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宝塚のスターに渡すお手紙を書くときの心得

≪前回の記事はこちら≫


出待ち。
この日の出待ちはかなり早く並ぶことができた。
まだ天使さんも見当たらない。

午後は貸し切り公演だったため、観劇をせず時間をつぶしていたからだ。
こんな感じで時間があるときはキャトルレーブ(グッズ販売)を見たり花の道でご飯を食べたりのんびり過ごす。

こののんびり時間にやることといえば「お手紙書き」

お友達になった天使さんから言われていた「カンタンでいいんだよ」
というお手紙。


その言葉を信じてカンタンに書いてみようと思ったが、今度は逆にカンタンが思いつかない。


あのときは
「あーもう時間がないっ!」

と思ったからバババッと書いて渡せたが、時間があるとかえってそれが後ろめたい気持ちにさせる。

人間、時間があるとほんとくだらないことを想像しているものだ。

椿が手紙の山を開ける→次々と開いていく→おつかれさまでしたとだけ書かれた手紙を見る→開けて損した気分になる

そして

次の手紙も開けてみた→これもおつかれさまでしただけ書いてある→なんだよという気分になる

きっと私ならそう思う。
そう思ったらちょっと笑えた。


一度お手紙渡しを経験したことによって、私の中で緊張感は薄らいでいる。
今日がチャンスだ。時間もあるし、しっかり書いてみよう。

用意してきた便箋と封筒を手に取り、かわいいカラーペンを握りしめた。



そもそも私自身にこんな女性らしい一面を感じたことはない。
お手紙を書くなんて、学校で書かされた母親への手紙くらいだ。

ああ、そういえば憧れの男子に書いたこともあったかも。
あのときはどうかしていた。
なんて書いたか覚えてないけど、相手から返事が無かったことを思うと恥ずかしくて顔から火が出そう。
中学生のときの話だから、絶賛中二病を発動していたころだ。

恋に浮かれて書いた手紙なんてろくなことは書いていない。
大抵独りよがりの妄想だ。


私は前回の贔屓のときから、宝塚のスターを好きになってもあんなに恥ずかしいラブレターは書くまい、と思っていた。
これは私の中にある女性の部分への最後の抵抗だ。

用意した便箋と封筒のセットは、まわりの人たちとつり合いが取れるよう、なんとか可愛らしいものを用意した。
みんなどこで買っているのだろう、と思うほどバリエーション豊かなお手紙セットを持っている。

カラーペンも本当は持っていなかったし、使うことなんて微塵も思いつかなかったけど、みんなが使っていたから用意した。
隣にいたファンが、ぎっちりカラーペンとシールが詰まっているペンケースを持っているのを見た時は衝撃だった。

前回のお手紙渡しでみんなが渡している姿を凝視していたのは、これから書く手紙の参考にするためだ。
もし私の好みだけで用意していたら、お葬式のように地味な手紙になっていただろう。それこそ渡すときから事故りそうだ。



ただ内容に関しては、ムリだ。
好き好き!と熱烈ラブレターみたいなものはどう頑張っても書けそうにない。


そこで私はお手紙というよりレポートという体で書いてみようと決意する。

もちろん大前提に好き、はある。
気分を害することや変なことは一切書かない。

妄想やこうあったらいいのに、など椿が困惑しそうなことは絶対避けたい。
ネットにも書いてあった。あまりに気持ち悪い妄想は引かれる可能性がある、と。

とにかく今日観た公演で感じたことをレポート形式で書いていけば大事故は防げるだろう。

そう思い筆を執ると、思った以上に書きやすかった。




出待ちで並んでいる私の手には、手紙をしのばせたバッグがある。
この手紙を今日渡すのかぁ、そう思うとやっぱり心臓はバクバクしだした。
バッグのファスナーを何度も開けたり閉めたりして確認する。
いや、何度見ても変わらないのに。。


隣には二人組が並んでいた。楽しそうに公演の話をしている。
話しの内容を聞いていたら悪いなと思いつつ、大きな声でしゃべっているのでどうしても聞こえてしまう。

「前回の〇〇のとき、こうだったのに今日は違ったよね」
「そうだったかなぁ」

どうも片方は今日のアドリブのことに気づいたらしい。
でももう片方はそれをすっかり見逃しているようだ。

会話がかみ合わず、何度も繰り返されるその質問に

私はつい
「そうでしたよね」
と隣から声をかけてしまった。


(やっちゃった)

私はついうっかり声が出てしまったことを後悔。


すると、その隣の2人組はものすごい笑顔で
「やっぱりー」「そうだったんだー」と返事をする。

よ、よ、よかったー。
突然会話に割入ったにもかかわらず、受け入れられたようだ。
ホッとした。


そこからはほぼ同年代ということもあり、会話が弾んでいく。

どこから来たのか、どれくらいの頻度で来るのか、
どの公演で椿のファンになったのか。

2人組は急速に距離感を縮めてくる。
私はどちらかというとじっくりゆっくりタイプなので、この急展開についていくのに必死だ。


話しもおもしろく人懐っこい2人に私もすっかり気を許した頃だった。
私よりずっと前からファン歴がある2人は、私にもっと教えたいと思ったのだろう。

「このあと一緒にご飯いかない?」

ちょうど今日は宝塚ホテルに宿を取ってある私にとっては願ってもないお誘い。

よろこんで「はいっ」と答えた。









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