フラゴナールの思い出
先日こちらの記事でグラースにある3大香水メゾンについて紹介したが、その中の一つフラゴナールの石鹸やシャワージェルは、南仏のホテルでアメニティとして用いられていることも多い。
(↑フラゴナールのインスタグラムより)
あの南仏らしいパッケージが洗面所に置いてあるのを見つけるとテンションがあがる。
かくいう私も最初の出会いは初めて南仏を旅した時に訪れたマントンのホテルでだった。
ここから先はフラゴナールの香りそのものよりも、フラゴナールとの出会い含むマントンの思い出について書いている。
フラゴナールという製品や香りが旅に強烈な印象を与えた訳ではないのだが、淡い記憶の中で漂う香りやパッケージの色彩は、旅のイメージと切っても切り離せない重要なパーツで、それで文章の方も香りの紹介単体でなくて、旅の景色と抱き合わせで描くことにした。
興味のある方は、まあ紙上の南仏旅行にでも出かけて見るかなというつもりで読んでもらえたら、と思う^^
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マントンは地中海沿いにある海辺の街で、イタリアとの国境に位置する人気の観光地の一つで、ジャンコクトー 美術館やレモン祭りで知られる。
初めてマントンを訪れたのは学生の時、初の海外一人旅だった。
春休み期間中の3月、ロンドンに留学中の友人を訪れた後、青く輝く地中海を思い描いて胸を高鳴らせながらニースの空港に降り立ったというのに、空は曇り。
ロンドンよりは当然暖かかったが、湿気が多く、頭がぼうっとするような気候だった。以後、滞在中の一週間は同じような調子、拍子抜けしたような天気が続く…
南仏について間も無く、慣れない異国の地での疲労と不安からか、風邪をひいてしまった。
ホテルで寝ているわけにもいかず、かといって無理もできず、ふらつく体でローカル列車に飛び乗り、当てずっぽうに下車した一つがマントンだった。
マントンの駅に降りたった瞬間、辺りはそれまでの他の街とは異なる、静けさと平和さに包まれていた。
南仏はどこの街ものんびりしていたが、ニースは大都市でごみごみとし、ガラの悪そうな人たちもいて怖かった。一方リゾート地カンヌはオフシーズンで閑散として人気がなく、うら寂しかった。
マントンもオフシーズンには変わりないが、地元の人々がのんびりと生活を営んでおり、そこに安心感を感じ取ったのだろう。それまでずっと張り詰めていた気持ちが、ふいに緩んだ瞬間だった。
海辺の遊歩道にずらっと並ぶテラス席でオレンジーナを注文したり、小さな聖堂を訪れたりしながら、ようやく憧れの南仏にやってきたんだ、という思いをかみしめることができた。
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海辺から少し上がったところにある中世の要塞だったエリア(旧市街)を散策した後、戻る途中に雲間から夕方の光がふいに顔を出し、家の塀から出でいる鈴なりになったレモンを黄金色に照らし出していた。
その少し先では青色のチェックスカートをはいたおばあさんと、赤いカーディガンを着たおばあさんが腕を組みながら、ぼちぼちと坂を下っていた。
街での何気ないシーンの数々がやけに印象深く感じ、もう少しここにいたいと、その日はマントンに一泊することにした。
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観光のメインエリアに戻り、雰囲気の良さそうなホテルを見つけた。白を基調にした、こじんまりとしたかわいらしい部屋で、体調がよくなかったので、静かな部屋で休めると思うとほっとした。
このホテルにアメニティとして置かれていたのがフラゴナールの石鹸とシャワージェルだった。ブルーリビエラという水色の背景にピンクのサンゴが描かれているパッケージは、パステルカラーや南仏っぽいデザインが大好きな私をたちまち魅了した。
石鹸はマリン調の淡い優しい香りで、外箱の色彩と相まって、「ああ今南仏にいるんだ」と旅の気分を一層に盛り上げてくれた。
二人部屋に一人で泊まったので、残りのアメニティを持ち帰り、長いこと大切に保管し、時折眺めたり、香ったりして楽しんでいた。
その2年後、初めてパリでマレ地区をぶらついていると、フラゴナールのブティックに行き当たり「あ、あの時の店だ!」と瞬時に胸がときめいた。
店内は広く、たくさんの香りや製品が美しく飾られていたが、マントンの思い出から、瓶にサンゴが描かれた水色のオードトワレ「ブルーリビエラ」を購入した。その後何度か引っ越したが、ブルーリビエラのボトルは南仏の海岸で拾った貝殻とともに、何年も部屋に飾られていた。
ブルーリビエラは一言で言ってしまえば、よくあるマリン調の香りで、当時学生だった私ですら、子供用とか、中学生が好きそうなキャラクターグッズなどが置いてあるお店にありそうな「おもちゃの香水」を連想していた。
かといって不快な感じはなく、時折つけては南仏の潮風をまとったような気持ちで外出した。わりと好きな香りだったが、オードトワレなので香りが長持ちしないことは少し物足りなくなく思っていた。
記憶の中の香りを辿っていくと、最初にシトラスやラベンダーのようなの鼻を刺すようなさわやかさがあって、徐々にマリン調の甘さがでて、最後は飴みたいな甘さが残る…ようなイメージだったような。
と思ったのだが、調べてみると、トップは海水、金木犀、ミドルはジャスミン、ローズ、スズラン、ライラック、ラストはアンバーとムスクのようだ。
一番最初に感じるすっきりとした印象はシトラスでもラベンダーでもなかったのか;^^
こうしてみると、海の香りを花で表すって不思議だな…と思う。
このサンゴのパッケージのシリーズは女性用で、現在販売されておらず、かわりに同名で男性用の香りとして売られている。こちらはトップにベルガモットやイタリアンマンダリンなどが使用されているもよう。
(↑フラゴナールのインスタグラムより)
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フラゴナールの香りの特徴は南仏の植物をインスピレーョンにした、自然な優しさだと思う。
例えば、同じく南仏のハーブや自然を売りにしているロクシタンとで、バーベナのシャワージェルの香りを比べてみると、ロクシタンは素材の香りを強調してはっきりと香るの対し、フラゴナールの香りは丸みを帯びている…とでも言おうか。素材そのものを打ち出すのでなく、素材を再解釈したやや抽象度の高い香りのように私は思う。同じバーベナでもモチーフの捉え方や表現に両社の個性の違いが現れていて、面白い。
パリでの再会からさらに数年後、フラゴナールの卵形のラベンダーの石鹸をもらって、衣類の引き出しの中にいれておくといいよ、と教えてもらったこともある。下着類を入れた段に一緒にしまっておくとパウダリーな甘さが布にうつって、毎朝慌ただしく取り出す度にほっとやすらぐことができた。
そんな丸みがあってマイルドなフラゴナールの香りは、南仏の曇りの日々とよくまざり合い、朧げな記憶の中で独特の淡さをともなって、ふわふわと漂っている。
ブルーリビエラの香り(成分)については以下のサイトを参考にしました
https://www.noteolfattive.it/it/detail/bleu-riviera-di-fragonard/11928/
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