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鯉のぼりに思うあれこれ


私が子供の頃、父は集落でも指折りの高い矢車をたてて、鯉のぼりを揚げた。長い丸太を営林署経由で買って、自分で矢車を付けて、庭先に立てた。そうしている父は、何だかとても嬉しそうだった記憶がある。

貧乏なれど場所はある。祝い事だ、跡取り息子生まれたぞ!景気よく揚げるぞ!みたいな感じかと。

上げ下ろしが面倒だと、祖母が笑っていたような記憶もうっすらよみがえってきた。

戦中、戦後を山村で、祖父と開拓した田畑を残され、小学生にして一家の大黒柱になり、生き抜いてきた父。当時に叶わなかった念願の鯉のぼりを、我が子のために。羨ましかったみたいな事を、言っていたような、なかったような。

庭には家族の数だけ、屋根よりずっと高く鯉のぼりが泳いでいた。
とても複雑な心境を越えて父は、家族の幸せを願ったのだろう。

各家庭で揚げられ、高く高く、空を泳ぐ鯉のぼりは、棚田の田園風景にとても良く映えた。昭和の頃の事。

時を経て鯉のぼりも、縦に飾られず、みんな横並びに大勢で泳ぐ姿が当たり前になった。個人のものもあるが、各自治体、地域の皆のものにもなった。

大きな者、力のあるものが、力の弱い者、若年者らを守り育み、主導してゆくスタイルが縦に並ぶ鯉のぼり🎏に私が持っているイメージ。

空を目指すかの様に、横並びに吊るされた鯉のぼりは、今の時代の日本を象徴する様に見えてくる。
ジェンダーレス、老若男女がフラットであれ!みたいな感じを連想させる。個性を損わずに、みんな平等、めでたし!
それでも端っことセンターに、違いはあるよ、みたいな。

良いも悪いも無いけど、1ヵ所に集められて展示される鯉のぼりに対して、令和の日本を感じる。

皐月の空。目映い新緑。田植えの季節。端午の節句。
天へ、神への感謝と祈りの象徴、それが鯉のぼりであると思っている。

今日はどこからか、笛や太鼓のお囃子が微かに聞こえてきた。祭り囃子は、神事のためにしなきゃ勿体ないぞと、空を見る。
天も地も、人も皆、健やかであれと祈る。
そんな今日の空は、とても綺麗だった。


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