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EV戦線に変化あり

 アメリカのバイデン政権は、2021年8月に新車販売に占める電気自動車(EV)の比率を2030年までに50%に引き上げる目標を掲げました。しかし、2024年3月20日には、新車販売のうち普通乗用車に占めるEVの比率を2032年までに67%とするとしていた従来の目標を35%に引き下げました。EVの普及が遅れる分、エンジンとモーターを併用するハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)を活用して二酸化炭素(CO2)排出量を削減します。EV販売の減速を受け、当初案のようなペースでEVシフトを進めるのは困難との判断に傾いたようです。
 調査会社マークラインズによると、22年7~9月の米国におけるEVの販売台数は20万8000台と前年同期比で70%以上も拡大しましたが、1年後の23年7~9月は同49.5%増、10~12月期は同39.9%増まで鈍化しました。対照的にHVは、それぞれ同80.1%増、同68.2%増と大きな伸びを記録しました。
 米EV最大手テスラのイーロン・マスクCEOは1月24日に開いた投資家向けの決算説明会で、「我々は成長の波のはざまにいる」との現状認識を示しました。同社の販売台数の推移を見てもEV鈍化は見て取れます。23年4~6月は前年同期比83%増の販売台数を記録しましたが、続く7~9月は同26.5%増、10~12月は19.5%増と鈍化の一途をたどっています。そして、今年1~3月の納入台数は前年同期比で8.5%減と4年ぶりの減少を記録しました。市場は先行きを懸念し、テスラの株価は5%下落しました。
 ガソリン車に比べて価格の高いEVは新しいもの好きの富裕層を中心に受け入れられてきました。複数の車を保有する富裕層はEVが多少不便でも比較的寛容に受け入れます。ただ1台の車を日々の移動の足として使う大衆の場合は事情が異なります。EVの航続距離への不安や充電インフラの不足といった課題は容易には受け入れられません。「既に富裕層向けの需要は一巡しており、足元では一般の人が徐々にEVを利用するようになっていました。そこで不満が一気に噴出したのです」。自動車業界の関係者はこう指摘します。
 3月27日に開幕した「ニューヨーク国際自動車ショー」では、1年前はEVの新型車が目立っていましたが、今年は少なく、代わりに日韓自動車メーカーがガソリン車やハイブリッド車の新型モデルを披露しました。EV市場の成長が減速するなか、各社が商品アピールの重心を「EV一辺倒」から「バランス重視」に変更した様子が見られました。現代自動車は米国市場でのEV拡大に最も力を入れている外資メーカーのひとつですが、今回の目玉はEVではありませんでした。現代自動車の幹部は「EVの将来性は揺るがないが、すべての消費者のニーズにこたえる必要がある。HVやPHVを手ごろな価格で選ぶことができる」と説明していました。
 米国のEV市場は成長の減速感が高まっています。「アーリーアダプター」と呼ばれる新しいもの好きの富裕層にいきわたって急成長に陰りが見えたうえ、米政権が最大7500ドルのEV販売補助金の条件を厳格化し、メーカーは価格競争力の高いEVを投入しにくくなっています。各社ともEV普及の旗を降ろしていないものの、3月下旬に米国政府が32年のEV普及目標を引き下げ、排出ガス規制の達成にHVとPHVを役立てることも認めました。数年を要する車の開発計画は簡単に変わりませんが、今回、日韓勢の出展内容は米国政府のEV方針の変化に沿ったものになりました。

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