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SalesforceのCRM革命は本当か

 クラウドベースの顧客関係管理(CRM)と営業支援(SFA)ソフトウェアを手掛ける米国のSalesforceの株価が29日の時間外取引で一時約16%下落しました。第2四半期の売上高は最大8%増の92億5000万ドル(約1兆4600億円)の見通しで予想通りとなれば売上高伸び率は四半期として上場企業となったこの約20年で初の1桁台となり過去最も低調となります。業界が人工知能(AI)ツールにシフトする中で同社が存在感を維持できるかどうか懸念が高まっています。
 CRMはCustomer Relationship Managementの略で顧客との関係を管理するシステムを指します。顧客との関係性・コミュニケーションを管理し情報の一元化で業務の効率化やデータの属人化の防止、顧客満足度の向上につながることを目標としています。AI搭載型CRMは人間の思考回路と同じようにひとつの情報を多段的に学習する「深層学習」が可能です。そのため理論的な情報だけでなく人間の感情まで分析できるといわれています。顧客の気持ちに寄り添った営業活動ができると顧客の定着化や顧客単価の向上といった効果を期待できます。CRMのデータ管理は専門知識をもった人材の確保が必要となります。ユーザー企業はその人的資源が問題とアンケート調査に回答しています。しかしAIにCRMをゆだねることで管理の手間が省けると同時に専門知識が不要で誰でも顧客管理ができるとされています。
 SFAはSales Force Automationの略で営業支援システムのことです。SFAは営業活動において商談開始から受注までの進捗状況を可視化するとともに作業の自動化により営業支援を行います。営業活動では商談だけではなく書類作成や顧客へのメールといった定型業務が多数発生します。こうした定型業務をシステムが自動化することで営業活動の効率化を期待できるとされています。SFAは営業活動全体をサポートする一方でCRMは営業活動の一部である顧客管理を担うという点が異なります。AI搭載のSFAが広く普及していますが、営業活動の履歴や商談の進捗状況・取引先の情報をもとに受注につなげるための最適なアプローチを提案します。また、営業活動の成果を高めるためのマーケティング調査においてAI搭載型SFAは膨大なデータを分析したうえで推論を行います。このようにAI搭載型SFAは人間に代わって高度なデータ分析及び提案を行い、営業活動の効率や受注率を高めるとされています。
 MAはMarketing Automationの略で顧客情報の収集や分析、見込み顧客の育成といったマーケティング業務を自動化するシステムです。MAの導入で顧客一人一人のニーズをつかんだアプローチが可能になります。MAにAIを搭載することで「高精度なレコメンド機能の実現」「配信タイミングの改善」といった効果がもたらされます。MAに搭載されたAIが顧客の購買・閲覧履歴などの情報を分析したうえでレコメンド商品を顧客に提案します。その結果、リピート率や顧客単価の向上が期待できるのです。また、顧客の購買タイミングや配信メールの開封時刻に基づいてAIが判断した最適なタイミングで顧客へ配信を行います。こうした配信タイミングの改善によって購買率が高まるはずとされています。
 シンギュラリティ(Singularity:技術的特異点)とはAIが人間の能力と同等以上になるとされる臨界点のことです。シンギュラリティを迎えるとそこからAIは自分で進化するようになり人間の能力をはるかに超えていくことになります。シンギュラリティという言葉にはもはや後戻りができなくなるという含みがあります。1980年代からAI研究者の間ではシンギュラリティがいつ訪れるのかあるいは永遠にやってこないのではないかなどの議論が続いています。シンギュラリティ以後の世界での人間の存在価値など社会的哲学的な分野にまで議論が広がっています。シンギュラリティが起こるとされる時期については諸説ありますが2045年説が最も広く知られています。2045年にある日突然訪れるのではなく2029年から2045年の16年間にわたって進んでいき誰もがAIの演算能力のほうが人間よりもはるかに優れているのを認めざるを得なくなるのが2045年ということになります。
 農業革命・産業革命・情報革命に続く第4の社会革命がAI革命と言われています。生き延びるには積極的にAIテクノロジーに触れていくことしかありません。AIが人間の脳の演算能力をはるかに凌駕するようになると複雑だと思われていた脳の仕組みが解明される可能性があります。2014年に英国オックスフォード大学のマイケル・オズボーン氏らが発表した論文によると2034年には47%の職業が消えるという結論が導きだされました。その分岐点は自動化が可能とされる職業か人に接する仕事や創造的な職業かというところにあります。顧客と接しコミュニケーションが必要である顧客との関係性を築いていく仕事はAIに置き替えられるとは思えませんが、CRM/SFAの大手であるSalesforceをはじめ業界がAI活用を加速させているのは注目するところです。

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