不完全な家に暮らすこと
旅行に行くときに、いつも見るもの。
それは「建物」です。
しかも人が作った跡があるものが好き。
「建築が好き」というと少し違う気がするので、人が住まう場所を見るのが好きということだと思う。
特に、完璧ではない家がとても好きだ。
作りかけだったり、壊れそうだったり、その中に住まう人々を見るのが好きだ。
こんなもんでいいんだなって思えて、日本に置いてきた自分の抜け殻を眺める。完璧を目指して作品を作れないなんてバカバカしい。不完全なままでいいから、さっさと作ろうと思える。
あちこち行った中で、私が好きだった国の住まいを3か国描いて、先日の作品展に出しました。
どれも「作った」跡が見られるのがとてもいい町です。
モロッコの街並み
昔からの要塞(カスバ)の眺め。
一瞬、遺跡かと思う。
でも、ミナレット(仏塔)が建っている。人が住んでいるということだ。
中に入ると、古い要塞を直しながら、人々が暮らしている。
この茶色い建物は、土と藁や動物の糞を混ぜた「アドベ」というものでできていて、日干し煉瓦の上に土壁を塗って作ってある。
イスラームなのもあって、外から見えないように窓は小さいが、レンガで作っているが故の強度の問題もあるのかもしれない。
雨や風で少しずつはがれるので、たまにアドベを塗り直す。
流れる雨で下の方が削られていることが多いが、そのくらいなら住民が泥をこねて手で補修していたりする。
中は涼しくて快適。
土の中に住まうというのが、なかなか素晴らしい。
メキシコの街並み
メキシコの家は四角い。そして平屋もたくさんある。
そしてよく見ると、平屋の上に半端な柱と鉄骨が丸見えで残っていたりする。まるで花を生けたように、何本かのワイヤーが適当な長さで刺さっている。
このスタイルはメキシコ以外でもよく見られるが、作ったあとに切るのが面倒でそのままになっているパターンもあれば、2階を作る予定で半端に柱を残しているパターンもあるように見える。
本当は2階が作られる予定だったんだろう。
そして、建物のボロボロ具合を見るに、いまだに予算の問題で作られていないのだろう。
そしてどんなにボロボロでも、自由な色でカラフルに塗られた建物はとてもかわいい。
メキシコの街並みは私が一番好きな風景である。
ネパールの街並み
ネパールの旧市街は、茶色い埃をかぶって不思議な色をしている。
元々は黄色や緑だった看板や幌(ほろ)も、茶色の奥に沈んでいまにも色が失われそうになっている。
そして、崩れかけている屋根を木材で支えたり、隣の壁に寄りかかったりしながら、お互いがお互いに依存しながらかろうじて立っているように見える。
いつかは崩れるのかもしれないけれど、それは明日ではない。
そんな風に先のことを気にしないのがネパールの古都の魅力だと思う。
野良牛と野良山羊が歩いているというおおらかさもなかなかいい。
不完全だったり、隣に寄りかかったり、なんとも愛らしい建物たち。
自分が頑なになっているときに、この風景を思い出すと力が抜けるような気がします。
まあ、このくらいでも、大丈夫だよねって。
サポート頂けましたら、際限なく降りかかってくる紙代と画材代に充てたいと思います。