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今は昔。と観察者、乗客、その他いろいろ。

「さて、終わった」
 お掃除がひととおり終わりダイニングのKさんの所へご挨拶に行くと、そこにはリーフの茶葉を使いポットで丁寧に淹れられたアールグレイ紅茶が、ウェッジウッドの花柄ティーカップで湯気を上げている。

  あらがえない。

 95歳、84歳、60歳のお茶会の始まりである。
(合計239歳!!)

 いくつになっても、女子トークは楽しい。
 その話題は。

 市場の中の昔からあるたこ焼き屋さんの息子が東大に行ったとか。
 惣菜を店内で作るローソンで売ってるコロッケの試食とか。(ジャガイモの粒感があり美味しかった)
 山手の駅近くにある菓子店の「ブタの耳」というパイ菓子が美味しいこととか。
 本通りの炭火焼き鳥屋は肉が小さくて高いから、その先に新しくできた店の方がいいとか。
 今はもう無い製麺屋で売っていた餃子の皮が美味しかったこととか。
 旦那さんが残してくれた、商店街の近くにある便利なマンションにのんびり暮らしていたお婆さんが、一人娘の突然の離婚によりコブ付きで出戻りされ、部屋中に介護の手すりやらポールやらを据え付けられた挙げ句、今は介護付老人ホームに入れられてしまった話とか。……

 話題はつきない。
 山手の小学校近くの古いお堂の話が出る。そこは少し入り組んだ小路の奥にある不思議な場所。
「あそこはね、イボを取るお願いをするところでね、あそこにある小石でイボをこするの。イボが取れたら、その小石に名前を書いて、新しい石を持ってお礼に行くのね」
「海の端にあるM神社は境内の井戸の中に顔を映して、柘植の櫛で髪の毛をとくと…」
 不思議な話はまだまだありそう。

 T川の河口近くにある老舗の鰻屋は、周りに何もなくて一見民家みたいでお店に見えないけれど、古くからあって有名。
 私も一度だけ行ったことがあるが、何故か「なんでアンタみたいなのが来るの(-Д-)」みたいな顔をされた。別に高級な料亭風とかでは全然ない。ほんとに民家みたいな店。
「今は埋め立てられたから海から少し離れてるけど、あそこは昔は海の端だったから道端に舟を繋ぐ金具が残ってたりするよ」
 当時は海の端の河口で捕った鰻を出していたのだろう。
 この河口で、何年か前に、私は牡蠣を採る人を見かけたことがある。
 海につながる河口付近のセメント壁に、びっしりと牡蠣がくっついていて、それを長靴をはいた男の人が採っていた。殻はまあまあ大きいけれど、身は小指の先ほどしかないようなものだけれど、その人は一個一個牡蠣の身を剥がしては、持参したコーヒー瓶に詰めていた。
 瓶の七分目くらいは、入っていた。
 どうやって食べるのだろう?

 後日、舟の金具探しに河口まで行ってみたが、見つけられなかった。 

ここが昔の海の端だと思われる。
ここから先は埋め立て地


鰻屋のすぐそばにある旧街道・西国浜街道。
昔の旅人が元気をつけるために鰻を食べに寄ったかもしれない。今は昔の面影の無い街道だけれど、名残りとして、街道沿いに老舗の和菓子屋があったりする。



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