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教えて、京極先生

こんにちは。
いつもお弁当を作ったり食べたりしながら、昔のことについてあれこれと思いを馳せている、羽村美栞です。

このままだと、次々と押し寄せてくる記憶やら思い出やらに溺れてしまいそうな気がして、noteに残すことにいたしました。
お弁当と一緒にあの頃を消化(昇華)できたらいいななんて、そんな淡い願いを抱いております。


【哀しいお弁当 “思い出つめときました”】
三回めにして、早くも番外編です。
なぜなら、今日の記憶のお供がお弁当ではないから。

今日のお供は、こちら
林檎堂さんのりんご飴です🍎


りんご飴って、どうしてこんなに可愛いのでしょう。

お祭りに行くと、この真っ赤なりんご飴が欲しくて欲しくて……。
わたしが人並外れてお腹が弱かったからなのか、それとも、ただ単に貧乏一家にはなかなか手が出せない代物だったからなのか。
今はもう確かめる術はありませんが、子供の頃には一度も買ってもらえなかった、憧れの食べ物です。

屋台に並ぶりんご飴に、飴さえ蕩かしてしまうほどの熱視線を送っていた、あの頃のわたし。
大人になったら食べられるようになるよ、だから、もうちょっと待っててね。



そう、りんご飴ってお祭りの食べ物ってイメージなのですよね。
そして「夏」って感じ。
冬にもお祭りはあるのに、不思議です。
不思議といえば……。

わたし、今でも不思議に思っていることがあるんです。
あれはいったい何だったんだろう?って



ことは、今から数年前。
なんと、わたしの住む街にやってきたんです。
妖怪たちと、そして、そんじょそこらの妖怪よりもよっぽど妖怪じみているあのお方(もちろん褒め言葉です)。
京極夏彦先生が!

もうその催しの名前さえ忘れてしまいましたが、メインは京極先生の講演会。
しかも、妖怪映画の上映まであるとか。

うわぁ、大変大変!
これは何としてもチケットをゲットしなければ!
何を隠そう妖怪好きのわたし。
その情報を耳にした途端に、テンションがぶち上がりました。
そして、無事チケットを手にしたわたしは、遭遇するのです。
あの「不思議」と……。



その日、わたしは、ぼっち参加でした。
妖怪仲間の姉はチケットの抽選に外れてしまったから。

お初の場所。
恐ろしいほどの方向音痴のわたしが無事に辿りつけるのか、実はかなりヒヤヒヤしていたのですが、どうにかこうにか時間までには到着出来ました。

胸を撫で下ろしたのも束の間、会場に入ると……。
なんと、そこには、妖怪たちが!

あぁ、これはもう、某夢の国のウェルカム・グリーティング状態ではないですか!
あちこちを徘徊している妖怪たちを目にした途端、ひゃあ♡となったのですが……
哀しいかな、わたし、とんでもなく照れ屋なんです。

わぁ、お話したい!握手したい!きゃあきゃあきゃあ〜!
心の中では、ものすごく喜んでいるし、ときめいてもいるのに、それを素直に伝えられない性格なもので。
せっかく妖怪さんが近寄って来てくれたのに、わたしったら「あ、ども」なんて小さな声でお辞儀をするのが精一杯。

でも、その妖怪さん、すごくいいお方で、わたしの真似をしてお辞儀をしてくれたんです(笑)
「うお〜!かわいい〜!」と、中のわたしは完全にぶち上がっているのですが、表面のわたしがね。
あろうことか「あ、じゃ、あっしは受付行ってきますんで」とか ブツブツ言いながら、まだ何か話しかけてくれているそのジェントルマンな妖怪さんをスルーしちゃうんですよ(泣)

「ごめんねごめんね、せっかく来てくれたのにごめんね」と心の中で謝りながら受付をしていると、目の前に新顔さんがいらっしゃいました。

その方は、わたしの前の男性たちに こう声をかけていました。
「袖を引いてもよろしいですか?」

いやぁ〜!出た〜!袖引き小僧さんよ〜!
見ていると、男性たちは笑顔で腕を差し出しています。
その袖をくいくいっと引っ張る袖引きさんと、嬉しそうに袖を引かれる男性たち。
や、やばい、ここは天国ですか?

