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【下書き】J庭新刊書いてます

こんばんは。みおさんです。

9月のJ.GARDEN56に向けてわくわく新作執筆中です。
冒頭シーンを書き始めて楽しくなってきたので、ちょっとだけ公開。

書き始めたよー!楽しいよー!って言いたいだけです。

3月のJ庭55で販売した「硝子レンズは無色透明」の続編です。
新作単体でも読めるようにするつもり。


※以下は製作中のものであり、実際に販売される商品は内容が異なる場合がございます。



 雨が降っても屋根はない。
 地面が凍っても床はない。
 腹が減ってもパンはなくて、どんなに寒くても上着は薄くなっていくばかりだった。古着屋からくすねた年代もののコートにくるまって、アンリは今夜も凍死しませんようにと祈るのが悔しかった。
 祈るなんて。
 毎日祈れば神に声が届くなんて、信じたことはない。きっといつか、凍えて死ぬか、飢えて死ぬ。分かっているのに心の奥底で、どうか神様お願いしますと祈ってしまう自分がいる。
 アンリは家なき子として二度目の冬を耐えていた。

 このところ「収穫」が少ない。
 どこも不況というやつで、店に売り物が入ってこないとか、税が重くて農民が逃げ出したとか、そんな話ばかり。大金持ちの王様や貴族は大きなお屋敷の中にいて街にはなかなか出てこない。道を行くのはアンリより少しマシなだけの貧乏人ばかり。浮浪児まで回ってくる食べ物などない。
 ないから盗る。それでもいいが、アンリは危ない橋はなるべく渡らないようにしている。
 バレずにやるのは大変だ。ルテティアの住人たちもマヌケじゃあない。毎日の食事を盗みでまかなうのは難しいし、捕まったら鞭打ち刑とか、腕を切り落とされる可能性もある。よほど上手くやれる時以外には選びたくない手段だ。

 じゃあ家なき子たちはどうやってゴハンを食べてるの?
 もらうのだ。慈悲深い誰かから。もしくは気まぐれなクソ野郎から。
「また来たのかい、あんた」
 食堂の裏に、無愛想でお人よしな女がいる。アンリが顔を出すと、その中年の女はもとからの顰めっ面を左方向に歪めた。
「ちょっとでいいから……」
 おずおずと両手を差し出すと、女はわざとらしい溜息をつく。
 料理をすると、野菜の皮やへた、外側の葉っぱなんかがゴミとして出る。どうせ捨てるならくれないかと頼んだ日から、週に二度ほど、野菜くずをもらいに来ているのだ。
 女はきっと優しいのだろう。アンリを追い払わず、自分が主人に叱られない範囲で施しをしてくれるのだ。
「こんなもんでも食べてりゃ生きていけるもんなんだね」
 ただ、あまり賢くはなかった。アンリが野菜くずを食べて生き延びていると思っている。
 さすがにこれは食べない。食べられそうなものは少し食べるが、それよりいい使い方があるから貰っているのだ。
「うん、ありがとう」
 こういう時、あまり溌剌と礼を言ってはいけない。もごもごしているくらいがちょうどいい。

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