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光を見送る

珈琲を飲んでいる時、足元にスッと風が触る。スマホを見ている時、視界の端を、小さな光の粒がかすめる。

それはしばらくの間、部屋の中を行ったり来たりした後、窓ガラスをスッと抜けて空へ向かうように見えた。

あぁ、今日がお別れの時ですかと、見送る。

部屋でいつも一緒に過ごす魚達は、
「おかえり!ご飯食べよう」
と、水槽の中から人を見ている。

何年間かを一緒に過ごしたある日、お別れの時が来る。
魚は、水槽の中に肉体を置くと、小さな光になって水槽を抜け出す。そして、それまでずっと見ていた大気の海を泳ぎ出す。

魚は、ご飯の係だった人の近くを泳ぎ、その人に触れてみる。人が何かしらの気配に、気づくまでじゃれてみたり、人のご飯をつついてみたり。

一通り満足すると、もっと広い窓の外へ出掛けて行く。バイバイだよ。

そして、人もまた、ガラス張りの箱の中をふらふらしている生き物だったんだねと、思ったとか思わなかったとか。

そして空を泳ぎながら、大気に溶け込んで行く。金魚でもめだかでも、熱帯魚でも、みんな小さなキラキラした光になって、すうっと空へ泳ぎ出す。

家に来てから二年以上経ったんだね。既に成体だったから、寿命かなぁ。ありがとう、一緒に過ごしてくれて。

光の粒は多分、ここ数日の間、水草の影で静かにしていためだかだろう。

気が済むまで、部屋の中を泳いでいってよ。

そう思いながら見ていた。しばらくして、光の粒が窓辺の風鈴の横を通って、窓ガラスを抜けていくのを見送った。


よろしくお願いいたします。