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米大学スポーツ選手の労組加入で賛否

 米名門私立ダートマス大学のバスケットボール男子チームの選手が労働組合に加盟しました。有力な学生チームの活動は米大学の主要な収入源となっています。これまでも選手への報酬支払を巡る議論がありましたが、今回、米労働関係法の施行機関が同大選手を大学の「従業員」と認め、労組加盟に道が開けました。なお、大学側は反発し、当局に判断取り消しを求めています。
 米政府の独立行政機関として労働関係法を施行する全米労働関係委員会(NLRB)は、2月、労使関係を主張するダートマス大学バスケットボールチーム選手の訴えに対し、「選手の活動は学校に利益をもたらしており、大学側と既に金銭以外の報酬を通した雇用関係が存在する」と判決を発表し、これまで大学スポーツの選手を「従業員」と認めてこなかった従来の方針を転換しました。大学スポーツ選手に連邦労働法に基づく団体交渉権が認められ、ダートマス大選手の労組加盟投票の実施につながりました。
 ダートマス大学のバスケットボールチームの加盟は、選手15人の投票で可決しました。ダートマス大学従業員の労組「国際サービス従業員労働組合(SEIU)ローカル560」に加わります。労組加盟を主導した選手は米TVネットワークNBCの取材に対し、「大学の名を冠するチームでプレーするのはフルタイムの仕事に等しく、大学に雇われて他の仕事で働く学生と立場は変わらない」と主張し、チームでの活動に対する賃金の支払いやプレー中に発生したけがの治療費について、自己負担を軽減する医療手当の提供などを要求の焦点に挙げました。
 米国では大学チームが競うカレッジ・スポーツの人気が高く、大学にとって試合放映権やチケット販売、サポーターの寄付金などが大きな収入源となっています。ダートマス大学は米国東海岸の名門私立8校「アイビーリーグ」のひとつです。同大バスケットボールチームは、プロ選手の登竜門とされる全米大学体育協会(NCAA)の最高レベルのリーグ「ディビジョン1」に所属しています。TVネットワークへの放映権販売などによるNCAAの2022-23年の収入は13億ドル(約1950億円)でした。一方、NCAAは学生選手への給与支払いを禁止しており、学生選手の搾取に当たるとの批判がありました。
 今後、選手と大学の労使関係の有無を巡り、法廷闘争に発展する可能性がありますが、今回のNLRBの判断の影響が他のNCAA加盟校や大学スポーツ全体に広がりかねないので、大学スポーツ業界が行方を注視しています。米国のバイデン政権は労組支持を打ち出しており、米国では労組の活動が活発化しています。昨年は33件の大規模ストライキが発生し、全米自動車労組(UAW)が自動車大手から大幅な賃上げを勝ち取るなど実績を上げて存在感を高めました。
 大学選手の86%が貧困家庭出身で、選手の保護、福利厚生や練習条件の改善など利益分配を公平にすることで多くの選手側にメリットがあると主張しています。一方、大学側は州立と私立、メジャースポーツとマイナースポーツ、選手やジェンダーなどの格差を反対理由に挙げています。一般へのアンケートでは55%が大学選手の労組加入に反対しているとのことです。米国の大学スポーツ選手の労組加入で賛否が論争を呼んでいますが、メジャースポーツが大きなビジネスとなっている以上、当該選手やスポーツ界全体にとって何が一番大事なのかを考えて改善に向かってほしいと思います。また、日本の大学スポーツや企業は米国ほどではないにしろ、利益を稼ぐほどのスポーツや企業で当該選手や従業員が何も得られないというのはおかしいと思いますので対岸の火事と捉えず、労組について考えることは意味があるのではないでしょうか。

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