岡崎に『広島カープ』ができる???
「みんつく岡崎」が動き始めました。「みんなでつくるプロサッカークラブ岡崎」が正式な名称です。2021年2月23日に12人の発起人でつくった任意団体で、3月28日に愛知県岡崎市の乙川河川敷で子どもたちにサッカー体験をしてもらうキックオフイベントを開きました。運営組織をつくったり、チーム名を決めたり、これから本格的に活動をしていく中で、団体名にもあるように、多くのみなさんにも仲間に加わっていただきたいと考えています。どんなメンバーが、どんなものを目指しているのか、活動を理解してもらう一助に、発起人たちの想いをまとめて数回にわたって公開します(不定期です)。
初回は、岡崎で花屋を営む加藤雄一郎さん(49)、元名古屋グランパス選手の森山泰行さん(52)、スポーツクラブ運営に詳しい坂口淳さん(54)の3人です。
■真っ赤な広島市街みたいになりたい
森山:初めて会ったときに雄一郎くんは「岡崎に『広島カープ』がほしい」って言ってたよね。たしか2年前の2019年の秋。
加藤:以前、カープの試合があった日に広島へ行ったことがあったんですけど、カープの帽子をかぶってユニホームを着た人たちがいっぱいで街が真っ赤なイメージ。みんなが同じことで熱狂できるのってすごいパワーなんだと思ってたんです。
森山:雄一郎くんはサッカーより野球派だから。
加藤:Jリーグでも静岡の磐田に行ったら、駅前商店街にサックスブルーの旗がずらーっと並んでいた。岡崎も、広島や磐田みたいになれたらいいけど、なれんわな、そんなチームないもんなって、自分の中で終わっとったんですよ。
森山:ミーティングの後に飲みに行ったんだよね。
加藤:初めてお目にかかって、グランパスで大活躍していた森山さんですから、誘っちゃっていいのかなと初めは遠慮があったんですが、今は緊張感ゼロになっちゃった。
森山:うれしいです(笑)
加藤:そうやって森山さんから、岡崎でもサッカーの市民チームをつくることができるって聞いて、それは岡崎にとってラッキーな話だと思ったんです。カープみたいに熱狂できるような状態になったら、街のパワーが大きくなって、街の経済力の向上にもつながっていくんじゃないかと。
坂口:新潟とか、Jリーグはそういう成功例はありますね。
加藤:数年前に岡崎商工会議所青年部の会長をやらせてもらったこともあって、自分の会社の経営だけじゃなくて、地域の経済発展も考えるようになった。地域が元気になれば、フィードバックして自分の商売にも戻ってくる。目先のことしか考えていなかったら、森山さんの話を聞いても、自分にはメリットがないから、って興味が沸かなかったかもしれない。
■地元市民の思いが不可欠
森山:雄一郎くんから、さらに紹介してもらって岡崎の方に会うと、みなさん真剣に話を聞いてくれるし、そういうチームがあったらいいよねと言ってくれる。縁があって2019年に岡崎に来て、ここにはJリーグのチームができるいろんな条件がそろっている、ポテンシャルが高いなあと思っていたんです。順天堂大学のサッカー部で先輩だった坂口さんが日本サッカー協会のスポーツマネジャーズカレッジで講師をされていて、サッカースクールやスポーツによる街づくりの各地の事例をご存じなので、いろいろ相談していて、そんなことをよく話しているんです。
坂口:ゴリが言うように可能性があるよね。チームを支える地域の人口を考えても、岡崎市だけで約38万人。周辺も考えると相当な規模。もっと人口の少ないところで活動しているJリーグのチームもあるから。気候もよくて年中活動ができますし、サッカーチームが活動する地理的条件は整っています。あと、外から見ると三河はJリーグのチームの空白地帯に見える。
森山:グランパスとジュビロの間ですね。交通の便もいいし、いい環境が整っている。Jリーグができて30年が経って、今や全国に57チームがある。ボクもFC岐阜にかかわったことがあったんだけど、やっぱり雄一郎くんたちのような地元の熱意というか、自分たちの応援できるチームがほしい、つくりたいという思いが不可欠です。ここが一番大事なのかもしれない。
坂口:Jリーグのチームをつくることは「シビックプライド」の醸成につながるんです。郷土愛という言葉に似ているんですけど、単に地域に対する愛着だけではなく、自分自身がかかわって地域をよくしていこうとする、当事者意識に基づく自負心がシビックプライド。かかわればより楽しいし、充実感もある。かかわり方はいろんな形があっていいんです。もちろん応援もそのひとつ。Jリーグのチームって、その象徴になり得るんですよ。
