152.魂の夜を抜けて、カーテンを洗おう



かんちゃん(小4息子)が寝言でとてもはっきりと「いただきます!」と言ったのを聞いて、同じ寝室でうとうとしていたわたしも夫も、お互い暗闇の中で目を見合わせてから(いまの寝言?)(あれが寝言?)と言葉を交わさず確認したのち、吹き出して、声をころして大笑いしてしまった。そんなきのうの夜。

もちろん朝になって、「ねえ、なんの夢をみていたのかおぼえてる?」と彼に聞いても「おれ、夢みてないもん」という。なにかを食べる夢を見ていたのかな?それにしても、やけにはきはきした寝言だったよね!と言い合っていたら、「あ、おれ今日から給食のときに、みんなの前で”いただきます”って言う係になったんだった」というではないですか。

みんなの前で「いただきます!」って言う練習を、夢の中でしていたのかな。そう思うとなんだか胸が締めつけられた。いつでも、ちいさな胸を期待と不安でいっぱいにしながら、フルマックスで生きている子どもたちだ。


久しぶりに鶏肉とごぼうと大根の煮物をつくる。夏の台所は暑いのでなるべく火を使いたくなくて、必然的に和え物とかサラダとかになりがち。トマト切っただけ、とか。なのだけれど、急に食べたくなったのだった。

煮物を作ると、つい自分の味と母の作る煮物の味とを比べてしまう。同じように作っているのに、母の煮物の方がだんぜんおいしい。わたしが作っても、ぜったいにあの味にはならないのが、いつも不思議だ。決定的ななにかが足りない、という感じがするのだ。

でも、この鶏肉とごぼうと大根の煮物だけは、かなり近似値までいくので、たまに作る。

煮物でも作ろうかな、と思えるときのわたしは、いい感じのときだ。いい感じじゃないときはぜったいにやらない行動だから。WLPのメンバーのひとたちは毎週レポートを提出してくれるんだけど、その中に「ずっとやさぐれて元気がなかったのですが、なんと!カーテンを洗濯できるようになりました!」って書いてくださった方がいて。

そのあとに(伝わりますでしょうか?)って書いてあったんだけど、伝わる伝わる!よくわかるよ、と思いました。

今日は晴れていて気持ちがいい日だな。そうだ、カーテンでも洗っちゃおう。そんなふうに思える自分になれるって、すごいことだよね。それまでの自分だったら、いつもいる自分の部屋にカーテンが吊るされてることすら、見えない。見えていないくらいの視野の狭さとこころの重さで生きていたということなのだ。

煮物でもつくろうかな。
カーテンでも洗っちゃおうかな。
夏らしいネイルを塗ろうかな。

そんなふうにふと視界が明るく開けたとき、わたしたち女という生きものは魂の夜を抜けたことを知るのだ、きっと。


小説を、楽しく読めるようになってきたのが嬉しくって、読んだ気になっていたけれどちっとも読んでいなかった国内の作家の小説をたくさん読んでいる。読めるようになってきたから、読めなかった理由もまたわかった。

読めなかったのは、わたしが言葉と文章に対して、「それそのものの力」を求めていたから。

読めるようになったのは、わたしがそれを狂おしいまでに外部に求めなくなったから。ふつうの小説は、ストーリー性やあらすじ、つまり「起承転結」のために言葉と文章が存在する。

大事なのは、物事が動いていくことであり、登場人物たちが出会う出来事であり、そこで起こる事件であり、その事件の結末なのだ。ふつうは。

だから、そこでは「言葉」と「文章」は、そのストーリーを動かすための「ツール」として使われている。主体として力を持つのはストーリーであって、言葉と文章ではない。

その小説における「言葉」と「文章」の扱いがわたしには耐えられなくって、でもその代わりに読めたのは村上春樹と吉本ばななだったので、彼らの小説は「言葉」と「文章」が、極めて独立した力を持って語られていたからだったのだと思う。

「言葉」が呪術的な力を持って、物語を呼び寄せていく、という成り立ち(だからこそ、わかりやすい事件が起こり、わかりやすい結末が訪れない彼らの小説の世界は、映像化されにくい。映像化されたらきっとゴダールの映画のようになってしまう。あるいは岩井俊二とか)。

でも自分で自分の好きに文章を書くようになったら、なんかわりと「それどうでもいいじゃん」みたいな気持ちになった。言葉と文章で遊んだりするのは、自分でやればいいや、と。

つまり、アウトラインありきで書かれた小説も、それはそれで楽しめるようになったのです。それはわたしにとっては十数年ぶりくらいの大きな変化。


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