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EUが中国EV車に追加関税

 EUは中国から輸入されるEVについて中国政府からの不公平な補助金を受け欧州企業に損害を与える恐れがあるとして最大38.1%の関税を上乗せする方針を発表しました。中国商務省は強く反発、報復措置を表明しました。中国に輸入されている大型エンジン搭載の高級ガソリン車の他、ブランデーや乳製品などを報復関税の対象として示唆しています。中国はEUからの輸入EVに15%の関税を課しており更なる引き上げの可能性も残っています。欧州の産業にとって利益と損害が同時に起こる悩ましい事態に陥りそうです。
 中国政府当局と協議し、状況が改善されなければ中国から輸入されるEVについ既に課している10%に加え最大48.1%の関税が7月4日以降発動される見通しです。対象となるのは中国メーカーに加えて中国で製造する欧米メーカーも含まれます。
 EUは2023年10月より調査を行ってきましたが、中国から輸入されるEVが中国政府からの補助金を受け、欧州市場での競争をゆがめていると結論付けています。供給網のあらゆる段階で中国政府からの補助金を受けていることが確認され、こうした中国EV車が欧州市場でのシェアを急速に伸ばしており、欧州の自動車メーカーは価格を引き上げることができず損失を出しているとしています。
 欧州ではEVが急速に普及しています。ベルギーに拠点を置く交通分野の環境NGOの3月に発表した報告書では、欧州市場で販売されるEVのうち、中国から輸入される車の割合は欧米のメーカーが中国で生産するEVも含めて2023年は19.5%でしたが2027年には26%になると予測しています。また、中国メーカーのEVのシェアは2023年には7.9%でしたが、2027年には20%までシェアが伸びるだろうと予測されています。欧州市場で販売される中国メーカーのEVは欧州メーカーに比べて27%安いと指摘されていました。中国EVのコスト競争力は欧州メーカーと比べ30%程度高いと考えられています。特に2万5000ユーロ以下の低価格小型EVは中国勢が競争力を維持しそうです。
 中国メーカーのEVをめぐっては米国のバイデン政権が5月に関税を25%から100%に引き上げると発表していてEUの方針はこれに続くものなので中国側は強く反発しています。スウェーデンのボルボは一部のEV車種の生産を中国からベルギーに移管をし始めました。ボルボは中国の浙江吉利控股集団が親会社のため追加関税の影響が大きくなると判断したようです。
 欧州にEVを輸出する中国大手は上海汽車傘下の英国ブランドMGが最大です。浙江吉利がボルボと立ち上げた高級EV車ポールスターの他、中国EV最大手BYD、長城汽車、NIOなどがEV輸出に力を入れています。ただ足元で既に中国EVの伸びは鈍化しつつあります。4月の欧州市場での中国EV販売台数は前年同月比10.1%増でした、2023年4月の12.5%増より下がり、EV全体のシェアも9.7%と0.2ポイント下げました。
 追加関税を避けようと中国EV大手にも欧州域内生産に乗り出す動きが出ています。奇瑞汽車は4月にスペイン企業と共同でEVの製造販売に乗り出すと発表し2社で4億ユーロを投じて日産自動車の工場跡地を活用する予定です。BYDは2023年にハンガリーで欧州初の組み立て工場を建設すると表明しました。上海汽車は欧州で自動車の組み立て工場の立地選定作業を進めており近く発表するとみられています。
 中国メーカーが欧州だけで現地生産を進めることは考えにくく、世界中で現地生産を拡大する可能性が高いです。既に現地生産を進めている東南アジアや南米で一気に生産シフトを加速させています。東南アジアでシェアの高い日本車に影響は出てくると思われます。国内が景気後退で不振の中、中国企業は生産シフトしてまで輸出に活路を開くつもりです。中国EVは何が何でも世界中に低価格でEV普及を推し進めるでしょう。

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