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【#読書感想】俺ではない炎上/浅倉秋成

順風満帆な人生を歩んでいると思っていた主人公「山縣泰介」が、覚えのないTwitterの投稿と殺人の犯人ではないかとインターネットで騒がれたことから物語は始まる。当人はインターネットに疎く、すぐに騒ぎは収まるだろうと思っていたが、すぐに情報が拡散される現代において、それは大きな火種だった。瞬く間に炎上し、実名や住所、写真が晒されていく。面白がったYouTuberや一般人も参加し、人違いによる暴力沙汰まで発展してしまう。誰もが信じてくれない中、泰介は身の潔白を証明するため逃亡を図る。
主人公である泰介と、泰介を犯人と疑う刑事、拡散の一助となった大学生、そして泰介の娘のそれぞれの視点から物語が展開していく。


ミステリ小説として ※ここからネタバレ

ここからネタバレが入ります。



結末が近づいたところで、ちょっと頭が混乱した。なるほど、時間軸が違ったのか。頭の中で勝手に娘である夏美は小学生であり、クラスメイトの「えばたん」と父親の『殺人』の潔白を証明するために家を抜け出したのかと思っていた。実に上手いミスリードだと思う。
同時に展開される住吉初羽馬の視点の「サクラ」と夏美が同一人物だなんてどうして思えるだろうか。ただ、女児連続暴行犯を子どもが捕まえに行くというのは中々現実的ではないかな、とちょっと思ってしまったな。(殺人犯を探すのも現実的ではないけど、そこは「父親の冤罪を晴らす」という大義名分がある)
このミスリードのうまさは「山縣夏美」の話は小学5年生のときの、10年前のものであるにもかかわらず、その章の最後には現在の時間軸におけるTwitterの呟きが記載されることにある。そんなん時間軸が違うって思わんやん!

正直、違和感はあったんですよね。泰介ですらよく事件の概要が掴めていないときにすでに夏美のクラスメイトたちは「事件」について噂をしていた。ここ凄く変だな、と思ってたんですけど、終わって事情がわかれば「なるほどな~!」と膝を打つ。叙述トリックとはまさにこれだなと。

感想

ミステリ小説としてすごくおもしろかったんですが、中でも私が特にすごいなと思った描写が「主人公の自己認識と他者からの認識の齟齬の描き方」です。
正直に言うと、途中まで泰介の自己評価が高いことに違和感を感じていなかったんですね。そういうタイプの、自信もあるし実力もあるし、という人物だと思っていました。というのも、言葉の端々に少し遠慮が見えるんですよ。100%自己肯定感が高く自信満々と言うわけではない、虚栄にみえない。だからこそ、奥さんの態度や、仲人までした元部下のところに行くまでのシーンで違和感が強烈になる。
「あれ、この人もしかして、人望ないのか?」そういう違和感を感じてからは早かった。部下から泰介に対する不満を持つ人間の名前が出るわ出るわ。奥さんの「敵を作りやすい人」と言う言葉にも納得。

最終的に、少し自分以外の人間にも歩み寄るような姿が見れたけれど、人間が人間に対する態度というのは経験と慣れから来るものなので、それを継続できるかが問題だよな、とも思います。最初は元の態度を取ろうとしていたけど、思い直した描写は中々感慨深かった。

ミステリの内容とはあまり関係ないけれど、やはりこの物語の主軸のところにみんなの「自分は悪くない」という自己保身があるんだなと思いました。
拡散したこと、巻き込まれたこと、閉じ込められたこと、全部全部「何故自分が」という考えがぬぐい切れない。
その考えからまず抜けられたのが、娘である夏美だった。泰介もそこから抜けられるかもしれない。
ともあれ、すぐに元通りにはならないだろう生活の中で、親子間・夫婦間の距離感が見つかればいいなと思います。

総評

SNSにアップしたら、場合によっては一気に拡散されて、取り返しがつかないことになるという現代的な話でした。「炎上」と言葉にすると軽いですが、当事者になってみるとさぞつらいでしょう。
真偽不明の情報、明らかな虚偽、それを助長し盛り上げる人、炎上というものは必ず人が作り出したものです。巻き込まれたくないのはもちろんですが、情報を精査することなく反射でキャッチ―なことに飛びつくのはやっぱり危険ですよね。何気ないリツイートやいいね!が何を引き起こすかわからない、という教訓のような面もありました。まあ初羽馬は明確に「これが盛り上がったら、盛り上がる前から知ってたと言える」という下心があったんですが。


小説を読んで、しっかり感想やあらすじを書くってことをあまりやってこなかったので、言葉が支離滅裂だったのですが、自分の思ったこと・感じたことをアウトプットできるのは良いなと思いました。

また何か読んだら書いてみよう。




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