自衛隊の将来と人員問題

2023年5月現在、2年目に突入したロシアによるウクライナ侵略を発端に、西側諸国とロシアとの対峙がいよいよ明瞭になりつつあります。

執筆時に行われてる広島G7では、ウクライナからゼレンスキー大統領も訪れ、国際的な緊張状態、西側諸国の連帯は一層高まっていると考えてます。

一方で、日本としてはロシアだけでなく中国との問題を抱えています。
中国はロシアとの関係を深めつつ、近年は台湾への軍事的攻撃の意図をあからさまに表明するようになりました。

日本は東南アジア方面へのシーレーンを抱えており、台湾有事ともなれば大きな影響は避けられません。
その為、岸田総理になって以来、自衛隊は大きな変革を行うと共に、有事へ備えた弾薬や輸血用血液の備蓄といった、対策を行い始めています。

今回は緊張する国際情勢の中で自衛隊がどのような変革を遂げようとしているか、その先に横たわる「人員問題」という壁に焦点を当ててみます。

1.日本の人口構成の将来

内閣府が今年公開している令和四年版高齢社会白書には、2055年までには日本の総人口は1億人を割ると書かれています。
かつて『一億人の昭和史』というシリーズの冊子がありましたが、日本は富国強兵で明治から目指し、昭和で達成した一億人という人口から、人口減少が進むとなるのです。
それも、単純に減るのではなく、人口の4割近くが高齢者、新卒等の新たに就労に適した人口(20代〜30代)の割合は、(白書には生産人口が広く書かれてるので分かりにくいですが)10%〜15%程度まで落ち込む訳です。

当然、従来の国内市場規模を維持するのは難しくなるでしょうし、出生率の問題を含めて、若い人は貴重な存在となるでしょう。

2.人口問題と自衛隊

人口減少、それも若年層の減少は自衛隊にとって大きな課題です。
単に、入隊適齢者が減るというだけでなく、国内産業の担い手として、民間から適齢者を大勢取るわけにもいかないからです。
これが徴兵制をとって、一定の年齢層の選抜された層だけが、一定の期間で社会へと再び帰るシステムが確立されてるなら、問題は緩和されるでしょう。
しかし、自衛隊は志願制の軍事的組織です。

若手の人材は常に民間と取り合いになるだけでなく、自衛隊に残って、幹部や下士官として長く活躍してくれる人材も確保しなければなりません。

そうなると、自ずと自衛隊へと社会が割ける若年人口の比率は絞られていきます。
ここで、自衛隊側が行える対策には次の様な内容があるでしょう。

①.無人兵器や広域をカバー可能な兵器の導入、兵站システム等の機械化、部隊のIT化による省力化。
②.若年退職者の社会(志願者や親御さん、退官者への企業の理解)への心理的状況の改善による、志願者の確保と任期制退官等による社会の就労人口とのバランス確保。
③.上記に加えて、予備役制度への理解を深め、予備人員を確保。
④.外国人就労者の問題と同じトラブルを内包するも、外人部隊の創設検討。
⑤.先に書いた選抜式徴兵制による強制的な就労人口とのバランス確保。

そして、現在自衛隊が取り組んでるのは1〜3の手法になります。
これらは今の日本社会に負担を出来る限り掛けない様にしつつ行える、最大限の方法だと考えています。

①の省力化に関しては次の項目で話すとして、②と③の方法の大切さと限界、④と⑤が他に取れる手段がない時の方法である事を記載します。

まず、②と③は共に自衛隊の事を社会に良く理解して貰うという、今後の活動をする面からも大切な内容です。
昨今、防衛白書に記載されてきた自衛隊への国民感情、特に良く思ってるという心情は、アンケートを見るかぎりでは良くなっています。
しかし、即応予備自衛官も経験した身からすると、企業や個々人の自衛隊の職務に対する理解は、まだまだ不足してると感じます。
特に訓練呼集で仕事を離れる時に、もう少し融通が効かないかと言われたり、訓練中に仕事の連絡が来るのも、しょっちゅうでした。

また、国際情勢が緊張を増す中で、保護者の方々が自衛隊へと子供を送りたくないと思う心情は、察して余りあります。

その様な国民感情のある中で、退官者が企業に受け入れられ易い、欲を言うなら優遇される環境が出来れば志願もしやすくなるでしょうし、逆に任期制隊員で辞めるという事に語弊を承知で言うならば、抵抗が薄くなるでしょう。
つまり、人生を歩む中で「途中で自衛隊で働いて社会にでる」という選択がうまれやすくなると思うのです。
即応予備自衛官や予備自衛官への理解も深まれば、いざという時に、自衛隊の人員不足をカバーする予備役の確保にも繋がります。


次に、④と⑤の問題点です。
④に関しては、そもそも文化性の異なる人々を受け入れる必要があり、犯罪といった問題以前に、外国人に如何に日本の文化へ適応して貰うか、または日本側が何処まで譲歩出来るかという問題を抱えています。
また、外人部隊を経て退官した方々の処遇をどうするのかという問題もあります。
クルド人難民による住民トラブルの話もありますが、文化的差異は日本社会に大きな影響を与えます。

