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7人の息子はよくても・・・~ポーランド口承文学~

 グリム童話では「7羽のカラス」と紹介されている童話。呪いの言葉でカラスに姿を変えられた兄を救うために妹が奮闘する、という話なのですが子供のころ読まれたかたも多いのではないでしょうか。
 でもですね、ポーランドではこの話をグリム童話と紹介するところと、ポーランドのマゾフシェ地方、つまりワルシャワ近辺一帯のおとぎ話として紹介する2パターンが存在します。ということで、もしかしたら(サラッと調べてみたのですがまだ決定的な資料が見つからない)この話のオリジナルは現在のポーランド地域で口承で伝えられていたものをグリムさんが書き取って世界に紹介したという可能性がなきにしもあらずです。

 さて、ふと考えてみたらこの「7羽のカラス」といい「白雪姫」(こちらもオリジナルはドイツというのが一般的ですが、それでも話自体のオリジナル性はドイツとは確定できないと言われてますね。ここらへんは、興味のある方に是非とも調べてもらいたいかも)といい、こう、なんで男の7人はあっても女の7人、姉妹の7人なんていう話を耳にしないのかしら、と文献をパラパラめくっていると気になる妖がでてきました。

 その名はズモラ。この妖に関する1960年代のポーランド東部の口承記録を二つご紹介。

 A: 昔っから、言われとったんだがな、家に7人の娘がいると1人はズモラになるんよ。そう言われてんのさ、ズモラだよ。首を絞めるのさ。ある男のところにズモラがやって来てな、首を絞めたのさ。2度目もやって来て、男の首を絞めてさ、そのあとはどうやったか知らんけど、この男はなんとかズモラをおさえつけたのさ。そんで、、、ズモラを嫁にしたのさ。その後嫁に聞いたんだよ。
 『いったい、どこから入ってきたんだ』
 嫁は、、、ええと、どうだったけね、、、あ、そうそう、この男は入り口の鍵の穴に鍵をかけっぱなしにして穴をふさいでいたんだ。
嫁がいったんだ。
『見て。ここの穴から入ったのよ』
 ズモラが家の中に入ったあと、男は鍵で穴を閉じたからしばらくの間はいっしょにいたのさ。その後しばらしくて、男が鍵の穴を閉じないでおいておいたら、ズモラはパッと逃げちまったのさ。

B: だからな、母親が7人の娘を持つと、いつだって1人はズモラになるもんなんだ。気の毒だがな。(ズモラは)夜な夜な歩き回って、(獲物を)捕まえなきゃあかん。どこかで寝込んでいる男か、時に寝台で寝ている女の首を絞めることもあったさ。寝ている女は叫ぶけど、動くことができんでね。そのあとズモラは馬小屋に行ったりするのさ。そこで馬にまたがって馬のたてがみを編み出すんだよ。
そんで上に乗って馬を痛めつけるのさ。朝、馬の飼い主が小屋にくると、(あまりの変わりように)自分の馬かどうかすらわからないんだよ。編み込まれたたてがみを解いてやらなきゃいけないのさ。あたしもさ、一度ならずとそんな目にあったんだよ。馬の毛が滅茶苦茶に編み込まれてて、解くのが大変だったのさ。

ズモラが木の下で寝ている男を窒息させているところの図
この絵はチェコとの国境近くにある町の住人が書いた図だそうです。出典は、ポーランドの民族学者、カジミェシュ・モシンスキの著書" Kultura ludowa Słowian"です。ちなみに、このカジミェシュ氏は、日本の柳田國男のような存在ですね。

 この地域では娘を7人持つと、1人はズモラという妖になるっていう俗信があるなら、この地域で7人の娘の冒険譚が生まれるのはちょっと難しいでしょうかね。
 さて、ズモラ、ズモラと書き連ねておりますが、それは一体何よ、ということで次回はズモラを解剖していきたいと思います。


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