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骨太の方針が骨太とは言えなくなっている

 骨太とは基本や根幹がしっかりしていることを意味します。校正などが粗削りでもがっしりとしていること。またはそのさまを言います。今年の骨太方針の原案や議事をみて、正直、どこが骨太なのか首をかしげるような内容でした。円安で千載一遇のチャンスとか唐突に来年から基礎収支を黒字化するという思い付きで今までの骨太方針は何だったのかと思うような議事です。
 日経の取材によると今年の骨太方針の原案は、「次世代半導体・自動運転・医療保険・リスキリング・高速道路料金・iDeCo・なりすまし広告・スマホOSの独占是正・カスハラ」とのことです。顕在化した問題を並べただけで骨太とはとても言えません。結局は米国次第、米国の金融政策次第のマクロ環境下にあるだけです。
 次世代半導体は2nmの微細化プロセスで量産技術をIBMから指導を受けて北海道で生産するということですが、何をターゲットとしているのか。ロジック半導体であればTSMCという巨人に挑むことになりますし、メモリー半導体であればサムスン電子という巨人に挑むことになります。ラストチャンスとされる日本の半導体振興政策も需要と供給の関係が見えてきません。先端半導体を使う業種をどこに定めているのか。私たちの税金を使うのであればニッチな分野であれ、何であれターゲット市場くらいは明確にしなければ骨太とは言えないのではないでしょうか。各国が半導体産業を育成・保護する方針を打ち出していますが、中国が先端半導体を含めて日本の10倍もの研究開発や設備投資にお金をつぎ込んでいますのでかつてのように過剰生産設備が世界で問題になってくるのは明白です。同じ過ちを二度と繰り返してほしくないと思うのはかつて半導体業界に身を置いた者として感じます。
 自動運転については中国がリードしています。日本が自動運転で何を差別化するのかが不明です。部品なのかソフトウェアなのか。中国が国策として取り組んでいる自動運転の分野にどのように挑むのかが不明で骨太とは言えないのではないでしょうか。安価な中国EVが世界を席巻し、日本製はどのように対抗するのでしょうか。EUや米国のように関税を強化し、自国の自動車産業を保護するしかありません。日本以外のEV車の浸透は進んでいます。日本は脱炭素の観点から自動車をどうするのかが見えてきません。日本は水素で行くのかハイブリッドでこのままいくのか世界の趨勢との乖離も気になるところです。
 医療保険については高齢化が進むなかで医療財政がひっ迫しているから高齢者にも負担をお願いしたいということではないでしょうか。高齢化社会で保険をどうするかではなく、高齢者が安心して暮らせる社会にするには仕事など雇用について切り込む必要があります。年金だけでは生きていけない高齢者が増えている中、高齢者に肉体労働を課すなど日本の雇用環境は異常な状況です。本質は日本企業に雇用するだけの稼ぐ力がないことが問題なのですが、これをどうするのか。本質を避けた議論では骨太とは言えないでしょう。高齢者はストックと年金で暮らせるように自己責任だとでもいうのでしょうか。欧州では貯金なしでも老後を安心して過ごせる国がありますが、日本は米国の後追いなので雲泥の差を感じます。
 リスキリングも雇用と関係した問題です。個人のスキルを時代にあったものに学びなおしを勧めているようですが、中間層が3か月以内に再就職できる可能性は急落しています。業務において必要な具体的なスキルを獲得することに欧米では2016年から取り組んでいますが、日本では掛け声だけです。3か月以内に再就職できる仕事がどういうものでそのためにはどういうスキルが必要なのかを明示しないと意味がありません。DXではAIやビッグデータなどのデジタル技術を使って業務フローの改善やビジネスモデルの創出を行うため、必要となるスキルをリスキリングとして新たに求める企業も出ていますが、日本では陳腐化した通信教育を勧めているだけです。日本が何で食っていくのかという骨太方針がないために場当たり的なリスクキリングになっています。
 高速道路料金についてはダイナミックプライシングの導入で混雑の緩和を図ろうとしています。ドライバー不足による運送コストの増大で高速道路まで費用がかかるとなると高速道路料金を変動制にしたところで輸送コストや物流問題の解決には寄与しません。もっと物流に踏み込んだ本質的な問題を考えるべきだと思います。以前は高速道路無料化という政策がありましたが、相変わらず官僚の老後の収入源のようになっている高速道路有料を続ける意味が本当にあるのでしょうか。
 iDeCoの拡充で老後の資産形成を後押しする狙いだと思いますが、これも本質的な議論とは言えません。高齢者を支える現役世代の数が減っていくことで公的年金だけでは高齢者は生きていけない問題をiDeCoの拡充や掛け金の上限引き上げで対策しようというのは骨太とは言えません。若年層は既に株式投資を行い貯蓄から投資へのシフトを行っていますが、現預金の多い高齢者層に株式投資を薦めるよりフローである給与所得をどのように得られるようにするのか、年齢制限の多い企業側の雇用問題を是正すべきだと思います。
 なりすまし広告については米国のテック企業が広告を収入源としているのでなかなか是正されません。政府が規制すべき問題ですが、米国政府からの恫喝が怖いのでしょうか。これが骨太とはとても言えません。米国のテック企業の収入源となっているだけのデジタル広告についての規制強化をするだけです。日本に影響のない話なのに米国が怖いから何も手を講じることができないのは情けない話です。
 スマホOSの独占是正は、どうしようもない話だと思います。OSは米国テック企業の独壇場であり、過去、ノキアやサムスン電子も挑みましたがどうにもなりません。欧州は敏感に規制を試みようとしていますが、功を奏すとは思えません。かつてトロンというOSを日本で開発したが普及しなかった原因を含め日本の弱い分野だけに独占禁止法で規制しても実態はなかなか変わることは難しいと思います。
 顧客が理不尽な要求をするカスハラ(カスタマーハラスメント)が社会問題化しています。厚労省は労働施策総合推進法を改正し、従業員を守る対策を企業に義務付ける検討を始めましたが、パワハラ同様、防止策を企業に義務付けてもなかなか根強く残っています。罰則規定がないのが一番問題だと思いますが、従業員の保護を目的とするなら罰則規定を入れるべきだと思います。罰則規定があることを周知させることでパワハラもカスハラも減っていくと思います。
 以上が骨太の方針で織り込まれると報道で伝えられていますが、これらは骨太とは言えません。枝葉の議論です。骨太とは少子高齢化社会に突入した日本をどのように存在感を世界に示すかという設計図です。設計図もなしに顕在化した問題を場当たり的に対応しているようでは骨太の方針とは言えません。新興国が豊かになっていく中で日本のGDPはインドやドイツに追い抜かれて5位に後退、その後もどんどん後退するのも時間の問題と言われています。稼ぐ力が欧米企業に比べて弱い・日本企業の持続性に黄色信号が点灯していることを考えればこれをどうするのかが骨太方針ですが、それについては一切触れられていません。政府や公務員の仕事もデジタル化が遅れており、生産性は世界一低いという状況でそこから骨太の方針は出てくるのでしょうか。

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