■歴史も、財政も悪くない。でも…
加藤:ボクはこの街で生まれ育っているんだけど、「岡崎大好き!」みたいな人はけっこう多いですね。市外の職場にも岡崎から通えてしまう。
坂口:街を離れずに生活できちゃう。
加藤:市の財政も悪くはないんですよ。花屋をやっていますから、それは実感としてある。歴史や伝統もある街で、NHKの2年後の大河ドラマで『どうする家康』が放映されれば、全国的に注目される。肌感覚からすると意外なんだけど、観光客もまあまあ来ているそうなんですよ。でも、なんかバラバラな感じがするんですよね。市民の心がひとつになっていなくて、パワーを生み出していない。
森山:恵まれているから変わらなくてもいいってことじゃない? 新しいものをつくらなくても満足できる。
坂口:さっき岡崎は気候的にもいいって言ったけど、冬に外でサッカーができないような雪深い街でもJリーグのチームがあって、そういうところはもしかしたら、できない期間があるからこそ、その反動でチームに期待し、バックアップするというのがあるかもしれない。
森山:グランパスは岡崎のサポーターの方が多いと聞いたことがあるなあ。愛知県には絶大な人気を持つプロ野球のドラゴンズがあるから、それを応援すればいいのかな。
加藤:たしかに大勢のファンがいるけど、ボクのなかにはどっかに、あれは尾張、っていう気持ちがあるんですよ。ボクらは三河なので。「3英傑」って言いますけど、織田信長と豊臣秀吉は尾張、徳川家康は三河で、国が違うという感覚がどっかにあるんですよ(笑)
森山:やばい。おれは岐阜出身だから討たれちゃう(笑)
加藤:いやいや、森山さんにはなんか自分と似たところを感じていますから。
■今のうちに街をもっと元気に
森山:尾張と三河の話はともかく、グランパスもドラゴンズも岡崎の人たちにとってはちょっと遠い存在なのかもしれないよね。試合をエンターテインメントとして楽しむことはできても、選手とふれあうことは少ないだろうし。でも、岡崎にJリーグのチームができたら身近に接する機会が増えて、「マイチーム」「おらがチーム」になるんじゃないかなあ。
加藤:カープとドラゴンズを比べると、カープはやはり「市民球団」という感じのところに魅力を感じます。岡崎の「悪くない」という状態がずっとこのまま続くとはかぎらないし、今のうちにもっと街を元気にしたいという気持ちです。康生通は今よりもっと元気がよかったんですよ。デパートがいくつかあったし、流水プールもあって、それが冬はスケートリンクになってた。めちゃくちゃ楽しかったですよ。夜になると街なかで踊っている人がいたりして。森山さんに見てもらいたかった。
坂口:そうした記憶が残っているうちになんとかしたいよね。
森山:市内にもしサッカースタジアムができてホームゲームを開催するたびにお祭りみたいな感じになったらすごいよ、きっと。「みんつく岡崎」が動き始めて、オレは今、岡崎を日本一盛り上がる楽しい街にしたいと思ってる。
《プロフィール》
加藤雄一郎(かとう・ゆういちろう) 株式会社花徳代表取締役。1971年8月、岡崎市若松町生まれ。羽根小、南中、三河高(現校名は愛産大三河高)出身。父親が創業した花徳を継ぎ、「フラワーショップ HANATOKU Riverside」「花のデパート花徳」を営む。2017年度に岡崎商工会議所青年部会長、2019年度に岡崎市青年経営者団体連絡協議会(青経連)の会長を務める。2021年秋予定の家康行列で徳川家康役に決まった。
森山泰行(もりやま・やすゆき) サッカー元日本代表FW。1969年5月、岐阜市生まれ。東京・帝京高、順天堂大を経て1992年に名古屋グランパスエイトに入団。ベンゲル監督時代に途中出場で高い得点率を誇り「スーパーサブ」として活躍。J1ではリーグ戦通算215試合出場で66得点。1998年にはスロベニアの強豪ヒット・ゴリツァでもプレーした。2005年には東海社会人リーグ2部だったFC岐阜に加わり、2008年にJリーグ昇格。2014年から5年間は埼玉・浦和学院高校監督でユース年代を指導。2019年からJFLのFCマルヤス岡崎に所属。愛称ゴリ。
坂口淳(さかぐち・あつし) 株式会社AS代表。1966年7月、東京都生まれ。順天堂大サッカー部で森山選手が1年次の4年生。2004年から日本サッカー協会のマネジメント人材養成講座 JFAスポーツマネジャーズカレッジ講師、2007年から同カレッジのダイレクター。各地でスポーツ施設の開発やスポーツによる街づくりに取り組む。近年のテーマは地方での「スポーツ×農×アート」