⑤に関しては政治的問題が非常に大きいです。
予算的問題に関しては、選抜徴兵制にする事で、必要以上の人員を囲う必要はありませんし、練度の問題もある程度は常備となる下士官以上の人員を確保し続ける事と教育の改善で対応出来るでしょう。
ただ、教育の改善も非常に難しい問題なのですが、一番の問題としては第二次世界大戦の敗戦を経た、戦後日本の教育と文化で培われた認識から、到底国民感情の理解を得られるとは思えない事でしょう。
故に、この2つは最終的な手段としては選択出来ても、とても行えると思えないのです。


3.自衛隊の変革と省人化

先に挙げた項目で①の省力化に対する自衛隊の努力と、個人的に思う将来の姿を最後に述べようと思います。
台湾有事への危機感が高まる中で、現作自衛隊は防衛力を高めながら、本土防衛の陸自のスマート化と海空自衛隊へのリソース割り振りを精力的に行なっています。

何故、防衛力を強化しなければならないか?という疑問に関しては、今回は防衛省の公開している『パンフレット ~なぜ、いま防衛力の抜本的強化が必要なのか~』を読んで頂ければと思います。

現行の国家防衛戦略と防衛力整備計画の自衛隊に求められる内容で、個人的に思っているポイントは次の3点です。

a.無人兵器や機械化の推進、IT化による省力化と戦力増強。

b.海空自の増強による、洋上阻止能力の強化と、戦場を遠方へと遠ざける努力。(陸自の島嶼展開能力向上を含む)

c.陸自の省力化に伴う、各部隊の機械化と長射程装備増強による全国展開・対応能力の強化。

これのうちaは全ての軍隊で求められる要素ですが、これには限界があります。
というのは、無人兵器等の運用には通信が届くという前提が必要であり、軍隊が活動する環境は必ずしも電波が届くとは限りません。
妨害を受ける事も考慮すると、あくまで人間の補助としての立ち位置になります。

例えば、陸自は戦闘ヘリを廃止して、武装無人機で代替しようとしてますが、戦闘ヘリなら活動出来た山間部等の通信見通し線の得られない環境では、ハブとなる有人ヘリが無ければ代替手段として同じ事は出来ないでしょう(火力を単に投射するなら長射程誘導弾でも出来るのです)。
そして、有人ヘリの生存性を高めるとなると、自ずと戦闘ヘリのスタイルへと帰結するのです。
そのように進歩した存在なのですから、当然と言えば当然ですが。


また、IT化も最低限現場で動く人員あってこそ、その効果を発揮します。
また、それらの通信インフラ等を維持管理する人員も必要で、サイバー領域の活動が拡大する事を踏まえると、その傾向は益々大きくなります。
誤解を承知で言うならば、現場に出られる人員は後方で活躍する、サイバー面で活躍する人員確保で益々減るのです。
それでも、機械化も含めた技術の発達は少なくなる人員をカバーする為に、最大限活かして行かなければならないでしょう。

bに関しては、日本本土での大規模な戦闘を避けたり、仮に着上陸されても敵の戦力を残減し、また残された海空自戦力の再編成による反撃の為に重要な内容です。
相手が地域紛争で収める企図で仕掛けてきた場合も、陸自の島嶼展開能力向上も合わせて、対応力向上を期待出来ます。
また、装備に依存する部分が大きく、省力化を兵員が必要な陸自より行い易いという魅力もあります。

cは個人的に一番の変革で、これから益々変わっていくと考える内容です。

昭和の頃も転地訓練を行い、戦力の機動は意図されてましたが、原則は各方面隊が敵を留めて、そこに他の方面から増援を流し込むというのが陸自のスタイルでした。
しかし、平成後期に動的防衛という考えが取り入れられた処から、陸自のスタイルは変わります。
隊員数の減少に伴い、全ての部隊を必要な場所へと、敵が来るまでに出来る限り送り込む方法へと変革しつつあるのです。
その中で、反撃の中核となる重装備の部隊を残しつつ、16式機動戦闘車などの戦略機動性の高い部隊へと変化しつつあります。

この変革の特徴は単に機動性を増すというだけでなく、部隊の人員を減らしつつ、火力と装甲率は向上させているというのがポイントです。
特に普通科を構成する人員は、今後益々減っていく事が想定され、それをカバーするには火力と装甲で補うのは大切で有ることは、イスラエル国防軍などの事例でも証明されてます。
一方で、ウクライナを侵攻しているロシア軍の様に、歩兵の不足により拠点を占拠出来ないといった問題もあります。
今後、陸自の課題は減りゆく人員の中で、如何にして普通科の人員を確保し、練度を高め、それを他職種が効率的市場仮説に支援する環境を整えられらかにあるでしょう。



ここまで、長々と書きましたが、日本の防衛が直面している人口問題は絶対に避けて通れない課題となっています。
今後も不定期にですが、話題を考えたら書いていきますので議論の糧になれば幸いです。

今後とも宜しくお願い致します。

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