アメリカンクッキーの誘惑
小さい頃にアメリカに住んでいた。
その当時の思い出で鮮明に残っている甘い記憶がある。
出かけた先で出された焼きたてのチョコレートチップクッキー。
クッキーといえばサクサクしたものだという私のそれまでの概念がそこで覆された。
そのクッキーはチョコレートがとろけていて、いわゆる「チューイー」な食感のしっとり柔らかなものだった。
まだ温かく甘いそれはそれまでに食べたどんなクッキーとも違っていた。
それがクッキーだと思えずに「この美味しいものは何?!」と思わず聞いた覚えがある。
提供してくれた女性が「チョコレートチップクッキーよ」と言った時にもそれがクッキーだとにわかに信じがたかった。
それほどの衝撃があった。
焼きたてのアメリカンクッキーには抗えない魅力がある。
思い出補正もあるかも知れないが、幼い頃に食べたあのクッキーが忘れられなくて、中年になった今でもつい折に触れてアメリカンクッキーを焼いてしまう。
チョコレートチップクッキーが好きなアメリカ人は多い。
自分だけのレシピを持っている人も提供する店も多く、大人から子供まで好きな国民的なお菓子だと言えるだろう。
日本のクッキーは薄力粉と白砂糖を使っていてサクサクと軽い口当たりにしているものが殆どだが、アメリカのチョコレートチップクッキーは中力粉とブラウンシュガー、グラニュー糖を使っていて中央がねっとりした食感だ。
また焼きたてを温かいまま食べることも多く、それが柔らかな食感にブーストをかけている。
アメリカンクッキーは直径が大きいのも特徴だ。
小さいと全体がサクサクしやすいが、大きなクッキーは中央に通る火が少なくなるのでしっとり感が残りやすい。
アメリカンクッキーは日本では殆ど食べられないのでたまに自宅で焼いている。
スターバックスのクッキーやコストコのバラエティクッキーなどを買うこともあるのだが、自分で焼いた方がコスパが良い。
業務用の無塩バターを丸々1本使って大量に作り、生地を冷凍しておけばいつでも焼きたてが楽しめる。
生地を36時間以上寝かせると深みが出て味のまとまりも良くなると聞いてから、冷凍する前に冷蔵庫で2日寝かせるようになった。
アイスクリームをすくうディッシャーで生地を取り分けているため、焼くと手のひらほどの大きさの巨大なクッキーが出来上がる。
焼きあがったらフルールドセル(結晶の大きい海塩)をふりかけて味にコントラストをつけるとより美味しくなる。
大量にバターと砂糖を使っていることも相まって1枚でもかなりの満足感。
自分でお菓子を作る人は分かってくれるだろう、1つのお菓子を作るのにこんなに砂糖を使うのか…という衝撃。
アメリカンクッキーはその衝撃が倍くらいある。
一度に作る量が多いからというのもあるのだが、ブラウンシュガーとグラニュー糖をざかざか入れてチョコレートもこれでもかと入れるので健康に悪そうだとつくづく思う。
だが健康に悪いものは大概美味しいのだから困ったものだ。
こんなことを書いていたらクッキーが食べたくなってきた。
冷凍している生地がまだあるので焼いて、温かいアメリカンクッキーを冷たい牛乳と一緒に食べよう。
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