中国の半導体国策ファンドは半導体過剰生産の幕開けか
中国政府は半導体産業に投資するため3440億元(約7.4兆円)と過去最大規模の第3号ファンドを立ち上げたことを明らかにしました。ファンドは米国が中国に向けた半導体や関連技術の輸出規制を強める中で打ち出されました。
筆頭株主は財政省で出資比率17%です。そのほか大手国有銀行や上海市・北京市・深圳市など地方政府系投資会社が株主に並びました。2014年に設立された第1号ファンドの資本金は約1000億元、2019年の第2号は約2000億元で今回は大幅に増額しました。
コロナ禍においてDXの必要性が急速に高まりこれまで中国に依存してきたサプライチェーンの見直しが急務となり欧米を中心に国策として半導体産業の強化策が打ち出されています。半導体はあらゆるものに使用され社会基盤の米となっています。
中国の半導体国策ファンドはこれまでファーウェイのスマートフォン向け半導体製造を受託するSMICやメモリー大手のYMTCなど130件以上の案件に投資してきました。これらの企業はファーウェイ同様、米国による先端半導体の禁輸対象となっており影響を受けています。
ファーウェイは現在、先端半導体を搭載した最新スマートフォンや人工知能(AI)向け半導体販売を増やしており、地元の半導体メーカーとの連携も強化しています。第3号ファンドの投資先は不明で今後どのような方針で投資を進めるか注目されます。
半導体支援をめぐっては米国政府やこれに協力する日本や韓国・欧州連合なども兆円単位の投資を進め、それぞれ関連産業の育成を強化しています。中国の習近平指導部はハイテク分野の「自立自強」を急いでおり半導体分野の米中競争はより激化しそうです。
先進国を中心に政府が半導体産業へ多額の支援をしています。米国や日本では半導体生産拠点の建設などにGDP比0.2%程度の補助金を供与しています。EUでも同様の支援策を行っています。コロナ禍やウクライナ問題などで半導体の生産・調達が途絶したことを受けて供給網の再編が急務となっており各国政府は生産・開発拠点を自国に誘致しています。半導体は様々な製品に利用され軍事技術の発展にも欠かせないことから惜しみない支援が実施される傾向です。
こうした政府支援は関連企業の設備投資を誘発しています。自国の企業だけでなく、海外企業の誘致も活発になっています。内外の関連企業は政府支援を活用しながら半導体工場等への多額の設備投資を計画しています。2021年から2023年にかけて公表された企業の設備投資計画額を集計すると米国で39兆円、欧州と日本でそれぞれ10兆円です。日本や米国はGDP比で1-2%に上る規模です。こうした計画は既に実行されており、関連の建設投資が急増しています。今後もこうした設備投資が増加する見込みです。
世界一の生産大国である中国は今回の半導体投資ファンド設立によって半導体生産能力がさらに急増し世界の半導体市場が過剰供給になるリスクが高まりました。中国はEVの自動運転を急速に普及させ米国の焦りを誘発しています。世界一のEV大国である中国は自動車産業を自国ブランドEVで世界制覇を目論んでいると思われます。半導体生産能力を背景に今後輸出にも力を入れていくはずです。日米欧も自国の自動車産業を保護し対抗する動きをしていると思いますが、半導体については技術や補助金だけでは不十分です。十分な人材育成と確保、半導体が使用される最終製品需要の確保をしておかなければなりません。自由貿易により需給バランスが崩れれば意図せざる在庫が急増するリスクがあります。一段の供給力拡大は半導体価格を大きく下押しする公算が大きくなります。これにより半導体市場の調整が長引き、投資費用の回収が遅れ関連企業の経営が悪化する可能性があるので注意が必要です。