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【彼女の決意】プロローグ

静寂な朝の時間

明け方、まだ外が薄暗い中、部屋の中をほのかに照らす街灯の光とともに、中村真理は静かに目を覚ました。

昨晩は夫の誠とお気に入りのネットフリックスのドラマを見て夜更かししてしまった。それでも朝は早い。真理の内側の時計は、家族との大切な時間を過ごすためにしっかりと機能している。

ベッドの上でゆっくりと伸びをし、眠たい目をこすりつつ、真理はキッチンへと足を運ぶ。朝の冷えた空気を感じながら、水とお米を合わせて炊飯器にセット。その音が、家族の目覚めの合図となっていた。

数分後、キッチンのテーブルには長女の梨花が顔を出す。彼女の大学生活のエピソードは、常に新鮮で真理にとっての楽しみの一つだった。今日は、キャンパスでの友達とのエピソードを鮮やかに、そして明るく語ってくれる。

一方、長男の健太はテーブルにつくなり、真理に向かって夢見る未来の話を始める。彼の夢は大きく、その情熱には真理も心から感動する。真理はその話を耳にしながら、健太のためのお気に入りの目玉焼きを焼き始める。

そして、夫の誠は真理に微笑みながらコーヒーを淹れる。彼との朝の日常は、美味しい料理の話や今夜のワイン選び、そして二人で楽しむネットフリックスのドラマの話題でいっぱいだった。

家族全員が集まるこの朝の時間。家の中には愛と温かさが満ち溢れている。真理にとって、この穏やかで静かなひとときが、日々の喧騒の中での最も特別な時間となっていた。

しかし、その平穏な時間の中で、真理は突如として自身の体に異変を感じる。一瞬のめまいや足元のふらつき。短時間ではあったが、それは彼女にとって初めての経験だった。

真理は深い呼吸をし、その不快感を振り払うようにしたが、彼女の心の奥底では何かが起きる前触れを感じていた。それはまるで、これまでの日常が一変するような予感で、静寂な朝の時間に一筋の影が落ちた。


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