話です。

BRICSの台頭、金価格の上昇。この辺りはしっかりと見ておく必要があるのではないでしょうか。


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