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Z世代のキャリア観と採用基準の変化で米国企業が変わる

 米国の若い労働者の間で「Lazy-Girl Job(怠け者の仕事)」という新たなキャリア観が現れており注目を集めています。Lazy-Girl Jobとは自宅で仕事が可能で上司も厳しくなく午後5時に必ず終わる年収が6万ドルから8万ドルの仕事を指します。Lazy-Girl Jobは一見するとネガティブな印象を与えると思いますが、この背景にはポジティブなメッセージがあります。それは自分の時間を大切にし、過度な労働から自由になることを目指すというメッセージです。
 Lazy-Girl Jobはコロナ・パンデミック後の「生活と仕事の曖昧な境界線」を描きなおすZ世代の最新表現であり、少し前まで話題になっていた「Quiet Quitting(静かな退職)」の後に続くトレンドとして注目されています。このLazy-Girl Jobが流行する流れはZ世代の新たなキャリア観を示しており、企業としてどのようにうまく付き合っていくべきか、重要な示唆を与えています。
 米国企業は景気後退の懸念が高まるとレイオフや大量解雇を繰り返してきました。これらを繰り返すたび、社員のモチベーションが低下、士気の低下が起こります。米国企業はスキル重視の採用を行ってきましたが、最近は人柄で採用を決めるところが出てきました。人柄採用とは候補者の学歴や経験・スキルよりもその人の性格や価値観・考え方・コミュニケーション能力などの「人柄」を主な採用基準とする採用手法です。企業文化やチームとのフィット感・将来の成長性など長期的な視点で採用を行う企業にとっては有効な方法とされています。
 米国企業は新卒枠を設けず、即戦力を求めてスキル重視の採用を行ってきました。現在のAI革命で仕事のスキルは今後、AIに代替されると言われています。しかし対人スキルやコミュニケーション能力は当面、AIに代替できないと言われています。企業が人柄採用に踏み切る背景にはAI革命後の世界があるのです。スキルはいずれ陳腐化します。職場の雰囲気を盛り上げる、対人スキルの高い人を採用したほうが企業の成長発展にとってむしろ良いと考えるようになってきました。そのため、人柄採用をするソフトウェアがあり、企業はこれを利用し候補者の性格を診断します。
 Z世代は前の世代をみて学習します。自分の時間や心身の健康、第三者を犠牲にしてまでお金を稼ぎ、名声を得ることは虚しいことだと感じるようになりました。仕事を3つ掛け持ちしてもギリギリ家賃を払えるぐらいの物価高になっている状況で、バリバリ稼いで消費しまくる生活が果たして自分の幸せなのか、頑張り続けるだけがすべてではないと考え、提示された価値観がLazy-Girl Jobなのです。社会的に成功している人を見ても実は親のコネや世襲がある現実や超富裕層の資産が100億ドルから1000億ドルに増えているのに労働者の環境は変わらないどころか悪化している事実をZ世代は見ています。そうした理不尽な格差社会がSNSを通じて浮き彫りにされ、自分たちは搾取されている側だという自覚がこの理不尽な構造を変えようと連帯して突き動かしているのです。
 人手不足から労働者が就職先を選べる売り手市場から若年層の働き方は変わってきています。長い人生、仕事でしか幸せを感じられないのはとても危うい。燃え尽き症候群になって空っぽになってしまったり、体を壊すほど働き詰めになってしまう前に自分の幸せにフォーカスし仕事への向き合い方を考えるようになったのは良い兆候です。実際、大企業に勤めていることが勝ちで高所得者が成功者とは必ずしも言えません。働き方を人と比べず、人生における幸せについて個々人が自分で考えるのは自然の流れと言えます。今後、企業はこの価値観に対応していくことで企業自体が変わっていかなければ企業は人材獲得競争で生き残ることはできません。

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