なんだか、胸がいっぱいになってしまったわたしは、目を潤ませながら決意したのです。
わたしも、袖引きさんに袖をくいくいしてもらうんだ!と。

緊張とワクワクと恥ずかしさと、全ての感情がごちゃごちゃになったわたしは、頬を赤らませながら、そしてたぶん鼻息を荒くしながら、袖引きさんの元へ。
が、しか〜し!
もう少しで愛しいお方の目の前に行ける、そう思ったところで……
なんと、袖引きさんは、くるっと踵を返して行ってしまわれたのです。
あちらの男性たちの元へ。


はぁ……。
わたしの顔が怖かったのでしょうか?
それとも、妖怪と言えども、女性の腕は引かないようになんていう何某かのガイドラインがあったのでしょうか?
いや、ただ、さっき、ジェントル妖怪さんをスルーした罰が当たっただけ?
傷心のわたしは、あちらの方で嬉しそうに腕を引かれている男性たちを横目に、会場に入っていきました。



完全自由席の座席には、もうかなりの方達が座しておられたのですが、わたしは程よく後ろの、でも割と見やすそうな席に座ることが出来ました。
悲しい出来事はありましたが、ここは気持ちを入れ替え、憧れの京極先生に思いを馳せることに。

映画の上映と、ゲストのお話が続き、いよいよ本日のメインイベント。
待ちに待った京極先生のご登場です。


司会の方が会場に拍手を促しながら、ステージの右側に設けられている出入り口を指し示しました。
でも、なんとそこには妖怪たちがいて、その中の一人(数え方合ってますか?)は、あろうことかでーんと横たわっているではありませんか。
え〜!そんなとこにいたら、踏んづけられちゃうよ〜!
わたしは、心の中で ドギマギしていました。

少しの間を置いて、出入り口にお姿を現した先生は、わたし達の拍手に応えるように軽く会釈すると会場を見渡しました。
ふわぁ〜!生京極先生だぁ!

憧れの方にようやくお目にかかれた感動に震えながらも、わたしは気になって気になって仕方がありませんでした。
だって、先生の足元には、まだあの妖怪が横たわっているのですから。

どうするんだろ?
そうドキドキしながら見守っていると……

なんと、先生、その妖怪を踏んづけてしまわれたのです。
「よいしょ」とでも言うように、先生はやけにゆっくりとその身体を踏みつけ、そして、ひょいと跨いだではありませんか。

その瞬間、横たわったままの妖怪の体は、海老のように「く」の字に反り返りました。
しかも、その時に妖怪の口から漏れた「ぐえっ」と言う声は、わたしの元にまで届いてきたのです。

出入り口に立っていた他の妖怪たちは、先生の顔と先生に踏まれた妖怪を、ちょっと焦った感じで、そして心配そうに二度見、いや、三度見しています。

先生はと言うと、ほんの一瞬だけ、見逃してしまうほどのほんの一瞬だけですが、上目遣いにそっと会場全体を見回しておられました。
わたしにはそう見えたんです。


あれは痛いな。てか、なんて凝った演出なんでしょ。
「ぐえっ」てねぇ。ねぇ、みなさん、そう思いません?
わたしはこっそり周りの人達の顔を伺いました。
そして、ハッと息を呑みました。

だって、誰も何の反応も示していないのです。
海老反りした妖怪を心配している人もいなければ、笑っている人もいない。
そして、先生もさっきの妖怪とのやり取りについて、一言も仰らない。
え?
わたしの頭の中に「?」が渦巻き始めました。
え?え?

まるで何事もなかったように、先生のお話は始まりました。
会場を埋め尽くす人達は、さっきからそうだったように、ただ先生だけを見つめています。
ほんの少し前に妖怪たちがいたところには、もう誰もいませんでした。



もう今更ですけれど、あの時のことを、わたしはあれから何度も何度も考えています。

敬愛する先生。
先生にはあの時、見えていらしたのでしょうか?
見えていて、わざと踏んづけたりなさったのですか?
何食わぬ顔をして「はて、この会場の中にこれが見えている人は誰かいるのかしらん」なんて観察してらしたのでしょうか?

確かに、コスプレ妖怪さん達の中に、本物が一人や二人(あ、一体二体の方が正解?)紛れこんでいたとしても不思議はないような……。
なんだかそんな気さえする午後でした。

って言うか……
先生。
あの日のあれは、本当に先生だったのでしょうか?
妖怪が化けた先生……
いやいや、まさかそんな訳はありませんよね?
え?ないですよね?ね?

いくら考えても考えても答えは届く訳もなく、こうしていたずらに時だけが過ぎてしまいました。



夏だから、怪談ってことでもないのですが……。
長年のわたしの疑問、ここに残しておくことにしました。

こんな「不思議」も、この甘いりんご飴と一緒に消化できるでしょうか?
いや、無理か?(笑)

だから……
「教えて、京極先生」
あの日の あれは いったい何だったのですか〜!

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