米国で広がる学生デモ。要求はDivestment。
イスラエルとガザの紛争問題でイスラエルがガザに対して徹底制圧を加えています。米国の制止も聞かず、イスラエルによるガザ地区南部のラファへの本格侵攻が行われようとしています。こうした状況で全米の大学で学生デモが広がっています。日々流される映像によればイスラエルの攻撃でガザの子供たちが殺され、餓死しています。
移民国家である米国で意見も多様なため、イスラエルによるガザ攻撃に対する意見も多様です。米国の大学でデモが広がっているからといって米国全体がそうなのではないでしょう。実際、米国とイスラエルは特別な関係にあり、バイデン政権もイスラエルには自衛権があると擁護していました。背景に米国内で大きな影響力をもつ親イスラエル・ロビーへの配慮があります。しかし、民間人の被害拡大を受け、若い世代を中心にパレスチナに同情的になっています。
ガザは1993年にイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)の間で結ばれた「オスロ合意」に基づいて1994年ガザ地区はヨルダン川西岸地区とともに「パレスチナ自治区」になりました。しかし、2007年以来、ガザはイスラエルに軍事封鎖されています。
そのきっかけが2006年以降に発生しているガザ・イスラエル紛争なのです。発端は2005年に行われたガザ地区からのイスラエル撤退でした。撤退後、2006年パレスチナ議会選挙で反イスラエルを掲げる過激派ハマスが勝利し、ガザ地区の支配権を確立しました。ハマスが主導するガザ政府に対してイスラエルとエジプトは国境封鎖を実施、ガザ地区の経済は壊滅的な打撃を受けました。イスラエルは武器・デュアルユースの移動の阻止を目的として封鎖を正当化しています。
イスラエルとパレスチナの問題は2000年の歴史が積み重なってきた根が深いものがあります。20世紀に入って米国には欧州で迫害されていた多くのユダヤ人が移り住んできました。ユダヤ人がしがらみなく活躍できる広い舞台が米国にあり、そこで様々なビジネスを切り開いていくことになります。結果、政財界・学会など様々なところに影響力をもつ優秀なユダヤ人移民が多く輩出されることになりました。
大統領選挙では民主党も共和党も選挙資金を目当てにユダヤ系ロビーに気を使います。米国人口の約4分の1を占めるとされるキリスト教福音派もイエスキリストがこの世に再来するためにイスラエルを守ること必要だとしています。こうした背景もあり、米国はイスラエルに巨額な軍事援助を続けて、国家として存続できるようイスラエルの立場や治安を守ってきました。共和党はイスラエル支持、民主党もイスラエル支持ですが、イスラエル・パレスチナの和平交渉に前向きかどうかという点で温度差があり、民主党が歴史的に和平交渉支持です。
一方、エジプトとヨルダンはイスラエルと国交をもち、和平交渉を支えてきましたが、それ以外のアラブ諸国はパレスチナを支援、パレスチナ問題が解決するまでイスラエルは認められないという立場でした。ところが、トランプ政権時代に和平交渉絶望になった中でアラブ首長国連邦やバーレーンがイスラエルと国交を結びました。ハイテク産業を抱えるイスラエルとオイルマネーをもつアラブの産油国が手を組むことで新しいビジネスを成立させようとする経済的動機からでした。その後、スーダンやモロッコといったアフリカのイスラム教国も続きます。アラブの大義は崩れ、パレスチナ人は裏切りだと怒ります。
この問題は置き去りにされています。しかし、普遍的なテーマが凝縮されている問題でもあります。遠くの国で起きている難しい問題としてとらえるのではなく、人の一生とか人間の普遍的な姿を考えたときの根源的な問いをたくさん投げかける問題なのです。この問題が火種として残っているといつかまた世界に飛び火する危険があります。欧米ではこの地の問題は聖書や歴史を小さいころから学んでいますので自然と関心が向きます。
日本では一般的に関心が向きませんが、逆に言えばイスラエル・パレスチナ双方と歴史のしがらみのない状況で付き合える国であると言えます。中東をめぐって国際社会が大揺れになるときには日本も巻き込まれます。そのときにこの問題を理解していないと自分を取り巻く状況を正しく把握できません。この問題を知らずに世界を知ることはできません。
米国の大学で広がる学生デモは単なる感情だけの産物ではありません。Divestmentだと自分たちの所属する大学基金運用がイスラエル企業に投資しているから引き上げろと単に言っているだけでもないと思います。しかし、投資は影響力を持ち、発言力があるのです。多様性を重視する米国においてステークホルダーとして学生が発言することは大事なことだと思います。
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